このところ、都内で目につくのは、30代の若い中国人オーナーが始めたニュータイプの「ガチ中華」店です。
1980年代生まれの彼らは、中国で「80後(バーリンホウ)」世代と呼ばれ、中国の経済成長が著しかった2000年代に学生生活を送った人たちなので、物事に対して前向きなメンタリティーを持っており、これまで日本になかった新種の「ガチ中華」を次々オープンさせています。
今年2月に西池袋にオープンした「滷辣辣(ルーラーラー)」のオーナーの張卓一さんもそのひとり。彼は中国河北省出身で、2013年に日本に留学。その後いったん中国に戻り、飲食業界に就職した後、2023年に再び来日。この店を始めました。
この世代のオーナーたちは、中国に次々誕生する新しいタイプの飲食店スタイルという先行事例を日本に持ち込むことができるのが特徴といえます。
では張さんはどんな料理を日本に初上陸させたのか。
そのひとつが「秤盘麻辣燙(チェンパンマーラータン)」。
これは数年前から四川省成都で流行り始めた料理で、名称はマーラータンといっていますが、実際は「麻辣拌(マーラーバン)」、つまり豊富な具材を炒めた麺にのせた混ぜ麺のようなものです。
オープン当初は、それぞれの客が冷蔵庫から自分の好みの具材を選んで、ざるに入れて厨房に渡して調理してもらっていましたが、店内はそれほど広くないので、お客の誘導などオペレーションが難しく、いまではQRコードで注文するスタイルになっています。
いまでは使われてないざるは店内のディスプレイになっていますが、この料理の名称の一部である「秤盘」は「秤(はかり)」を意味していたことから、このように呼ばれるようになったそうです。
「ガチ中華」の火鍋やマーラータン同様、とにかく具材の種類が多いです。このとおり。
牛肉や鶏肉、ホルモン系などはすでに味つけされ、煮物となった具材も多いのが特徴です。鴨の血はもちろん、キクラゲやレンコン、小松菜、パクチー、各種中華豆腐、魚のつみれ、揚げパンの油条などに加え、おこげやインスタント麺を入れるところが、いかにも若者向け料理ですね。
とにかくボリュームたっぷりなので、2~3人で大皿をつついて食べる、火鍋と同じような感覚の料理といえます。そして、いまどきの中国の若者はこういうスタイルが好きなのがよくわかりますね。
もうひとつは、本場四川の超激辛ライスヌードル(米線)「泡椒三鮮米線」です。
具材やスープの違いで5種類から選べます。スープの基本は、激辛の発酵青トウガラシ「泡椒」ですが、トマト味や火鍋味、豚骨スープ味などもあります。
ライスヌードルの麺はプルンプルンで、太麺と細麺があります。スープをひと口しただけで、辛さが体中を走り抜ける衝撃です。顔から汗が吹き出し、一瞬先に進むのをためらってしまいますが、にもかかわらず、再び食べてしまうのはなぜか。それほどの魔力があります。
この三鮮米線は、2020年12月に重慶にオープンし、その後四川省各地で大ヒットした「曾三仙米線」のスタイルを持ち込んだものと思われます。ひしゃく型のお碗に麺を入れるのが特徴です。
曾三仙米線
https://www.zengsanxian.com/strength.html
さらに、本格四川風煮込みも楽しめます。
手前にあるのが、左から鶏の爪の「尖叫虎皮凰爪」、豚足の「発財猪手」、そして骨付き豚肉の「覇道排骨」です。とにかくネーミングがいまどきの中国風です。メニューに「尖叫(絶叫)」「発財(財を起こす)」「覇道」などという言葉を入れ込むのですから。
最近の「ガチ中華」で欠かせないのが、自家製オリジナルドリンクとデザートでしょう。
この店では、自家製酸梅湯やレモン茶、小豆アイスミルク(紅豆冰奶)、甘さ控えめでさっぱりとしたココナツジャスミン茶などを提供しています。おすすめは酸梅湯で、8種類の具材を使って1時間ほど煮て冷やし、着色料などは無添加で、健康的な美味しさです。
デザートは「紅豆冰豆花」や四川スイーツの定番の「冰粉(ビンフェン)」があります。米線の辛さで痺れた口をほんのりした甘さが癒してくれます。
店内はテーブルが6つ並ぶくらいの小さな食堂ですが、遊び心にあふれるポスターやディスプレイが張りめぐらされています。こういうセンスはいかにも「80後」世代的です。
この天井から吊り下げられた毛をむしられた鶏をつかむと、すごい音が鳴ります。店員を呼ぶためのものだそうです。
ドリンクに「池袋」の文字を付けたりするのもそうですが、入口の近くに「这很池袋,又很成都」という標語が掲げられていたので、「どういう意味ですか?」と訪ねたところ、オーナーの張さんは「ここ池袋では本格的な成都料理を食べられます。遠く離れていても故郷の味があります」というメッセージが込められているそうです。
この店ちょっとわかりづらいのですが、ガチ中華の店がいくつも入店しているビルの地下にあり、エレベーターから入店します。扉が開くと、なかは異空間です。
いまの中国には、このようなタイプの店がたくさんあります。そして、この種の店がいくつもあるのですから、池袋はまさに異文化体験の町といえます。
(東京ディープチャイナ研究会)
店舗情報
滷辣辣(ルーラーラー)
豊島区西池袋1-35-2 明徳ビルB1F
03-4361-6612
定休日:不定休
営業時間:11:00〜22:00