2023年の私の「ガチ中華」は、大阪今里にある中国東北料理店(韓国料理店でもある)「紫金城」から始まった。
1月5日に「東京ディープチャイナ関西支部」の新年会があったのだ。参加者は関西在住の「ガチ中華」好きの面々と東京からは中村編集長と東京ディープチャイナの研究生で、大学生でもあり中国と縁が深い植田さん、そして植田さんの従妹とその友達。
東京ディープチャイナのサイト上では、よく知っている人でも実際に会うのは初めて。緊張するけれど、ここは「ガチ中華」だけでなく、中華料理への愛が半端ない紫金城の山本さんの豊富な知識爆発のトークと仕切りなれした中村編集長にまかせることにしよう。
新年会の料理は、それぞれが食べたいものを適当に注文していくスタイル。初顔合わせでもあり、それなりに緊張しているはずなのに、食べることとなると、
「私は酸菜粉(スワンツァイフェン)で」
「夫妻肺片(フーチーフェイビェン)もお願いします」
「羊肉串(ヤンロウチュアン)も欲しい」
と自分の食べたいものをガンガンあげるあたりは、さすがと言おうか(自分もだけど)。
あっと言う間に夫妻肺片、尖椒肺子(ジェンジャオフェイズ)、羊肉串、水餃子(シュイジャオズ)2種、葱油餅(ツォンヨウビン)、干煸四季豆(ガンビェンスージードウ)など、あわせて19品があがった。
紫金城さんからのサービスの豚レバー。誰もが一口食べるやいなや、思わず「おっ、うまい」の声がでた一品がこれ。
しかし、好きなものを注文するのでは、普段の宴会と変わりない。せっかくの新年会なのだからと山本さんがお正月料理を何品か選んでくれた。
まずは「扒肘子(バージョウズ)」。
いまにも崩れ落ちそうなほど軟らかく煮込まれていることが一目でわかる皮に思わず目が釘付け。コラーゲンの塊や! 山本さんがナイフを入れるやいなや、皮と一緒に肉が崩れおちた。意外なことにトロトロの皮はしつこくなく、上品なお醤油味だった。
紫金城で瀋陽出身のシェフやその家族と一緒に働きながら得た山本さんの中華料理の知識は本から得た知識とは全く異なり、厚みがある。
山本さん曰く、「扒肘子(バージョウズ)」をどうしてお正月に食べるのかと言うと、豚の前足と言おうか腕(肘)は、ものすごく力強い。豚が力強い腕でえさを掻き込む姿にあやかり、金運を掻き込もうということで「扒肘子」をお正月に食べるのだ。
ちなみに中国の干支では猪は豚になる。豚年生まれは金運がいいということで出生率があがるので有名だ。これも同じ理由。とにかくお正月はみんなで「扒肘子」を食べて、豚のように金運をかき寄せて豊かになろうじゃないかということなのだ。
そして「四喜丸子(スーシーワンズ)」。
ふんわりとやわらかい肉団子は、中のミンチ肉が非常に細かく、口当たりがいい。こちらも「扒肘子」と同じく、醤油煮込み独特の茶色ながら、食べると意外なほどあっさりした醤油味だった。
お正月料理以外のガチ中華料理は、まずは「夫妻肺片」から。
「芹菜水餃(ジンツァイシュイジャオ)」は、水餃子にしてはやや皮が薄めではないだろうか。
「蝦水餃」は蝦入りの水餃子。
「尖椒肺子」は、ふわっとした食感の肺と辣椒(尖椒)と言う唐辛子を炒めたもの。
紫金城は韓国出身の中国人(在韓華僑)のオーナーと中国東北地方出身の女将さんのお店なので、本格的な韓国料理も味わえる。「韓国式ちゃんぽん」は、すでに亡くなったオーナーのふるさとの味を伝える1品でもある。ピリリと辛味がきいており、もちもちした細麺とよくあう。
「ジャージャン麺」は韓国式の黒いみそをかけたもの。
「干煸四季豆(ガンビエンスージードウ)」は、高温の強火でからっと炒めた四季豆。
「酸菜粉」は、酸菜と呼ばれる白菜で作った東北の漬物と豚肉、春雨を炒めたもの。
炒めてもちもちになった春雨もうまい。酸菜は寒さが厳しい東北地方の人々が冬の間の野菜不足を補うために作るお漬物。酸菜なしでは暮らしてはいけない。安くて栄養があって、おいしい。厳しい気候のもとで生きる人々の生活から生まれた最高の食材だ。
酸菜を使った料理は、東北料理店ではおなじみだけれど、紫金城の酸菜は業務用ではなく、全て手作り。だから紫金城の酸菜料理はけた違いにうまい。
酸菜粉は私の一押し!
