「なぜ中華粥は旨いのか」

はじめまして!お粥研究家の鈴木かゆと申します。わたしは2020年におかゆ沼にハマって以降、メディアやSNS、webサイトなどでおかゆの魅力を伝える活動をしています。たぶん日本で唯一のお粥専門の研究家です。

国内のおかゆの食べ歩きはもちろん、香港や台湾など海外へのおかゆ旅(朝昼晩の粥+おやつに粥+つまみに粥+シメも粥みたいな変態旅行)も大好き。食べるだけでなく、おかゆを作るのも好きで、365日毎朝おかゆを作って食べています。

中華粥だけ愛されすぎ問題

そんなお粥研究家が「お粥研究家です」と名乗ったときに、よくいただくある反応があります。

「わたしもおかゆって大好きなの〜、中華粥が!」

おかゆが好きと言ってもらえてすごく嬉しいです、でも、でも、でも……!

なぜ!中華粥だけを!好きって!いうの!?!?

世界中に!おかゆがあるのに!なぜこんなにも!中華粥ピンポイント!?!?

わたしは嫉妬していました。

欧米の麦のポリッジ、ロシアの蕎麦粥、北欧のクリスマスのミルク粥、インドの豆粥、タイの鶏粥、韓国のあわび粥、そして日本の粥……世界中におかゆがあるのに、なぜ中華粥だけここまでも別ジャンルとして崇め愛されるのか。

わかりますよ、中華粥っておいしいですもの。誰が食べても一口目から「旨い!」と感じるだろうな〜って味ですもの。わたしも大大大好きです。

でも、あらゆるおかゆを愛する身としては、中華粥だけが愛されすぎて悔しかったのです。いろんなおいしいおかゆがある中で、なぜこんなにも中華粥がピンポイントに愛されるのか。何が人を惹きつけるのか。今回は、愛おしくも憎い、中華粥の旨さの根源に出会った話をシェアいたします。

*中国でも白粥が食べられていたり、地域によって多様なおかゆが存在します。ここでは細かなルーツや分析は省き、広東粥を中心とする「いわゆる中華粥」を念頭に話を進めます。

中華だしを使えば中華粥になるのか

中華粥が好きな理由をたずねると「旨味がしっかりしているから」という答えが返ってくることがあります。

確かにいわゆる中華粥は、多くの場合、出汁を使って炊き上げます。味付けもしっかりめで、一口目からおいしさをバチッと感じます。

しかし、一度試せばすぐにわかる通り、旨味を加えるだけでは中華粥にはなりません。鍋に米(ごはん)と中華だし入れていつもの作り方で炊いたら中華粥になるかというと、あくまでも中華だし風味のいつものおかゆが完成するだけで、中華粥にはならないのです。

もうひとつ「とろとろしているから」という理由も聞きます。しかし、単純に水分量を増やすだけでも中華粥にはなりません。残念ながら、シャバシャバと薄まった粥になるだけです。

旨味を足しても、水分量増やしても、何かが大きく違う。一体、中華粥を中華粥たらしめている理由は何にあるのでしょうか?

中華粥のポイントは「油」

結論です。一番のコツは「油」だと考えます。中華粥は油を使うから旨いのです。

香港で現地の先生に香港式のおかゆを教えていただいたときのこと。

ざっくりとした作り方をご紹介すると、まずは大鍋で白粥をつくり、食べる分の粥を小鍋に取り分け、メインの具として豚肉・エビを追加、塩で調味。最後にピータンが入った器に熱々の粥を注ぐ、という作り方でした。(ちなみに、中華粥でピータンなどの具が器の底に沈んでいることが多い理由は、このように先に器に具を入れ熱々の粥を「注ぐ」からなのです!豆知識。)

要は白粥+具+塩で、日本のおかゆとほぼ同じ作り方に思えませんか?

ところが、ベースの白粥を作る第一段階から、驚きの工程が!

先生「Add oil. 」

お、お、おいる?白粥作りに、オイル?

白粥作りにオイルを入れる

先生「And the porridge will emulsify.」

なるほど!emulsify!乳化ですね!

