今回紹介するのは板橋の住宅街にある四川料理店「香辣妹子」。池袋の友誼食府のフードコートにも出店する本場四川の家庭料理と自家製調味料を提供する店です。
私が香辣妹子を知ったのは、先日参加した在日中国人シェフ交流会でした。
お土産としていただいた香辣妹子の調味料(香辣醬)は、辣油と比べて香ばしさが強く感動しました。更に印象的だったのが、店主の王さんの存在です。中村代表と楽しそうに話す姿から、とにかく明るく、その場の空気までふわっと明るくするような雰囲気が伝わってきて「この人の料理をお店で食べてみたい」と自然に思わされました。そんな流れから、中村代表、”ふ味縁”の激辛担当のこむじゃさんと取材をしてきました。
それでは、香辣妹子の魅力を深掘りしていきます!
香辣(シャンラー)の世界
「四川料理=辛い」というイメージを持つ人も多いと思いますが、ひと口に“辛さ”と言っても、その種類はさまざまです。香辣妹子のウリは、四川料理の中でも「香辣(シャンラー)」な辛さにあります。
四川料理の辛さといえば「麻辣(マーラー)」が有名ですが、これは花椒によるしびれる感覚の「麻」と、唐辛子の辛さの「辣」を組み合わせた表現で「しびれと辛さが同時に押し寄せる刺激的な味」です。一方、香辣は「辛さそのものよりも立ち上がる香りや余韻を楽しむ味」です。香辣はより日本人が受け入れやすい辛さだと思います。
香辣妹子の香辣を支えているのが自家製・香辣醬です。香辣醬は四川省では万能調味料として知られ、唐辛子の辛さに花椒の華やかな香りが融合し、ただ辛いだけではなく、旨み・香りが高いのが特徴です。香辣妹子では、四川省・成都出身の店主が4代にわたって受け継がれてきたレシピをもとに仕込んでいます。無添加、唐辛子や花椒も地元・四川省から高品質なものを取り寄せるなど、こだわりが詰まっている一品です。

まずは香辣妹子でいただける人気の香辣醬メニューの一部を紹介します。
1. 成都肥肠酸辣粉(成都モツサンラーフン)
成都モツサンラーフンはテレビでも紹介された人気メニュー。サツマイモ粉の麺、モツ、大豆、野菜がたっぷり入ったヘルシーなメニューで健康志向の女性にもおすすめな一品です。

スープは香辣醬の香ばしい辛さに中国黒酢の酸味が重なり爽やかな味わい。サツマイモ粉の麺は日本人が大好きなちゅるちゅるモチモチ。辛味はしっかりとありますが香りと酸味が前に出るため重苦しさなく、夏にもサラッと食べられそう。
2. よだれ鶏
最近は町中華でもよく見かける、四川料理の代表格よだれ鶏。香辣妹子では自家製の香辣醤をふんだんに使った本場の味が堪能できます。

他の店と比べて香辣醤をしっかり使い、汁気が少ないのが特徴で、香辣醬の香ばしさ・旨みを最大限に生かした味付けとなっています。しっとり柔らかな鶏肉に香辣醤がよく絡み、もやし、ピーナッツの食感がアクセントとなり箸が止まりません。良質な香辣醬をたっぷり使うことで、味に一体感が生まれ、刺激がありながらもキツさを感じないのが素晴らしいと思いました。
本場の香辣醬を自宅でも!
自家製・香辣醬は香辣妹子の店頭や池袋の友誼食府で購入することができます。

私も実際に使ってみましたが、汎用性が高く、炒め物、麻婆豆腐などはもちろん、サラダ、冷奴、納豆などにもよく合いました。ほんの少し加えるだけで、料理に香りと程よい辛さが加わり料理の味が一段深くなるのが特徴的でした。
本格四川料理を味わう
香辣妹子では香辣醬を使った料理以外にも、本格的な四川料理を幅広く提供しています。味の軸となっているのは、四川省出身の店主が慣れ親しんだ味です。前述のよだれ鶏のように、日本でも知られている四川料理の本場の味を味わえるのも大きな魅力です。ここからは店主おすすめの本格四川料理をいくつか紹介します。
1. 薬膳麻辣湯(薬膳マーラータン)
日本でも大ブームとなっている麻辣湯は、もともとは四川発祥の料理。香辣妹子では、四川の家庭で日常的に食べられている“元祖”とも言える麻辣湯を味わうことができます。具材は春雨、レンコン、ソーセージ、ジャガイモ、干豆腐、うずらのたまご、エビや肉団子など、とにかく盛りだくさん。日本にもある一般的なチェーン店の麻辣湯と比べると辛味と薬膳の風味がしっかりとしたさっぱりとした味わいが特徴的でした。