「葱油餅(ツォンヨウビン)」はみじん切りにした長ネギ入りの餅(小麦粉で作り、薄く広げて焼いたもの)はふわっとした食感。かすかな塩味でこのまま食べても、炒め物を挟んで食べても良し。東北地方は日本の影響もあり、西北部に比べ、米をよく食べる地方だと思うが、粉ものの美味しさはさすがだ。
ここで羊肉串の登場! 紫金城の羊肉串は「大阪で一番おいしい!」と山本さんの自慢の一品だ。唐辛子の味はひかえめ。羊肉は噛み応えがあってもやわらかく、脂身まで美味しい最高の肉だ。
「椒塩蝦(ジャオイエンシャー)」は、料理名の通り、塩、胡椒で味をつけて炒めたもの。
スープがわりの「疙瘩湯(グーダータン)」はすいとん入りスープのようなもの。
「魚香肉絲(ユーシャンロースー)」は細切りの豚肉炒め。
「鍋包肉(グオパオロウ)」は東北版酢豚。薄切りの豚肉に片栗粉の衣をつけて揚げたもの。東北料理を代表する肉料理だが、紫金城の鍋包肉のように白っぽい衣は珍しいのではないだろうか。
「烤饅頭(カオマントウ)」は饅頭に塩、胡椒、唐辛子をふって、炭火で焼いたもの。もともとは中国の西北部で始まった食べ方だと思われるが、簡単にでき、安くて、おつまみにもなるので全国区に広まった。紫金城のものは、表面はカリカリ、中はふんわり。
「抜絲白果(バースーバイグオ)」。「抜絲」と言えば、飴がけ。「抜絲苹果(バースーピングオ)」と呼ばれるりんごの飴がけは紫金城名物の一つだが、この日はなんと卵バージョン!
山本さんがこの点心の物語を語ってくれた。
昔、残留孤児のおばあちゃんが店に来て、(現在介護のため、中国に帰国中の)女将さんに「昔、食べた料理を作れる?」と聞いた。女将さんがその料理を作って出したところ、おばあちゃんが気に入り、お店に通ってきて、その思い出の料理を注文したそうだ。
それ以来、抜絲白果は紫金城の定番メニューになった。この話を聞くだけで紫金城が地域の人々に愛されてきた店だということがよくわかる。
今日は、お店のサービスの豚レバーのおつまみも入れると全19品がテーブル一杯に並んだ。
中国の庶民は戦乱や革命などの政治的原因や飢饉などの天災によって、満足に食べられない時期が長かった。だからこそ食べられる時は、家族、親せき一同が集まり、大いに食べ、語り楽しもうという伝統がある。
料理のお皿をこれでもかとテーブルに積み重ね、食べきれずに余らせることで豊さを確認し、食べられると言う幸福を存分に味わう。中華料理の醍醐味はやはり大人数でないと味わえないと言うことが紫金城での新年会でわかった。
店舗情報
紫金城
大阪市生野区新今里3-10-26
090-9058-1773
11時から24時。
水曜定休
近鉄今里駅から徒歩10分、地下鉄千日前線今里駅5番出口から徒歩15分