【関西ディープチャイナ02】大阪日本橋で食べる愛しの汁なし「油溌麺」

久々に中国の麺が食べたくなったとき、私の場合、思い浮かぶのは汁なしの混ぜ麺です。

それも手打ちの幅広麺で、辣油をたっぷりかけて食べる麺。上海風の肉絲(ロウス―)麺や広東風の雲呑(ワンタン)麺のような汁麺も嫌いじゃないのですが、どうしても汁なし愛のほうが勝ってしまいます。

辣油をかけて食べる汁なし麺は、中国の西北部ではいちばん普通の麺です。辣油だけで簡単に味が決まるので、家庭料理と言ったほうがいいぐらい。日本でこんな麺が食べられるのは、チャイニーズ中華の中でも陝西料理のお店です。残念ながら私が住む京都には、まだ陝西料理の専門店はないので、大阪の日本橋にある「西安麺荘」に食べに行ってきました。

「西安麺荘」では、その名の通り、本場西安の麺が食べられます。中国で西安といえば、麺の種類が豊富で美味しいところとして知られています。

地下鉄「日本橋」駅を降り、西安麺荘を目指して歩いていると、看板に「羊肉泡馍(ヤンロウパオモー)」の文字が見えてきました。これは素焼きの「馍(モー)」と呼ばれるパンを小さくちぎって、春雨入りの羊肉スープで軽く煮て食べる西安名物です。

ああ懐かしい! 久しぶりの西安の小麦粉料理にテンションが上がってきました。

私が注文したのは、もちろん「油溌麺(ヨウポーミエン)」。「油溌辣子(ヨウポーラーズ)」という辣油をかけて食べる麺のことで、私が食べたかった汁なし麺は、まさにこれ!

日本では汁麺が主流ですが、西安のような内陸部では汁なし麺のほうが多い気がします。西安の油溌麺、臊子(サオズ)干拌麺、牛肉菠菜麺、箸頭麺など、どれも汁なしです。

さあ、油溌麺が出てきました。

2センチ以上はある幅広麺はむちっと重く、噛むと厚い生地に歯がめりこむ感じ。注文が入ってから打つ手打ち麺なので、乾麺とは違い、生麺のような新鮮さもあります。

油溌麺の味を作っているのは、「油溌辣子(ヨウポーラーズ)」という辣油です。まろやかな辛さで、唐辛子や花椒(ホワジャオ)のジャリジャリ感も美味しく、麺にからませると西安で食べているみたい。具ももやしと青菜のみでまさに正宗(正統派)! 

陝西省や甘粛省では、麺を食べるときに油溌辣子と黒酢は必需品です。特に油溌辣子なしでは、麺の味が作れません。油溌辣子は、中国西北部の国民的調味料とも言えます。乾燥させた唐辛子の粉、草果(そうか)、花椒(ホワジャオ)などのスパイス類に葱、しょうが、にんにくなどで香りをつけて高温に熱した油を注いで、混ぜ合わせたものが油溌辣子です。

油溌辣子を作るときに一番重要なのは、油の温度だと言われています。熱した油を唐辛子に注ぐとき、高温すぎると唐辛子が焦げてしまい、焦げ臭くなってしまいます。逆に低温だと、唐辛子のうまみを十分に引き出せません。ちょうどいい温度でないと、美味しい油溌辣子を作れないのです。ちなみに油溌辣子に使う油はサラダ油、コーン油など何でもいいそうですが、陝西省では菜種油を使います。

西安麺荘のご主人が作った油溌辣子は、お店でも販売されており、一瓶600円。油溌辣子の原料となる唐辛子、花椒などは全て陝西省産のものを使っているそうです。

西安麺荘の油溌麺を見た人の中には、「これって、ビャンビャン麺?」と思う人がいるかもしれません。

日本でも流行ってきているビャンビャン麺は、西安名物の超幅広麺です。最近では輸入食品店の「カルディ」でも買えるようになり、まさに知名度はぐんぐん上昇中。実はビャンビャン麺は油溌麺の一種。細麺でも幅広麺でも油溌辣子で食べる汁なし麺なら、どれも油溌麺です。思いっきり幅広の麺とあわせた油溌麺がビャンビャン麺なのです。