そうなのです、中華粥はおかゆを油で乳化させていたのです!

中華粥

生米を炒めたり、煮込み途中で油を加えたり、国や地域、店によってさまざまな作り方があるようですが、油がポイントであることはどうやら共通項。

豚骨ラーメンのおいしさの秘密がスープの乳化にあると語られることもあるように、本来混ざり合わないものが一体となる状態は強烈なおいしさを生み出します。お米とベース(出汁や具材からの旨味)が一体となっているわけですから。

油が入っていることが、旨い秘密の説明にもなります。

今でこそ飽食の時代とされていますが、ほんの100年ほど前まではカロリーを効率よく摂ることは生きるための必須項目。カロリーの高いものがおいしい!と感じる反応は正常であり、長い歴史の中で設計された反応が優位になって当然です。また、三大栄養素のなかでも、タンパク質・炭水化物が1gあたり約4kcalであるのに対し、脂質(油)は1gあたり約9kcalと、効率よくエネルギーを摂取できる栄養素。油は本能的に「おいしい!」と感じるようにできているのです。

そして、中華粥のお供No.1「油条(揚げパン)」との相性の良さも、そもそも粥に入っている油分が共通項となって馴染む、と考えると納得です。

さすが火の料理、中華!油の料理、中華!

本能的なおいしさがぎゅっと詰まってるのですね。

粥に油を入れると旨くなる

中華粥のおいしさの要点を「油」とする発想を転用すると、驚くほど旨い粥が簡単にできるようになります。

いつもおかゆに少量の油を入れて炊いてみてください。いちおしは、ごま油。米油、バターもおすすめです。炊飯器のおかゆモード調理でもOK。

中華粥へごま油を入れる

たとえば、たまご粥。

生米に油を絡めて、水を入れて、いつもどおりおかゆを炊きます。塩で味をととのえて、溶き卵をふわっと入れたら完成。日本のおかゆのシンプルさと中華粥の旨さが共存した、絶妙なおいしさのたまご粥に出会えます!

たまご粥

レトルト粥に少量のごま油をかけるのもおすすめです。乳化まで行かなくても、粥(炭水化物)×油(脂質)×塩という組み合わせの、本能的なおいしさに納得できるはずです。

生きるために必要な栄養素を、ちゃんとおいしく感じるようにできているって、人間って本当にすごいですね。

まとめ

旨味になり、口当たりをとろとろに仕上げてくれる油の魔法。中華粥が愛されるのには、本能的においしい!と感じる仕掛けが組み込まれていたのですね。

ひとさじの油は、わたしの普段のおかゆでも、著書『日本、台湾、韓国etc. ととのうおかゆ365日』でも、頻繁に登場する小技です。是非お試しくださいね。


【 ご紹介 】
『日本、台湾、韓国etc. ととのうおかゆ365日』鈴木かゆ、KADOKAWA、2024年

おかゆレシピ史上、初めての「無国籍系おかゆレシピ本」が誕生しました!淡々と365種のおかゆレシピが掲載されているレシピ本『日本、台湾、韓国etc. ととのうおかゆ365日』。

はじまりは、最もシンプルなおかゆ「白粥」でした。この究極シンプルな粥を起点に、さまざまな国のおかゆや、おかゆ以外のお料理からおいしさのエッセンスを抽出し生まれた創作粥も多々。おうちでできる本格派な中華粥はもちろん、世界各国の本場のおかゆの再現も掲載しています。おかゆに興味がある方もない方も、新しいおいしさと出会いをたのしんでいただけるとうれしいです!

中華粥への嫉妬から、中華粥のおいしさの秘密を知り、おいしさづくりのコツを学ぶことができました。ありがとう、中華粥。妬いてごめんなさい、中華粥。

これからも本場のおいしさの秘密を見出して、取り入れて、おかゆワールドを深めてまいります!お粥研究家の鈴木かゆでした。

Writer
記事を書いてくれた人

お粥研究家 鈴木かゆさん
鈴木かゆ

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