涮羊肉

火鍋とは別物、池袋「東来順」の羊のしゃぶしゃぶ「涮羊肉」は奥深い

こんにちは。羊肉を普及させようと消費者主導で活動している羊齧協会の菊池です。

鍋の季節到来。羊肉串に続いて鍋の話をしようかと思います。

最近、メディアで「火鍋大人気!」の記事を結構見るようになりました。

しかし、涮羊肉(シュワンヤンロウ)の記事はほとんどない。調べてクリックしてみたら自分の記事だったりして……、ここは、まとめねば!と思い、今回は涮羊肉でいきたいと思います。

涮羊肉は冬の中国北方の料理です。考えると、北京の裏路地に冬に漂う石炭のにおいまで思い出すくらいの、冬の風物詩なのです。

もともとは涮羊肉のことを「火鍋子」と呼んだりしていましたが、火鍋と涮羊肉はまったくの別物です。

涮羊肉が北京の回族(イスラム教徒)が始めた老子号(老舗)なのに対し、火鍋は重慶で発達した新しい料理となります。大きな違いはスープで、火鍋は麻辣味。涮羊肉はお湯か、薄い味のスープの場合がほとんどです。

シンプルで奥深い涮羊肉の世界。

どんな裏路地の店でも火鍋を出す昨今ですが、20年前の北京の裏路地の食堂では、冬は鍋と言えばこの「涮羊肉」でした。

涮羊肉
涮羊肉は飾らない庶民の冬の味でもある

ほぼ味のない薄いスープ(正統派はただのお湯)に申し訳程度に棗(ナツメ)や枸杞(クコ)などの中国スパイスが浮き、そのスープに、白菜の漬物である「酸菜」や春雨や羊肉を入れ、濃厚なゴマダレにつけて食べる料理でした。

北京に住んでいた20歳前後のときは「こんなもんか」的な感想しかありませんでした。刺激的でわかりやすい火鍋に比べると渋すぎたんでしょうね。しかし、冬になると食べたくなってくる謎の魅力のある鍋でした。

起源はフビライハンの野戦料理?


中国の伝統料理には必ず逸話がつきものですが、涮羊肉で登場するのが元王朝のフビライハンです。元寇で日本侵略を試みて失敗した人として、日本人なら大体の人が知ってる人ですね。

この方が、南方に戦争に行ったとき、料理人が薄切り羊肉をお湯でボイルしたものを料理として出したところ、大変御意にかなったという伝説がもとになっているそうです。ありそうでなさそうな伝説ですが、羊を主に煮て食べていたモンゴルでは、薄切りを煮ることは無きにしも非ず……だとは思います。

ちなみに、ジンギスカンとチンギスハーンの伝承は、日本人の後付けですのでご注意を。これは、昭和初期に作られた創作でして、モンゴル人は肉を茹でるので焼きません(以前までは)。

独特の鍋には、このように七宝をあしらった豪華な物もある

この涮羊肉ですが、北京在住の日本人の間でも人気の料理となり、終戦後引き上げて来た方が、関西で手に入りやすい牛肉で再現したものが「牛肉の水炊き」として広まり、永楽町スエヒロという料理店が「しゃぶしゃぶ」と商標をとったことが日本のしゃぶしゃぶの始まりと言われています。

涮羊肉の作法。あの鍋はなぜ?

しゃぶしゃぶ鍋にもその名残がありますが、涮羊肉の鍋は独特の形をしています。写真を見ていただいた方が早いですね。

この、真ん中の筒の中に炭がぎっしり入っていて、絶えずお湯が沸騰する形になっています。どんどん具を入れても温度が変わらず、羊肉を数回くぐらせただけでいつでも食べられます。

大人数で鍋を囲むことが多い中国らしい。温度の調整は煙突の先に付いているふたを開け閉めして調整と言うざっくりとしたものです。

涮羊肉に欠かせない物は??

まず挙げられるのはもちろん「羊肉」。手切りの薄切り肉と、冷凍させスライサーでスライスしたロール肉を使います。

手切りの肉は食感を楽しみ、ロール肉はスープやタレとの絡みを楽しみます。よく「冷凍肉が!!!」とロール肉のことを言う人がいますが、冷凍しないと薄切りは出来ませんので、薄く切るためにわざと冷凍させる場合もあるぐらいなのです。

ロール肉は薄く削るため、羊肉は凍らせてからスライサーにかける

肉は一番おいしいと言われるのが「肩ロース」柔らかく癖のない部位で脂と赤身の具合が丁度良い。また、もも肉も赤身肉の旨さがあり火を通しすぎると固くなりますが、

さっと湯に通すと最高に美味しい。

この涮羊肉に欠かせないのが「酸菜」という酸っぱい白菜の漬物。そして、にんにくの甘酢漬け、焼餅という、ごまをふった中国パンです。これらは羊肉が必ず出て来るのと同じぐらい、涮羊肉にはつきものなのです。

酸菜。白菜と塩とお湯だけで作るシンプルな漬物

中でも最初、焼餅はよく理解できませんでした。なんで、鍋にパンが……と。しかし、慣れてくると焼餅がないと寂しくなるので不思議なもんです。

焼餅は涮羊肉とは切っても切れない関係

薬味を楽しむのも涮羊肉の醍醐味。

涮羊肉にはたくさんの薬味がつきもの。いま流行の火鍋の大量の薬味に比べればかわいいものですが、涮羊肉には「ゴマダレ、豆腐の麹つけ、ニラの漬物、ネギ、しょうが、にんにくのみじん切り、香菜」などお決まりの伝統的な薬味がつきものです。鍋を食べ進めるに従い薬味で味を変えて食べ進めていくのも、醍醐味のひとつです。

薬味で味を変えながら食べてくのも涮羊肉の醍醐味

シンプルで、伝統的な鍋料理「涮羊肉」。

火鍋ばやりの昨今ですが、ぐるっと回ってこのシンプルさがたまらなくおいしく最近、感じます。わかりやすく旨味が強いものが多いご時勢ですが、たまに「旨すぎる!」と感じる場合があり、あっさり淡白だけど、そこはかとない旨さがある「涮羊肉」が心に響きます。
寒くなってきていますので、この冬ぜひ「涮羊肉」をお楽しみください。都内でも食べられる店がけっこうありますよ。

店舗情報

東来順 池袋店

北京式の「涮羊肉」の老舗。東来順の日本のフランチャイズ。
是非、シンプルなスープで味わって欲しい。

豊島区西池袋1-23-1
エルクルーゼ6F
03-6914-2271
https://ggtm600.gorp.jp/

神田味坊

北京の裏路地で食べたような懐かしい味の涮羊肉が楽しめる。

千代田区鍛冶町2-11-20
03-5296-3386
https://www.ajibo.jp/kanda.html

Writer
記事を書いてくれた人

菊池 一弘

プロフィール

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