中国の中でも、南方に位置する“東洋のハワイ”といわれる楽園の地、海南島。私は実際に行ったことはないのですが、海南料理が大好き。といっても、私が好きなのは南方というよりは、“南洋”の海南料理に魅力を感じています。
今回、「東京ディープチャイナ」サイトに初執筆する「恋しいアジア」伊能すみ子です。アジアンフードの愛好家としてメディアを中心に情報リサーチやイベント活動を行っています。
そんな私が今回は、海南島にはない海南料理をご紹介します。舞台となるのは南洋の地シンガポール。初級から上級まで、ディープ南洋中華3品をお楽しみください。
■海南人がいなければシンガポール料理は廃れていた?
シンガポールの海南料理といったら何を思い浮かべますか?
その質問にだいたいの人が「海南鶏飯」と答えることでしょう(いや、思い浮かばない人も多いかな?)。
シンガポールの代表格であるこの料理は、海南島からの移民がシンガポールに土着し、広めた料理です。詳しくご紹介する前に、まずは海南料理とシンガポールの関係について知っておきましょう。
海南人がシンガポールに移住し始めたのは1800年代からと言われていますが、その頃すでに多くの中国人が貿易商や商業に携わっていたため、出遅れた海南人の働く場は領事館や富豪、レストランの料理人やサービスでした。そのうち、路上で屋台を始めたり、コピティアムと呼ばれるコーヒーショップを営むようになったりして、海南人の作る料理が現地の人たちに広まったのです。
どの国でもそうですが、元々自国にあった料理も、移り住んだ国の気候や環境、文化によって変化していきますが、多民族国家のシンガポールも同様です。イギリスの植民地、中国人の商人と地元の人との結婚、マレーやインドの食文化、様々な要素が料理に反映されています。
では、シンガポールで食べられている海南料理(シンガポール料理)には、どんなものがあるでしょう。
■【初級編】海南鶏飯
日本でも専門店があるほどに知名度抜群の海南鶏飯(海南チキンライス)。炊飯器で簡単に作れる海南鶏飯の素もあって、身近な海南料理ですね。
海南島の「文昌鶏」が海南鶏飯のルーツと言われています。料理自体は茹で鶏の中華料理でいう「白切鶏」ですが、「文昌鶏」の名で通じるほどの名物です。
シンガポールでは丸鶏を茹でて、その茹で汁で炊いたごはんと共にいただきます。ごはんを炊くときもパンダンリーフという熱帯アジア原産の香り付けの葉を一緒に炊くことで南国テイストが入ります。ふんわりと口の中でほぐれるごはんとしっとり鶏肉は、チリソース、ジンジャーソース、甘い中国黒醤油(老抽)をかけて食べるだけでまさに口福です。
実は、シンガポールには、もうひとつの海南鶏飯があるのですが、それがこちら!
海南鶏飯のオールドスタイル「海南鶏飯粒」は、ごはんがまるで日本のおにぎりのように丸くなっているのです。その大きさはゴルフボールほど。農作業中の食事だったり、売り歩くのに便利だったり、はたまたバナナの葉に包み売りやすくしたなど、なぜ丸くしたのかは諸説あります。
しかし、ひとつひとつ丸く握るのは手間と時間がかかり、そのスタイルは今では数少ない店舗でのみ提供するほどです。手間がかかるわりには、食べ方としてはかじるのではなく、ライスボールをフォークで崩して食べるのですがね(笑)
■【中級編】カヤトースト
続いては、未知なる食べ方のディープ南洋中華です。
「カヤトースト」とは、ココナッツミルクとタマゴにパンダンリーフ(この葉はめちゃくちゃ利用頻度高し)の香りを移して作った「カヤジャム」を薄切りトーストにサンドした朝食メニューです。
カヤトーストには厚めに切ったバターが挟んであって、さらに胡椒と醤油で味を加えた温泉卵にディップして食べるのです。「甘くて、しょっぱくて、まろやか」と、何とも個性的な味わいがクセになります。
それにしても、「なんで温泉タマゴ?」と思うかもしれませんが、これはイギリス式の朝食でタマゴを食べる習慣からきているとのことです。一見何ともない食べ方ですが、温泉タマゴにトーストをつけるのに慣れが必要というか、意外に緊張します(*個人的感想です)。
シンガポールにはカヤトースト専門店も多く、なかでも「ヤクンカヤトースト」は日本や中国にも進出している老舗店です。実は、同店の創業者が海南人で、1926年にシンガポールに降り立っています。奥様は南国の地で取れるココナッツを使ってカヤジャム作り、それをヒントにカヤトーストが誕生しました。
■【上級編】海南カレー飯
最後は、このワンプレートにシンガポールの食文化が凝縮されたカレーです。
まずは、ガッツリ盛られたカレーの姿に驚くことでしょう。この「海南カレー飯」は、シンガポールでは専門店や集合屋台施設の「ホーカーセンター」のストール(仕切りのある店舗)で食べることができ、地元の人たちから愛されている料理です。
このカレー飯の原型となるスタイルは、1900年初頭に路上屋台から始まりました。イギリスとプラナカン(中国からの移民と地元民の子孫)の影響を受けた海南人のシェフが始めたものです。
目の前には、野菜の炒めや肉の煮込み、揚げ物など多くのおかずが揃っています。そのなかからお好みで選んでごはんに盛ったらカレーソースをかけます。もちろん、おかずのなかには具だくさんのカレーもあって「カリーチキン」が人気です。ワンプレートで食べられる手軽な食事としても便利。
人気のおかずは、キャベツの煮込みである「チャプチェ」、とトンカツの「ポークチョップ」。カレーソースの他にグレービーソースや煮込みのタレがかかるので、ソースが皿に飛びまくったままの大胆なスタイルで提供されるのです。
カレーソースにはインドのスパイスと中国のとろみをつける調理法が融合し、おかずにはイギリスのカツレツ、中国の煮込み料理というように折衷されていて、このワンプレートにはシンガポールの文化が詰まっているといっても過言ではないかも。
残念ながら、日本ではこのスタイルのカレー飯を食べられる店は無いのですが、おかずやカレーはシンガポールレストランで食べることができます。 南洋の「海南」はいかがでしたか? 中国だけどちょっと違う、南方、南洋の料理をこれからお伝えしていきます。
店舗情報
Ya Kun Kaya Toast 新宿住友ビル店
シンガポールのコーヒーショップスタイルを東京で。練乳入りのコピ(コーヒー)をカヤトースト一緒にどうぞ。チキンライスもあります。
新宿区西新宿2-6-1
新宿住友ビル 地下1階 B-7区画
03-6258-1358
https://yakun.jp/
松記鶏飯
毎年、シンガポールに研修旅行され、現地で食べた味をメニューに反映させています。チキンライス他、シンガポール料理が豊富です。
千代田区神田司町2-15-1
パレヤソジマ102
03-5577-6883