こんにちは。羊齧協会の菊池です。
先日、羊肉串(ヤンロウツァン) について書きましたが、まだまだ書き足りない(笑)ということで、今回は羊肉串のスパイス部分の話をまとめてみました。
羊肉串の味を決めるのはスパイス!です。
肉を串に刺して焼く。この調理法は人類が火と出会い、狩猟でとった肉をあぶって食べたほうがうまい!と気づいた時から続く最古の料理法なんじゃないかと個人的には思っていますが、どうも間違いはないようです。中東のシシカバブ、中国の羊肉串、中央アジアのシャシリク、インドのシークケバブ、日本の焼き鳥と、串に刺されているものは各国に存在するので、「串に肉を刺して焼く」ことは、世界共通で思いついたことだったのでしょう。
さて、焼き方が固まれば、次は味付けとなります。羊肉の場合、一般的な中華料理店は冷凍の海外産を使うので味にそこまで大きな違いはありません。ではその味の違いは何か?? 切り方や、肉の処理などいろいろとありますが、やはり味付けの「シーズニング(スパイスミックス)」ということになります。われら、このスパイスミックスを「マジックスパイス」と呼び、店や民族による違いを楽しんでいます。
以前は、オーナーの出身地方により「朝鮮族系は結構辛い」とか「西はクミン多め」とかの違いがあったのですが、今は標準化し、地域の差よりお店のこだわりによる差が大きくなった気がします。これは、中国の食の潮流で、こだわりなく流行りものや美味しい物を取り入れて行くスタンスによります。老舗広東料理で麻辣のメニューが入ったり、北京ダック店に刺身があったり、こだわらずおおらかにお店の味を求めていく中国らしい流れの結果ですね。多分。もしかしたら特に考えずに、平準化してるのかもしれません。
■羊とクミンの出会いはメソポタミア文明から
この、マジックスパイスは羊肉串だけではなく、羊の焼き物には必ずついてきます。羊肉串のほかの例としては、上野「喜羊門」の「羊の足の丸焼き(烤羊腿)」や、「中国茶房8」の「羊の丸焼き(烤全羊)」などがあげられます。
このシーズニングの中身ですが、メインは「クミン(せり科、世界の多くの地域で使われているスパイス)」です。このクミンの味が基本となっているので、クミンが焼ける香りが羊肉串の香りとなっています。このクミンも、粒のまま使う場合と、粉にする場合があります。
ちょっと脱線しますが、クミンと羊の出会いは感動的で歴史的です。人類の歴史で初めて文字として残された最古のレシピは、メソポタミア南部のラサルから出土した紀元前17世紀の粘土板です。そこに書かれていた料理は「ラム肉のブイヨン」。使われている素材にはラム肉のほか、クミンがスパイスとして書かれています。人類最古のレシピにも、羊肉串と同じく「羊肉とクミン」のレシピがのっていたということは感動的ですらあります。「羊肉とクミンあうよね!」は人類のDNAに刷り込まれた組み合わせなのです。多分。
そのほかの特徴としては「唐辛子」。こちら、辛いものより、甘さと旨味が強いものを今はよく使います。以前はものすごく辛いものが多かったのですが、このあたりが変わってきました。辛いものの苦手な中国の人が増えたとも言いますが、私の感覚なので、もしかしたらまだ辛いのかもしれません。真っ赤なシーズニングを見ると「辛そう!」と言う人もいますが、そんなに辛くありません(と言いつつ、めちゃくちゃ辛い場合があるので中華料理は気が抜けない)。
→気がするだけなので、なぜかなどはわかりません(笑)おそらく誰も統計を取っているわけではないので。
今でも、南の方は唐辛子がやや辛い場合が多い気がします。そして、白ゴマやきな粉など香ばしさを出すものが入り、お店によってはスターアニス(八角)の粉末が入り、中華感が強く出ている場合があります。それに、塩やアミノ酸など加わったり、加わらなかったり、中華系羊シーズニングの世界は店ごとに味が違う奥の深さがあるのです。
■家庭にも広がる「中華系ミックススパイス」
このスパイス、日本でもじわりじわりと広まってきています。サイゼリアが2019年からメニューに取り入れた「アロスティー二(イタリア風羊の串焼き)」に添付した「やみつきスパイス」がアロスチーニとともにヒットしたことが挙げられます。イタリアの事例ですが、「中華料理の羊のスパイスに似ている!」と、SNSを中心に言われて一気に広まりました。
この「羊にかかっているスパイス」風味を再現するスパイスも多く発売されており、気軽にブレンドしたスパイスが購入できるようになりました。一例として羊特化型として、羊齧協会推薦スパイス(クミン塩カテゴリー)。「羊名人」 があります。
この羊名人をベースにオリジナルスパイスレシピを作るつわものも出て来まして、市販系中華系シーズニング今後も目が離せません。このほかに、商品として「イ族のズマグニ」 、「麻辣マニア」など、羊向きのスパイスミックスは多く出ているので要チェックです。
■羊の自動串焼きマシーン付きとは?
ここまで書きますと、皆さん羊肉串にも、羊用中華スパイスにも思い切り興味を持たれたのではないでしょうか???
自分で、思いっきりクミンとかを振りかけて焼いてみたい!との欲望をマシーンの力を借りつつ叶えてくれる夢のようなお店があります。
その名も「千里香」。こちら中国朝鮮族のお店で、朝鮮式串焼きとなりますが、特徴として卓上に炉があり、そこで好きな串を頼み自分で焼いて食べられるところです。味付けはしてありますが、クミンを振りかけたり、焼きあがったものにシーズニングをまぶしたりと、卓上焼き鳥のような形で羊肉串のみならず、さまざまな串焼きが楽しめます。
そして、こちら、上記動画のような自動串焼きマシーンがついておりまして、載せるだけでどんどん串を焼いてくれます。この謎のマシーンの動きを見るだけでも行く価値はあります。
以前、北京で同じ装置を見た時に「NASAの技術を使っている!」と誇らしげ店主に言われましたが、真偽のほどはわかりません。ぜひNASAの技術の有無を、皆様の目でご確認ください。
ディープチャイナの楽しみ方として、中国のさまざまな少数民族や地方の味に触れることがあります。こちら、朝鮮族料理(延辺料理)となりますので、羊にとどまらず美味しい延吉料理も楽しめるので、ぜひ注文してみてくださいませ。
いつも、書いてて思うのですが、
「ああ、羊肉串食べたい」。
店舗情報
千里香(せんりこう)
豊島区西池袋1-21-1 YKDビル7F
03-5992-8171