沈んだ私の気持ちを持ち上げてくれた滋賀県草津の薬膳料理「趙の飲茶888」

沈んだ私の気持ちを持ち上げてくれた滋賀県草津の薬膳料理「趙の飲茶888」

私は親友のいる滋賀を定期的に訪れる。どこにいてもガチ中華を食べないと気が済まないので、滋賀でもバッチリガチ中華を楽しんでいる。今回はJR草津駅徒歩圏にある推しの薬膳料理「趙の飲茶888」を紹介したい。

初めて888を訪れたのは2023年、都会生活やコロナ禍で疲れていた時でした。

888の薬膳は単に美味しいだけではなく、沈んでいた気持ちを持ち上げてくれ、当時の私を助けてくれました。そこから888のファンになりTDCでの活動を始めた時から「このお店は紹介するぞ!」と思っていました。

そんなある日、書店で薬膳の特設ブースを見つけました。学生時代は植物学専攻だったこともあり、興味を持ちブースを眺めると、NHKドラマ『しあわせは食べて寝て待て』がきっかけで薬膳が注目されていると知りました。

ストーリーを調べてみると『病気をきっかけに仕事を辞め引っ越した主人公がそこで出会った薬膳の力で体と心を整えていく。温かい人間関係と食事を通じて、日常の中にある小さなしあわせに気づいていくお話』とのこと。ちょうど職場環境が変わり体調が優れない私に重なる部分があると感じたと同時に888の薬膳を思い出しました。

「このタイミングで888を紹介したい!」と思い取材に行ってきました。重々しい書き出しになりましたが早速「ガチ中華・薬膳編」をお送りします。

薬膳の世界へ

店主は吉林省長春出身の趙麗紅さん。薬膳の資格のみならず、中国茶アドバイザー、「和食にすと」、日本食インストラクター、ジュニア野菜ソムリエ等の食に関する幅広い資格を保有するパワフルな女性です。

同僚に振る舞った料理が好評だったことに加え「”脂っこい””ラーメン”といった中華のイメージを変えたい」「本当の薬膳を知ってほしい」という気持ちから888出店を決めたのだとか。888のオープンは17年前の2008年8月8日。ガチ中華も薬膳もマイナーな時代から本格薬膳を提供しています。

趙さんは薬膳の基本で中国の昔からの考え方でもある「医食同源」「養生」を大切にした料理を提供しています。趙さんの薬膳へのこだわりは記事の後半で深掘りをします。

店内には大量の薬膳食材があります

888で楽しむ本格薬膳

888では季節、各々の体調に合わせた薬膳が楽しめる。「薬膳に挑戦したいが、自分の体に何が必要かわからない」という方は季節に合わせた月替わりランチを注文して欲しい。季節に合わせたベーシックな薬膳メニューになっている。

今年6月の月替ランチ

今年6月の月替ランチのテーマは『春と夏の境の不安定な時期の心身を労わる』でした。

春と夏の境で天候も不安定、寒暖差も大きく、身体にストレスがかかる時期にぴったりな薬膳料理。胃腸環境を整えたり、腎機能を改善したり、免疫力を高めたりすることに重きが置かれている。

6月の月替ランチ

メニューは薬膳蒸し、シュウマイ、お粥、お粥の付け合わせと中国茶がセット。

興味深かったのが材料の効能がメニューや店内の張り紙で記載されているところだ。美味しい料理を提供するだけではなく「薬膳の世界を知って欲しい」という趙さんのこだわりが詰まっている。今回は食レポに加え趙さんに教えていただいた観点も踏まえて薬膳の世界をお伝えできたらと思います!

杜仲(とちゅう)

トチュウ(杜仲)は中国原産の高木、氷河期以前からあることから「生きた化石植物」とも呼ばれている。トチュウの葉は健康茶(杜仲茶)、葉や枝からは絶縁体や歯科用セメントになる物質が取れたりも。今月のメニューでは樹皮が使われています。杜仲の樹皮は代表的な漢方薬でもあり「腎機能の改善」「骨の強壮」「高血圧・冷性・内臓脂肪等の改善」等の効能があります。

杜仲

実際に料理に使われている杜仲の樹皮を見せて貰いました。樹皮と知らずにお店で出されたらおつまみと勘違いして食べてしまいそう笑。

この樹皮にさまざまな効能が含まれていると思うと何だか感慨深いです。漢方と聞くと独特な臭いをイメージするのですが、匂いは特にありませんでした。さて、そんな杜仲を使ったメニューが「杜仲鶏肉薬膳蒸し」。

杜仲鶏肉薬膳蒸し

鶏肉、木耳、えんどう豆、牛蒡、にんじん、キャベツ等の具材がゴロゴロ入った蒸し料理。

スープは鶏肉がベースで優しい味なのですが、単純な鶏スープとは異なり深い味わいで旨みはしっかり。自分の力不足ですが、この味を分解して言語化できません。抽象的な表現になりますが、趙さんの料理の魅力は食材、調味料のバランスが絶妙で、優しさの中に複雑で深みがありつつも味としてまとまりがある点だと思っています。

山芋

薬膳と聞くと「珍しい食材を使う」と思う方も多いかと思いますが、身近な食材にもたくさんの薬膳食材があります。山芋もその1つ。山芋の効果は胃腸を整える。食欲がない時、お腹の調子が良くない時、6月のような身体に疲れが溜まりやすい季節にはピッタリ。そんな山芋を使ったメニューが「山芋の薬膳粥」。

山芋の薬膳粥

山芋をベースとし、大ぶりの海老とえんどう豆を入った薬膳粥。

日本人が想像するお粥とは異なり、優しい味ですが旨みがあり味気なさはない。山芋が小さく切られて入っているので歯応えがプラスされて不思議とお米のベトベト感も感じない。このお粥だけで無限に食べられてしまいます。先ほどの薬膳蒸しにも登場したえんどう豆胃等の調子を整え、浮腫みやすい梅雨に合う薬膳食材だったりします。

