上海市内に2010年代初めに登場し、一過性かと思ったら意外と定着している飲食チェーン店があります。
それが、「外婆家」「緑茶」「新白鹿」「桂満隴」などの杭州系ファミレス中華。
杭州料理をアレンジした食べやすいメニューが揃っているため、子供連れ、高齢者連れのファミリー層には根強い人気があります。
そのなかでももっとも成功しているのが、このジャンルのチェーン店の元祖「外婆家」。
数年前、この「外婆家」のオーナーが浙江省に民宿をつくったと聞き、ずっと気になっていました。食事も楽しめる山奥の民宿は、上海で注目を集めています。
背景には、リゾートブーム(ホテルから出ないでのんびり過ごす旅)、山や自然のある場所への旅ブームがあり、そのまた背景には都会のストレスフルな生活があるようです。
というわけで、「外婆家」が手がける民宿「浦江不舎野馬中国村」に行ってみることにしました。
その名のとおり、なんと村一つを丸ごと使った民宿なのです。
場所は浙江省金華市浦江県。そこにある、馬嶺角古村という600年の歴史を持つ村が民宿になっています。
部屋数は77室で、それぞれもともと村にあった古民家がリノベーションされています。
清潔感はもちろん、アメニティなども外資系ホテル並。冬は床暖房が使えるそうです。
滞在中は村内の散策だけでも楽しめますが、自由に過ごせるコテージやバー、書斎、プールなどもあり、一日村外へ出ずに過ごせてしまいます。
樹齢1000年超えの樹木や、文革中のスローガンが残ったままの壁の家屋は、私有地にしてしまったからこそ残せるものなのかも。
村内には畑や果樹園もあります。
メインのレストランはこんな感じ。村内の木造の倉庫をリノベーションしています。古木と古い家具を使ったシンプルでナチュラルなインテリアは、いかにも今の中国人好みです。
予算は、2〜3人でお酒も頼んで一人200元前後。ホテル内とは思えない価格帯です。
まずオーダーしたのは、「香干馬蘭頭(シャンガンマーラントウ)」。コヨメナと干し豆腐の和えものです。上海とその周辺では定番の野菜系前菜です。
このコヨメナ、私は中国野菜のなかではいちばん好きかもしれません。風味は春菊に似ていますが、やや甘みがあって野草っぽい味。和えるときに使うごま油と相性が抜群です。
「美極爆菌菇(メイジーバオジュングー)」は、キノコの甘辛醤油炒め。
浙江省はキノコ類の生産が盛ん。上海のスーパーに並んでいるキノコ類(エノキ、舞茸、椎茸など)も、パッケージを見るとほとんどが浙江省産です。古くは、日本人が浙江省へ椎茸の栽培技術の視察に来たという記録もあるそう。
淡水魚でつくった「特色魚餅(トーソーユィービン)」は、さつま揚げとかまぼこと中間みたいなおつまみ。手作りの辣醤で食べます。お酒に合います。
締めは「小籠包」で。
上海市内の「外婆家」では、蒸篭ではなくザルで出てくるのでここもそうかなと思ったら、きちんと蒸篭入りでした。一人前がこの量です。肉汁たっぷりで、皮がやや厚めの田舎風で美味でした。
朝ご飯はこんな感じでした。
野菜まんとゆで卵、芋の輪切りは、中国の山の民宿の朝ご飯の定番。なぜかすごくおいしく感じます。山の空気のなかで食べるからかもしれません。
2023年現在、今回ご紹介した「浦江不舎野馬中国村」のような、外国人も受け入れてくれるユニークな宿泊施設が各地に登場しています。
なのですが、普段上海に来る日本人を見ていると、ほぼ全員が定番外資系ホテル、日系ホテル、やや安い中国系ビジネスホテルのどれかに泊まっている気が。
気軽な旅行はまだ難しい中国ですが、来られる機会があればぜひ宿泊施設を再吟味してみてください。できれば、山や湖のある大自然エリアがいいかも。到着すればきっと、ロビーのスタッフの気さくな笑顔に不安や緊張がほどけてしまうはずです。
(萩原晶子)
店舗情報
浦江不舎野馬中国村
中国浙江省金華市浦江県二一零省道旁
上海からのアクセス:
高速鉄道で「桐庐」駅へ(約2時間)。ここから車で約50分(バス、タクシーはないため、駅か「滴滴」でチャーターの予約が必要。約100元)。
※ホテルの予約は「携程」などのアプリで(宿泊費はオフシーズン平日で500〜600元)。ロビーから客室までが山道の可能性があるため、スニーカー+旅行バッグなど身軽な装備で(スーツケースで来ていた人たちが苦労していました)。帰りは「滴滴」でも車が見つからないため、行きの運転手に携帯番号をもらっておくこと。