コロナ禍で海外に行けないなか、日本にいながら海外旅行と同じ体験ができる方法があります。
都内に急増している「ディープ中華」の店に行くことです。
ディープ中華とは、海を渡って日本に来た中国語圏の人たちが経営し、調理している中華料理店のことです。新宿や池袋、新橋、上野などだけでなく、都心から郊外に向かう埼京線や総武線、また私鉄沿線の駅前にもあるのは、多くの人がご存知でしょう。何度か足を運んだことのある人もいるのではないでしょうか。
これらの店は、オーナーや調理人だけでなく、配膳するスタッフも、そして店に食材を降ろしている業者の人たちも、その多くは中国語圏の人たちです。彼らが提供する料理は、これまで私たちが親しんできた町中華とはまったくの別物といっていいかもしれません。
町中華は昭和の時代に店を開いた日本人が調理師学校で学んだ広東料理をベースにした中華を和風にアレンジしたものでした。
これは日本だけの事情ではなく、海外の国々でも同様です。というのは、海外で食べられている中華料理は、香港・広東料理をベースに、その土地の人々の口に合わせて現地化したローカルフードだといっていいからです。明治の開国の時代に形成された横浜中華街の成り立ちを考えれば、その理由は理解できると思います。当時、日本に来たのは南方の中国人でした。
ところが、いま東京で起きているのはまったく別の話なのです。コロナ禍にありながら、次々と都内にディープ中華の店がオープンしています。いったいなぜ?
その理由はおいおい説明していくつもりですが、おかげで私たちは、日本にいながら中国の本場の味を知ることができるようになったといえます。ここでいう本場の味とは、中国の最新の外食トレンドやさまざまな地方料理を体験できること。それは時代がもたらした新しい食のシーンの到来といえます。
こうした食のシーンを「東京ディープチャイナ」と呼びたいと思います。
背景にはいろんな事情がありますが、ひとつには日本に留学し、卒業後に都内で働く若い中国人が増えたことで、日本人客だけを相手にしなくても経営できる環境が生まれたことがあります。彼らは中国のさまざまな地方の出身者です。ディープ中華の調理人たちも、彼らの求める料理を提供し始めたというのが、「東京ディープチャイナ」の真相なのです。
現地から取り寄せた本格的な香辛料や食材を口にしたとき、これまで慣れ親しんだ町中華とは違う異次元の世界が広がっていることに気がつくはずです。そして、「自分はいまどこにいるのだろう。まるで旅をしているみたいだ」と感じるのではないでしょうか。
本サイトでは、都内に点在するディープ中華の集積街区で見つけたユニーク店とそこで味わえるおすすめ料理を中心に紹介していきます。中国の新しい食のトレンドや地方料理の特徴をふまえ、おいしく味わうためのノウハウを、なるべくわかりやすくお伝えしようと思います。
ディープ中華の店の客の大半は中国人で、一部の人気店を除き、日本人の姿はほとんど見かけません。従業員も同じで、それだけに日本語がうまく通じないこともしばしば。確かに、それでは入店しにくいでしょう。それでも、本サイトを通じて事前に料理の特徴を頭に入れておけば、海外でレストランに入るような楽しさが味わえると思います。
最後に、そもそもどうしてこんな企画を考えたかというと、ディープ中華の取材を進めたふたりが「地球の歩き方」の中国担当の編集者だったからでした。ふたりは若い頃から中国各地を訪ね、さまざまな地方料理を口にしてきました。東京で中国と同じ味に出合えることを知り、現地に行けないことも相まって、さまざまな味を求めて都内を探索することになったというわけです。それは驚きの連続でした。
これが「東京ディープチャイナ」企画の事始めです。
6月には、これまでの探索の成果をまとめた、ささやかな案内書を刊行する予定です。本のタイトルは『攻略! 東京ディープチャイナ~海外旅行に行かなくても食べられる本場の中華全154品』(産学社刊)です。
同書は、ディープ中華のどの店でも使える共通メニューとして活用してもらうことを想定し、誰でも気軽に体験できる中国の新しい食のトレンドや地方料理を写真入りで解説しています。
堅い話は抜きにして、まずはディープ中華の世界を知っていただければと思います。
(東京ディープチャイナ研究会)