四川において麻辣湯は、手軽にできる家庭料理のひとつで、冷蔵庫にある具材を入れ、ソースを加えて短時間で仕上げる「一人火鍋」のような立ち位置です。王さん曰く、白ごはんと一緒に食べるのが最高だとか。具材のラインナップは固定ですが、それはつまりお店おすすめのベストな組み合わせでいただける”間違いない”ウマさであるといえます。真っ赤なビジュアルから想像する辛さよりも濃厚な旨味が先立つ味なので、辛さがそこまで得意ではない方にもぜひおすすめしたいです。
2. 麻辣香鍋(マーラーシャングオ)
麻辣香鍋は、いわゆる“汁なし麻辣湯”。麻辣湯の味わいを、炒め物感覚で楽しめる一品です。香辣妹子の麻辣香鍋は、本場四川の味をベースにしながら、ここでしか味わえないオリジナルの仕上がりとなっています。スープがない分、香辛料の香りや辛さがダイレクトに立ち上がり、輪郭のはっきりとした味わいを楽しめるのが特徴です。

具材も麻辣湯同様にたっぷりで、自家製の腊肉など四川らしい食材が存在感を放っています。香辛料の刺激と具材の旨みが重なり合い、自然とご飯が進む一品です。この麻辣香鍋は友誼食府のフードコートでは提供されていないので、板橋の店舗を訪れた際には、ぜひ味わっていただきたい一品です。
3. 四川香腸、腊肉
前菜にもってこいなのが四川香腸、腊肉。こちらも四川の本場の味で香辣妹子で製造しています。
香腸は中国式ソーセージで、広東式の甘めの味付けとは異なり、キリッとした辛さが特徴でチョリソーのような立ち位置でしょうか。辛さで味が引き締まりお酒のつまみにもぴったり。腊肉は塩漬け肉を燻製にしたもので脂がジューシー、特に皮がカリカリと硬めなのが特徴です。四川ではこの硬めな皮が好まれるそうです。
この腊肉をアレンジした包子もおすすめです。

こちらは王さんのオリジナルメニューで、腊肉の旨み・塩味がキャベツに染み込み、素朴ながら奥深い味です。おやきっぽさもあり、香辣醬で辛味を加えて食べるのも美味しい一品です。
四川料理を堪能した後は
口直しにぴったりな中華スイーツも必食です。香辣妹子ではスイーツ好きな王さんの娘さんがスイーツを開発しているとのこと。私が中国に行くと必ず食べるスポンジケーキに肉でんぶをまぶした「肉松小貝(ロウソンシャオベイ)」も提供されておりテンションが上がりました。肉でんぶの甘しょっぱさとスポンジ部分のふわふわ感がたまりませんでした。
店主は笑顔が素敵な王平兮(おうへいし)さん
店主の王平兮さんは、四川省・成都出身。素敵な笑顔と明るい人柄が印象的な女性です。

祖父母が四川省成都でレストランを営んでおり、幼い頃から身近に料理がある環境で育ったそうです。その中で自然と料理が好きになり、食に関わる仕事の道へと進んだという。その後、シンガポールの四川料理レストランで5年間修業を積み、そこで日本に興味を持ったことをきっかけに、2005年に来日。2012年、板橋の住宅街に「香辣妹子」をオープンさせました。
開店当初は立地柄、来店客の多くが地元の日本人だったそうです。お客さんとのやり取りを通じて、日本語はもちろん、日本人の味の好みや食文化についても少しずつ学んでいったそうです。

