こんにちは、パンダワイン店長の青山です。
先日、「東京ディープチャイナ」に寄稿させていただいた「なぜ中国ワインの国際的な評価はこれほど上がったのか?」という記事について、多くの方から「読みました」という感想をいただきました。中国ワインを広める、このような機会を作っていただき、ありがとうございます。
今回も引き続き、魅力あふれる中国ワインの銘柄を紹介させていただきます。
2022年9月上旬、中国駐大阪総領事館の主催する「日中国交正常化50周年記念 中秋中華グルメフェスティバル」があり、私は中国寧夏ワイン部門の責任者として参加させていただきました。皆様ご存じの通り、中国では旧暦の8月15にあたる「中秋節」は春節に次いで大きな祝日で、家族で集まって月餅を食べます。
中秋節に大阪総領事館では、四川省などの中国各地の物産をアピールするイベントを開催し、産品のひとつとして近年品質がメキメキと国際的評価の上がっている「寧夏回族自治区産のワイン」も取り上げられることになりました。
同フェスティバルの会場で、寧夏ワインをはじめとした中国ワインについてスピーチする機会をいただきました。テーマは「21世紀のニューワールドワイン」と「中国ワインは中華料理のハオポンヨウ」というものです。
以下、その概要をお話しさせてください。
「ニューワールドワイン」とは、フランスやイタリアなどに代表されるヨーロッパワイン以外の、カリフォルニアやチリなど歴史的に新しい地域のワインの総称です。中国ワインもそのひとつで、現在ではヨーロッパワインと同様の評価を受けています。
中国内陸部に位置する寧夏回族自治区で生産される寧夏ワインは高品質で知られています。なかでも私が推しているのは「賀蘭山東麓産」のワインです。海抜1200mの賀蘭山東麓は年間降水量が200mmと、雨や湿気を嫌うブドウ栽培に最適な地であり、オーガニックな環境下で素晴らしいワインを作っています。
そして、今回私が紹介したいのは、日本未入荷の寧夏ワイン「カナンワイナリー」です。
このワイナリーのオーナーは「王方(ワン・ファン)」というドイツ国籍を持った中国華僑で、「クレイジーファン」の渾名で中国ワイン業界に知られています、寧夏ワインのパイオニアの一人であった彼女の父親の願いに応えて帰郷した彼女は、父親と同様にワインを愛し、それを知る生産者として、古い慣習を捨て去り大胆なワインを作り出しています。
「カナン(=迦南)」という言葉の由来は、旧約聖書に出てくる神がアブラハムの子孫に与えると約束したイスラエルに存在する土地の名前であり、「牛乳と蜂蜜で満たされた約束の地」という意味です。
王さんの父親も素晴らしい品質の草創期の寧夏ワインを作り出したパイオニアの一人でした。12年間にわたるドイツをはじめとした海外生活の中で欧米の高品質なワインに触れる機会が多くあり、自分たちのワインの品質は決して負けてはいないという確信を持ちました。彼女は自分の理想とするワインを作り出すために、寧夏の地を「約束された地」とし、自身のワイナリーを「カナンワイナリー」と名付けました。
11世紀に西域民族が興した西夏の時代には、寧夏ワインの重要な産地である現在の「賀蘭山」は、南北に長く連なる様子から黒い駿馬の群れに喩えられました。その故事になぞらえて「カナンワイナリー」のワインラベルには賀蘭山に位置するワイン畑を守る願いを込めて黒馬が描かれています。
日本初お目見えのカナンワイナリーの白ワインのリースリングと赤ワインのワイルドポニーをテイスティングの機会がありました。それぞれを簡単に解説します。
● リースリング
ドイツの一般的な白ブドウである「リースリング」を寧夏の地で見事な個性あるワインに仕上げました。ドイツのリースリングといえば甘口ワインで有名ですが、近年では素晴らしい辛口ワインも作り出しており、料理に合わせるためのワインとしてワイン愛好家に人気の白ワインの選択肢のひとつとなっています。
「カナンワイナリー」のリースリングは、冷涼なドイツの地とは全く異なった乾燥した砂漠地帯の個性がよく出ており、果実味が強く酸味と甘味が融合したオーストラリアのリースリングに似た複雑な味わいであり、ドイツとも違うワインを作りワイナリーの個性を発揮させるという意志が感じられる面白いワインでした。
●リトルポニー
中国では、一般に赤ワインでボルドータイプのものが好まれています。なかでも一番人気のブドウは「カベルネソーヴィニョン」です。そのカベルネを主体としてメルローや蛇龍珠(シャーロンジュウ)という中国の地ブドウを上手にブレンドし、タンニンのしっかりとしたワインを作り出しています。
クラシックなボルドータイプのタンニンの効いた長期熟成ワインは、ワインが若いうちは渋く飲みにくいものが多いのですが、近年では若飲みができる果実味が強いワインが増えています。中国の赤ワインもその例に違わず、熟成も可能ですが、若飲みができる果実味がありまろやかなワインが多いです。カナンワイナリーの赤ワインはクラシックなボルドースタイルでした。サーロインステーキなのどの肉料理と素晴らしい相性を見せそうな熟成後の成長が楽しみなワインです。
寧夏ワインの高い将来性を私は確信しています。そして「中国葡萄酒是中国菜的好朋友(中国ワインは中華料理のハオポンヨウ)」であることを知っていただけるとさいわいです。
青山宗典 Munenori Aoyama
都内で最も中国ワインの品揃えの多い(と一部で評判の)ワインショップ「パンダワイン」を文京区本駒込で経営中。2004年にワーホリで滞在したフランス・ブルゴーニュのワイナリーの仕事を通じてワインに目覚め、2008年上海人のワインインポーターに誘われ中国・上海に渡る。中国寧夏省のワインをはじめ、高品質中国ワインの魅力に目覚め、日本のワインラバーに伝えるために目下奮闘中。