メディアを連れて行くとすぐ記事にしてくれる羊の腿の丸焼きの秘密

こんにちは。羊齧協会(ひつじかじりきょうかい)の菊池です。

本連載ではすでに羊肉串で2話分費やしてしまいました。羊肉串については、まだまだ書けるのですが、中華の羊と言うよりは「羊肉串」のことばかりになってしまうので、このあたりで自重し、またの機会にしたいと思います。

私は北京に4年住んでいたので次に取り上げるのは、回族風羊の背骨鍋の「羊蠍子(ヤンシエズ)」か、羊のしゃぶしゃぶの「涮羊肉(シュワンヤンロウ)」か……と、考えましたが、今回はどどーんとワイルドに羊の腿の丸焼きの「烤羊腿(カオヤントゥイ)」としましょう。数ある中国羊肉料理の中で、かなりインパクトが大きいものがこちらなのです。

見た人が書きたくなる中華羊界インパクト王「烤羊腿」

まず、この写真をご覧ください。

このビジュアル。どどーんと足一本!

写真でもこの迫力なので、実物はもっとすごいのです。漫画のような羊の腿の丸焼きなので、連れて行った人が必ず写真を撮り、メディア系の人やライターは記事にするという料理です。メディアにお店を提案するとき、この烤羊腿を入れておくと、必ずと言っていいほど選択されます。

こちら、いわれを調べると、チンギスハーンが東部遠征の時に食べていた料理と言う、日本のジンギスカンの発祥伝説のようなものにぶつかりました。また、内蒙古自治区のフルンボイル市のお客さんを接待する料理などと言う記述もありますが、もともと羊肉を多くの地域で食べる中国では、羊を食べる各地でごちそうとして食べられていたもののようです。

料理名は「烤羊腿(カオヤントゥイ)」と言いますが、写真のように炭火であぶるもの、オーブンで焼いて提供するものと、様々な烤羊腿が中国にはあります。今回は、日本でよく見る「炭火であぶって食べるタイプ」を例に話を進めていきます。

豪快に見えて実は繊細、烤羊腿の世界

写真だけ見ると、生の羊の腿をそのまま焼いているワイルドな料理と思われがちですが、じつは、手間がかかる料理です。今回は、以前厨房を見せていただいた上野にある「喜羊門」の烤羊腿を例にとり、説明します。個人的にこちらの烤羊腿が一番好きだということもあります。

こちらのお店では、きちんと処理をした(余計な脂肪を切り取ったり、筋を外したり)腿の肉を、オリジナルの醤油ベースのタレに24時間漬け込んだものだけを使用しているそうで、漬け込むことで柔らかさと、ほどよい風味をつけています。

この処理が実は大事でして、この手間なくして烤羊腿は語れません。腿をそのまま焼いた方がいますが、そこまで美味しくなかったとのこと。まあ、あたりまですね。

特別に見せていただいた秘伝のタレ。漬け込んだ分がなくなったら売り切れにするのだとか。

そして、大切なのは肉。もちろん肉です。シンプルな料理だからこそ、肉の質が前面に出ます。こちらでは、スタッフと多くの肉を取り寄せ食べ比べた結果、オーストラリア産の肉を使っています。オーストラリア産は生育期間が他国より長く肉も大振りで、羊独特の良い香りも強いので採用したとのこと。

中華料理店では一般的にその時安い羊肉を仕入れて使う場合が多いので、国などにこだわりを持っているのは珍しい。転じて、それだけ肉質が味に影響するということなのでしょう。

もしかして羊料理の中で一番食べやすいかも知れない

こちらは腿ではなく背肉。これはこれで骨周りの肉が美味しい。

腿を豪快にタレに漬けこみ、それを炭火で焼く! しかも、羊らしさが自慢のオーストラリア産と聞くと「うわ、羊素人食べれないんじゃないか……」と、思う方も出てくるかもしれませんが、実はそんなことが全くないんです。

その理由はいろいろと考えられます。

  • 肉質が良く新鮮なので羊の良い部分が出ている。
  • タレに漬けこんだり、トリミング(筋や余分な脂をカットすること)したりと下ごしらえが秀逸。
  • 炭火焼なので余計な脂肪が炭で落ちる。
  • クミンやスパイスなどを使用している。

と、羊をうまく食べるための諸条件がそろっています。肉質や漬け込みタレは前出ですが、炭火焼の良い点は余分な脂肪が落ちる事。羊の香りは脂肪に集まるのです。そして、羊串の話でもお伝えしたように、クミンなどのスパイスは羊の香りと相性ばっちりなのです。

これを考えますと、初めての羊から、食に詳しい人など誰を連れて行っても満足いただける料理は実はこれなんじゃないかと思うわけです。本当に無限にどんどん羊が食べられるんですよ。

また、こちらは朝鮮族系の料理をはじめ、様々な地域の料理を出しますが、その一品料理がまたうまい。一品料理だけ食べにくるお客さんがいるぐらいなのです。

自由なエンターテインメント性が烤羊腿の醍醐味

美味しい事は力説しましたが、もう一つ伝えたいのがエンターテインメント性です。この炭火の焼台に羊の腿がドーンと来る迫力は写真を撮らざるを得ません。そして、撮影後はこのお肉をその場でカットして焼いてくれるんです!(お願いした場合。お店の状況で異なる)そして、余った部位も厨房できちんと小さくカットしてくれます。

この、「肉登場」、「お店の人による焼き」、「自分たちで焼く」という流れが、非常に楽しい。これは、経験しないとわかりません。

そして、焼き方の自由度が高いのも特徴。下味がついてるので、何もつけなくてもいいですが、卓上のクミンを振りかけて香ばしさを出してもいいですし、中華のマジックスパイスにつけて味変しても美味しいし、唐辛子ペーストをつけても。

最終的には、クミンをかけて、唐辛子ペーストをつけて、マジックスパイスをつける!なんてことも可能です。

魅惑のミックススパイスと、唐辛子ペースト。これをつけると無限に羊が食べられます。

初心者から上級者まで楽しめる。みんなの意表をつける。エンターテインメント性などを加味すると、中華系羊料理の最高峰の一つはこれなんじゃないですか??とも。

いくら文章を書いても、写真を載せても伝わらないのがもどかしいですが、百聞は一見に如かず!ぜひお店で豪快に焼き上げてください。

ちなみに、選択肢に前足。後足もあるので、お店の人の説明を聞きながらお悩み下さい。そしてウサギの丸焼きなんかも……。

店舗情報

喜羊門本店 

文京区湯島3-38-11エスパス上野広小路4F
03-3834-6667
https://kiyoumon.owst.jp/

喜羊門上野店

台東区上野2-12-1 セントラル21ビル5F
03-5826-8866
(コロナ期間中、本店は一時休業、上野店のみ営業)

Writer
記事を書いてくれた人

菊池 一弘

プロフィール

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