この写真は西安で食べたビャンビャン麺です。幅は約5センチ。ニンジンやジャガイモなどの野菜には味はほとんどついていません。油溌辣子で食べます。

カルディで売られていた「ビャンビャン麺」。油溌辣子ではなく、オイスターソース入りのタレがついていました。

西安麺荘のもうひとつの汁なし麺は、「腊汁肉干拌麺(ラージーロウガンバンミェン)」です(この写真は、西安で食べた腊汁肉干拌麺)。

陝西料理の店なら必ずメニューには、「肉挟馍(ロージャーモー)」という中国版ハンバーガーが載っています。素焼きの馍の中に入っている豚バラ肉のトロトロ煮込みを腊汁肉といいます。紹興酒、しょうが、葱、醤油、八角などを入れた大鍋に豚バラ肉を入れ、弱火で少なくとも2時間以上煮込んで作ったものです。崩れるほど軟らかくなった腊汁肉を細かく切ります。この腊汁肉と茹でた青菜と一緒に麺の上にのっけたものが腊汁肉干拌麺です。

西安麺荘の「肉挟馍(ロージャーモー)」。素焼きのパンのような馍は、大陸のものよりやや薄め。この馍も西安麺荘で作ったもの。

腊汁肉干拌麺は、細麺ではなく、幅広麺と合わせることが圧倒的に多く、食べるときに油溌辣子をかけて食べます。

懐かしの西安の味にすっかりはまってしまい、翌週に西安麺荘を再訪問してしまいました。

今度は気になっていた「拉条子拉麺(ラーティアオズラーミェン)」を食べました。汁なしの混ぜ麺ですが、油溌麺ではなく、ぶっかけ麺です。麺と具が別々に出てきて、食べる時に具を麺にぶっかけます。

中国では「新疆拌麺(シンジャンバンミェン)」とも呼び、中国の最も西に位置する新疆ウイグル自治区に住む少数民族のウイグル族の麺料理です。羊肉か牛肉、白菜、じゃがいも、トマトなどを炒め煮にしたものを手打ち麺にかけて食べます。ラタトゥイユに似た具をかけるせいか、中国の麺なのにパスタっぽい麺です。

拉条子拉麺にかける具には、何種類かあります。白菜やトマトなどの野菜以外にミンチ肉が入ったものは「砕肉(ツイロウ)」、白菜、トマト、じゃがいもなどの基本の具を使ったものは、家庭料理風なのか「家常(ジャーチャン)」と呼ばれます。私が選んだ具は「過油肉(グオヨウロウ)」と呼ばれる肉たっぷりの野菜炒めです。ぶっかけの拉条子拉麺には、幅広麺よりも麺と具が混ざりやすい細麺のほうがあいます。

これまで西安麺荘で食べられる西安の汁なし麺を紹介してきましたが、西南部の四川省や重慶も汁なし麺をよく食べます。

この地方で一番有名な汁なし麺は、成都の担担麵と重慶の小麺(汁麺バージョンもあり)です。どちらも麺の底に辣子油と呼ばれる辣油がたっぷり入っています。油溌辣子とは違い、辣子油はしびれるような辛さが特徴。

作り方は油溌辣子と同じですが、使っている唐辛子の粉、花椒、花椒油など、どれも油溌辣子よりも辛味も刺激も強いものが使われています。日本人の場合、辛さ控えめで注文しても相当辛い担担麺や小麺が出てきますが、大汗かきながら食べる辣子油の美味しさに目覚める人が少なくありません。

これは重慶で食べた小麺です。重慶や成都で食べられるねっとり重い食感の麺と辣子油は相性抜群。

拉条子拉麺はさておき、油溌麺やビャンビャン麺、担担麺のような汁なし麺が好きという人は、結局のところ辣油好きなのでは? 辣油の美味しさをしっかり味わうためには、汁なしのほうがいいからではないか、私はそんな気がしています。

西安麺荘は、汁なし麺が好きで辣油も大好きという人にぴったりのお店です。西安出身のご家族が経営するお店なので、西安の食堂といった雰囲気。奥さんは、以前は阿倍野の中華料理店で刀削麺を打っていた方ですが、今はご主人が麺を打ち、息子さんが料理担当しています。私が訪れた5月はコロナ禍でもあり、毎日打つ麺の量は3~4キロとかなり少なめでした。

新型コロナが落ち着いたら、西安の定番朝ごはんのひとつである「胡辣湯(フーラータン)」を作りたいそうですよ。大阪日本橋の西安麺荘で、手作りの油溌辣子と汁なし混ぜ麺の美味しさを思いっきり堪能してみませんか!

店舗情報

西安麺荘

大阪市中央区日本橋1-3-17 
06-4256-1412
※最寄り駅は地下鉄千日前線日本橋駅

Writer
記事を書いてくれた人

浜井 幸子

プロフィール

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