また「お粥の付け合わせ」をつまみながら食べるのもオススメ。重箱に色々な味が詰まっています。

お粥の付き合せ

今回は「アジと新玉ネギの酢漬け」「アサリと山菜」「卵焼き」「豆もやしのナムル」「大豆の甘辛煮」「蓮根や人参の煮付け」など。この付け合わせにも補血・イライラを鎮める効果が期待できるアサリ、肌の調子を整える等の効果がある豆もやし・・・等、沢山の薬膳食材のこだわりが詰まっている。

ホタテ

ホタテ肝・胃等の各臓器の機能を高め滋養強壮、老化防止、イライラやストレス解消が期待できる食材。また食欲不振や消化不良の時にも食べやすく疲れやすいこの時期にぴったり。

今月のメニューではボリューム満点の「シュウマイ」として登場。シュウマイは大きなホタテが1つ入り生地は肉そぼろと豆腐で作られており口当たりが滑らかでぺろっと食べられます。豆腐ストレス緩和、疲労解消の効果がある薬膳食材なのでさらに効果がありそう。

シュウマイ

決明子(けつめいし)

ランチには中国茶もつきます。今月は決明子(けつめいし)、はぶ茶とも呼ばれています。血圧、肝機能の向上や眼精疲労改善、免疫向上効果などの効能があります。

店内に効能が書いてあるので、効能を感じつつ料理の待ち時間、食後の歓談に楽しむのも良いかもしれません。

決明子(けつめいし)

以上、6月の月替ランチ紹介でした。伺った話を深めつつ書いてみましたが、1つ1つの食材に意味があり、組み合わせの相乗効果等まで考慮されており興味深いなと。そしてこれだけのボリューム、新鮮食材を使い1100円!! 近所にあったら絶対常連になります。

提供は終了していますが、4月は当帰、紅豆が主役のメニューでした。身体を養生しつつ季節の移り変わりを888の月替ランチで感じるのも楽しそうですね。

月替ランチ以外にも飲茶セットや麻婆豆腐丼セット(麻婆豆腐丼、酸辣湯、温野菜)等のメニューがあります。土日朝にはワンコインの朝粥も、こちらの朝粥も季節に合わせて、常連さんが飽きないように週替わりで種類を変えているとのこと。

趙さんが創る薬膳の世界

さて、今回の取材では趙さんに料理へのこだわりを沢山伺った。ほんの一部ではあるが趙さんの薬膳への想いを紹介したい。

一人一人に向き合う

薬膳の基本は『季節や体質に合わせて食材を選んで作ること』だ。趙さんは日々の雑談や顔色等からお客様の様子や生活習慣、ライフスタイルを把握して”その日のその人”に合う料理を提供するように徹底している。今回紹介した月替メニューも、その日の気候は勿論のこと、個人に対してもアレンジを加えて提供しているとのことだ。

有名な書道家さんが書いた「養生」の文字

また「ストレスを感じさせないことも養生では大事」とも仰っていた。

食べたいものを我慢させるのではなく、食べ方や調理の工夫、例えば「辛いものが好きだけど胃が弱い人」に対しては「辛い料理だけど胃を労わる材料や調味料を使う」等の工夫をして提供するようだ。また苦手な食物を無理に食べさせるのではなく、他で補えること等を考えつつアレンジをするそうだ。個人の習慣や嗜好を否定するのではなく、個人に寄り添いながら如何に養生をして貰うかを考える姿勢には感動をした。

日本での本格薬膳

888の薬膳はガチ中華を全面に出すのではなく日本食の要素も上手く取り入れているのが印象的だった。趙さんにその旨を伝えると「”郷に入れば郷に従え”は食にも当てはまる。中国の気候、食文化をベースとした中国大陸の薬膳をそのまま持ち込んではダメ、日本の風土、気候、食文化を考慮した上での薬膳を提供しないと」と仰った。

日本食にも薬膳に近い考え方(食材の組み合わせ)があるので上手く取り入れているそうだ。日本の文化や土地と向き合ってきたからこそ前述した一人一人と向き合うことが達成されているのではないかとも思った。

最後に

執筆のため薬膳の世界に触れる中で薬膳にはカッチリと型があるのではなく、調理人に委ねられる部分が多いと知り、888の薬膳の美味しさには趙さんのセンス、想いがあってこそだと改めて思った。

また、趙さんの「徹底的に料理、そしてお客様一人一人に向き合う姿勢」に感動し、その根底には「一食一食を楽しんで欲しい」という気持ちがあると思った。

私自身は食のモチベーションが低い人間であるが、今回の取材を通して「食を意識しよう、自分の体や心を大切にしよう」と思えた。決まった料理を出すのが大半である中、ここまで一人一人の人生に寄り添ってくれるお店は中々無いのではないかと思った。今回紹介できたのは888の魅力のごく一部、趙さんの創り出す薬膳をぜひお試しあれ。

アクセス・雰囲気

お店はJR草津駅東口から歩いて5分程度、草津駅前のショッピングセンターガーデンシティ草津の近くにあります。「888」が目印。店内はテーブルが4つとカウンター席があり、一人でもグループでも入りやすい。趙さんは「料理のことは何でも説明するので、知りたいことがあれば聞いてくださいね〜」とのこと。

趙の飲茶888の店内

(文香)

店舗情報

趙の飲茶888 

趙の飲茶888

〒525-0032
滋賀県草津市大路1-2-12

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記事を書いてくれた人

沈んだ私の気持ちを持ち上げてくれた滋賀県草津の薬膳料理「趙の飲茶888」
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