その後、友誼食府のフードコートへ出店し、現在は飲食店営業にとどまらず、自家製調味料や加工食品、スイーツの販売も行っています。料理の軸にあるのは、祖父母から受け継いだ四川家庭の味です。ただし、それをそのまま再現するのではなく、日本人の嗜好を踏まえながら、料理や調味料を進化させているそう。「これからも、四川家庭の味、自分の味を極めていきたい」と語る王さんの言葉からは、料理に対するまっすぐな情熱が伝わってきました。
「四川料理店だからパンダ?」と安直に考えていましたが、実は王さんは筋金入りのパンダファン。お店の定休日には必ず上野動物園にパンダを見に行くほどだそうです。特に日本で生まれたシャンシャン(香香)のファンで四川に帰国をした際には「(故郷の四川に帰る時は)お父さん、お母さん、そしてシャンシャンに会いに行くの!」と笑顔でおっしゃっていたのが印象的でした。パンダ愛も含めて、好きなことに真っ直ぐな王さんの人柄が魅力的でつい訪れたくなるお店です。訪れた際には、料理の話とあわせてパンダの話題も振ってみてください!
最後に
以上、香辣妹子の紹介でした! 真っ赤な料理が続きましたが、ひとえに辛いと言っても味のベクトルは様々で食べ比べるのが楽しかったです。香辣妹子の料理はただ辛いだけではなく、旨みや香りがしっかりとあるのが魅力だと思います。
今回は王さんのおすすめメニューを中心に紹介しましたが、他にも様々な四川料理を提供しています。ぜひお店に行った際には色々と注文してみてください。
編集後記
こむじゃ
取材にお邪魔したのは12月の夜でしたが、寒風に耐えて夜の暗い住宅街を進んだ先に見えた温かい明かり(とパンダ)がこの香辣妹子でした。迎えてくれた店主の王さんは、パンダの話になると食い気味になるとても可愛らしい方です。いただいた料理はどれも間違いなく四川料理ながら、日本人の舌にもフィットするお味。決してガチ中華店が多いとは言えない板橋エリアで10年以上も愛されてきたのも納得です。辛さが苦手で四川料理を敬遠していた方にも、入門編としておすすめしたいお店です。ぜひ足を運んでみてください。
文香
本格四川料理が楽しめる「香辣妹子」、いかがでしたでしょうか。取材後には、友誼食府のフードコートにも足を運び、汁なし担々麺をいただきました。

取材中、王さんが「本場の四川料理を日本人にも楽しんでもらえるように勉強してきた」とおっしゃっていたのが印象に残っています。実際にいただいた汁なし担々麺は、辛さは控えめながら香辛料の重なりをしっかり感じられ、本場の味わいを大切にしつつ、多くの人に親しまれる一杯で、王さんのこだわりと工夫が伝わってきました。

友誼食府のフードコートを利用するのは初めてで、軽食中心のスタンドを想像していましたが、レストラン並みの充実したラインナップに驚きました。香辣妹子の料理も一部を除きフードコートで楽しむことができ、タイミングが合えば王さんが店頭に立たれています。一人でも利用しやすく、小皿提供なので、ソロ活はもちろん、ガチ中華デビューにもぴったりの場所だと感じました。実際に店内を見渡すと、中国人のお客さんだけでなく、日本人の家族連れがブランチを楽しんでいたり、女子会を開いていたりと、ガチ中華が日常に溶け込み、広がっている様子も印象的でした。ぜひ一度、足を運んでみてください。
店舗情報
香辣妹子

北区滝野川5-18-2
後日談~王さんと人生初のパンダを見に行く
取材を通して、私はすっかりパンダに興味を持ってしまった。王さん、そして王さんから伺ったパンダファンの皆さんの熱量に圧倒され、「ここまで人の心を掴む存在なら、一度は自分の目で見てみたい」と純粋に思ったのだ。そんな話をしていたところ、ありがたいことに、王さんとパンダを見に行く機会をいただいた。取材後記として王さんと行く私のパンダデビューを報告したい。
集合時間は店休日の木曜日、開園1時間前の朝8時半。「さすがに早すぎないか?」と思いつつ向かってみると、既にかなりの人。しかも、並んでいる人たちの服装はなぜか黒一色。真っ黒な服で溢れるメタル界隈に身を置く私は謎の親近感を覚える。

理由を聞くとガラス越しに写真や動画を撮る際に白い服だと反射して写り込んでしまうためだとか。パンダファンの間では黒服は正装らしい。そんなことを知らずにきてしまったが、偶然にも黒のロングコートを着用していたので一安心。
王さんから色々なパンダ動画を見させて貰いながら待つこと1時間、ついに開園。2025年時点で、上野動物園で見ることができるパンダは、シャオシャオとレイレイの双子パンダだ。

