延辺料理の本場、延吉の朝市食べ歩きで知る朝鮮族料理のすべて

海外旅行先のレストランで食べた料理がおいしくて、どんな食材や調味料が使われているのか知りたくなることはありませんか。そういうときは、朝市に行きましょう。その土地の人たちの胃袋の中身がすべて揃っています。

延辺料理の本場である吉林省延辺朝鮮族自治州は、中国の少数民族のひとつである朝鮮族が多く暮らす土地で、その中心都市が延吉です。朝鮮族の多くは19世紀以降、南から図們江(豆満江)を渡ってこの地に来た人たちの末裔です。

延吉の朝市は、毎年4月中旬から10月中旬にかけて、市内を流れる煙集河と参花街にはさまれた河川敷に立ちます。早朝4時半から開いて7時頃までにぎわっています。早起きして、朝の散歩がてら朝市に向かいましょう。

地元でとれた農産物や日用雑貨など、いろんなものが売られています。そこは朝鮮族の食文化を収めた博物館といってもいいのではないでしょうか。

まずは惣菜売り場。カクテキ(ダイコンのキムチ)や長ネギ、青菜、高菜、山菜などのキムチが並び、種類は驚くほど豊富です。これらがレストランでは小さな皿に置かれてテーブルにたくさん並ぶのです。

真っ赤に染まった白菜キムチですが、味つけは濃厚な韓国風に比べ、さっぱりした薄味の朝鮮風です。

地べたに置かれ、袋に入れられた真っ赤なトウガラシが量り売りされています。品質によって値段は違うそうです。延辺ではどの料理もこれだけ真っ赤に染まっているのですから、トウガラシの消費量も尋常ではなさそうです。延吉の郊外にある朝鮮風民家を訪ねると、軒下によくトウガラシがぶら下がって干されているのを見かけます。

これは「串料」と呼ばれる羊肉串など、さまざまな料理に使う調味料です。種類もいろいろです。

もうひとつの朝鮮族料理の味覚のベースとなるのはテンジャン(朝鮮味噌)です。日本の味噌に比べるとかなり濃厚で、辛みの強いもの、しょっぱいもの、甘みのあるものなど、種類も多いです。野菜にくるんで食べる焼肉に直接付けたり、チゲや鍋に使われます。

「野生五味子」というのは、一般に朝鮮五味子(チョウセンゴミシ)と呼ばれる生薬で、延辺料理にもよく使われます。漢方薬として配合され、新陳代謝を盛んにし、咳や吹き出物を鎮める効能があります。

長白山のふもとに自生する朝鮮人参はこの地方の代表的な漢方素材で、高血圧に効くといわれます。

中華料理の素材として欠かせないキクラゲは長白山のふもとで採れます。種類もこんなにたくさんあります。

これは日本海でとれたタラの干物で、地元の酒飲みに人気のつまみです。

黄色い麺はトウモロコシ麺、右の灰色の麺が冷麺です。

延辺の地酒は高粱(コーリャン)酒ですが、コーリャンだけでなく、トウモロコシやジャガイモなどからつくる醸造酒もあります。どれも度数が高そうです。

市場の中には屋台もたくさんあります。ホテルの朝ご飯もいいですが、朝市ですませるのも楽しいです。思う存分、地元グルメを食べ歩きしましょう。

延辺朝鮮族自治州は朝鮮族と漢族が集住する地域なので、両民族の食文化が混じっています。実をいえば、すでに朝鮮族の比率は3割といわれるほど、漢族化が進んでいるという実情もあります。そのため、朝鮮族料理以外にも炒め物や肉まん、油条などの中華料理の屋台もあります。

このとぐろを巻く黒い帯のようなものはスンデ(もち米入り豚の腸詰)です。見た目はちょっとグロテスクですが、これを輪切りにして食べます。

朝鮮族の人たちはお餅や餅菓子をよく食べます。中国では「餅(ビン)」は小麦粉のクレープのような料理ですが、延辺では韓国と同様「トック(떡)」と呼ばれ、もち米でつくります。ほんのりした甘みがおいしいです。

ざっと延辺料理の本場、延吉の朝市の様子を見てきましたが、東京の延辺料理の店でもこれらの食材を使った料理が楽しめます。

ところで、いまの中国の大都市では全国各地の地方料理が何でも味わえるほど、食文化のバラエティ化が進んでいます。同じようなことが、遅ればせながら都内でも起きているのが「東京ディープチャイナ」の世界といえます。

延吉のような地方都市でも食のシーンは多様化していますが、この地に特徴的なのは韓国の影響が強いことです

すでに述べたとおり、延辺朝鮮族は図們江を挟んで南に隣接する北朝鮮の咸鏡北道の人々が河を渡ってこの地に住み着いたケースが多いのですが、1992年の中韓国交樹立以降、たくさんの韓国人がこの地を訪れました。さらに、労働者として多くの延辺朝鮮族が韓国に渡りました。同じ朝鮮民族であったとしても、経済の発展段階が違ったことから、現代的な生活文化や習慣は、延辺の場合、韓国から流入してくることになったのです。当然、それは食文化にも影響します。

そんなこともあってか、延吉の人と話していると、「最近、延吉でもおいしい韓国料理が食べられるようになったから、行ってみましょう」と言われることがあります。こちらとしては、「韓国料理は珍しくないので、むしろ延吉でしか食べられない地元料理を味わいたい」と思うのですが、韓国の影響下の強い延辺の人たちにしてみれば、韓国料理が食べられることがちょっとした自慢のようです。

では、東京の延辺料理はどんな世界なのでしょう。次回紹介します。

撮影/佐藤憲一

(東京ディープチャイナ研究会)

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