因みに上野動物園では1972年以降、15匹のパンダが飼育されており、シャオシャオとレイレイはシャンシャンの弟妹にあたります。

パンダは食後、数時間眠ってしまうことが多いため、動く姿を見るなら食事の前後が狙い目らしい。1回目の食事は開園直後とのことで、まずはレイレイのもとへ向かいました。並んでいる人たちはパンダ目当てで、園内には他にも魅力的な動物が沢山いるのに誰一人寄り道をしない。全員が一直線に「パンダのもり」へ向かう光景は、なかなかにシュールで面白かった。

初めてのレイレイとの対面、運よくにんじんを食べるレイレイと対面ができた。思ったよりアクティブな動きに驚く。パンダは笹、筍を食べるイメージが強かったが、ニンジンやリンゴも食べるようだ(因みに、シャンシャンはリンゴを食べないことで有名らしい)。食べ物は一箇所にまとめられるのではなく、色々な場所に隠されるように置かれており、それを探して食べる姿が中々にキュートだ。

見終わった直後にレイレイを再度見るために列へ。この時点で平日朝にもかかわらず60分待ち。「ディズニー並みに並ぶな・・・」と思いながら列に並ぶ。待ち時間が退屈かなと思っていたが、列の前後の人たちとの交流が生まれてパンダコミュニティが広がっていく。王さんはパンダの名前などの中国語を教えたり、中国文化について話したり、中国動画サイトの動画をシェアしたり・・・と持ち前の明るさとコミュニケーション能力で色々な方と会話を生み出していて、まるでパンダ外交大使。王さんのおかげで初パンダの私も他のパンダファンの皆さんに温かく接していただけた。
パンダトークで盛り上がっていたらあっという間に2度目のレイレイとのご対面。直前まで笹を食べている姿がちらちらと見えて「これは起きている姿が見れそう!」と期待が高まる。
そして門が開くと・・

……???

寝てる。完全に寝ている。
みんなで大爆笑。どうやらここから数時間はおやすみタイムらしい。長時間並んでも後ろ姿だけ、寝ているだけ、というのは“あるある”とのこと。「1回目に動くレイレイが見られたのは運がいいよ」と並んでいる際に言われたのも納得。とはいえ、コテンと眠る姿もまた愛くるしいので、これはこれで良し。
レイレイと別れた後は、シャオシャオのもとへ。こちらは20分ほどで入れ、笹をもぐもぐ食べるシャオシャオの姿をタイミングよく見ることができた。こちらも負けず劣らず可愛い。大満足だ。

私は午後から仕事があったため、11時半ごろに離脱。王さんはその後も一日園内に滞在し、何度もパンダを見に行くそうです。体力も情熱もすごい。

上野公園を訪れる前は「王さんが相当コアなパンダファンなんだろうな」と思っていたが、実際に話をさせていただいた方の中には、毎日通う人、週1は必ず来る人、さらには四川までパンダを見に行ったという人もいて、パンダの人を惹きつける力の強さに圧倒された。

また、皆さんと話していて強く感じたのは、シャンシャン(香香)の存在が想像以上に大きいということだ。”日本生まれ”という背景はもちろんだが、それ以上に「べっぴんさん」という評価が多かった。取材前は「どれも同じパンダでは?」と思っていたが、この日を境に何となくパンダの個体識別ができるようになり、まん丸な顔立ち、耳の形、体のフォルムなど、確かにシャンシャンは目を引く存在であり、多くのファンがつく理由が理解できた気がする。因みに、”ふ味縁”取材班のこむじゃさんのお母様もシャンシャン・パンダの大ファン。パンダの魅力を
「パンダの魅力は何といってもフォルム。子パンダの可愛さは言うまでもないですが、大人になっても短い手足のバランスがそのままで、すべての動きが可愛い。でも懸垂のような動きも軽々するし、意外とマッチョな面もある。シャンシャンは誰もが想像するパンダの姿そのままで、目の周りのぶちも綺麗な丸でバランスがいい。言うなれば美パンダ。」
と、かなり熱く語ってくれた。
そんなこんなで、私のパンダデビューは無事に終了。
私はこれまで「食」という切り口で中国や中国文化を見てきたが、パンダ界隈ではまったく別ルートから“ガチ中国”に辿り着いている。四川までパンダを見に行き、中国に返還されたパンダの情報を追うために中国のSNSを入れる・・その熱量がとにかくすごい。ガチ中華とは違うベクトルで開かれた、中国への入口がそこにはあってとても興味深かったです。
この取材の直後、シャオシャオとレイレイの返還が2026年1月下旬に決定した。ここまで読んでくださりパンダに興味を持ってくれた方は、ぜひ一度、会いに行ってみてほしい。










