上海からの日帰り旅圏内で、食事がダントツでおいしい街といえば紹興市です。
紹興は、以前ご紹介した揚州同様、「近いのに、上海にはあまり定着していない食文化」がある街。
たとえば、「中国といえば紹興酒」と考える方は多いと思いますが、上海で飲まれているのはほとんど「黄酒(ホアンジウ)」。レストランでも、「石庫門」や「和酒」などの銘柄の瓶入りしかないことが一般的です。
※紹興酒は、主な原料はもち米と鑑湖の水だが、黄酒は黄米、米、小麦などで水の産地にこだわらない。醸造方法なども異なる。
なので、甕出しの真っ黒で濃厚な紹興酒と、それにぴったりの紹興料理が食べたくなったら紹興まで行ってしまうのがお勧め。高速鉄道に乗れば最速1時間20分で到着します。
その、紹興を代表するお店といえば、やっぱり『咸亨酒店』の本店。1894年創業で、魯迅の小説『孔乙己』にも出てくる老舗です。
店舗は2018年にリニューアルされ、「十碗頭」と呼ばれる紹興の伝統料理(昔から冠婚葬祭時に出されてきたご馳走10品)を味わえるようになり、さらにその「十碗頭」が非遺(無形文化遺産)に登録されたため、ここ数年大いに盛り上がっています。
2000年代後半から何かと紹興へ出かけている私は、紹興酒といえばレストランではなく、店先のベンチみたいな椅子に腰掛けて茶碗で飲むのがスタンダードだと思っています。
以前の『咸亨酒店』はビル内の普通のレストランだったため、ちょっと邪道だなと思っていました。が、リニューアル後の店舗はベンチ飲みの醍醐味も心得ていて、料理を食べなくても「腰掛けて茶碗で一杯」もOKな仕様になっています。
なので今回は、日帰り旅行の軽い昼飲みおつまみを中心にご紹介したいと思います。
まずは紹興酒。
本場だから銘柄がいろいろ揃っているのでしょうと思いがちですが、「太雕王」(38元)一択になります。甘味があってほのかにとろみがあって濃厚。「今まで飲んできた紹興酒(黄酒)は何だったんだ」と思えるおいしさです。
4〜5人以上の場合は甕買いがお勧めかもしれません。蓋に穴を開け、長い杓で各自注いで飲めます。
あと、紹興で紹興酒を飲む場合はどの季節も「常温そのまま」が基本。温めたり、氷砂糖を入れたり、生姜や干し梅を入れたりといった、なぜか日本に伝わっているあの飲み方は忘れてからお出かけください。
現地で常温そのままを飲めば、「日本でやっていたあの飲み方は何だったんだ」と思えるはずです。
基本のおつまみは「臭豆腐」。
苦手な人が多いイメージですが、紹興で紹興酒とともに食べると味覚が変わります。カラッと熱々に揚げてあって、臭みが香ばしさに感じられるはず。
「糟鶏」も外せません。
よくある「酔鶏(酔っ払い鶏)」とはちょっと違って、酒粕の旨味を蒸し鶏にぎゅっと閉じ込めた感じ。
それと「泡菜」。野菜の甘酢漬けです。
想像通りの味ですが、日本でも居酒屋では漬物を頼んでしまうので……。
という感じで私の場合は毎回こんな感じ。
人数がいる場合は「十碗頭」に挑戦するのもお勧めです。秋冬は「酔蟹」がベスト。紹興酒にたっぷり漬かった上海蟹が絶品です。
ご飯は食べたいけどお酒はNGという方は紹興酒ミルクティー「太雕奶茶」を。
わずかにアルコール分があるそうですが、飲めない人もぜひ試していただきたい一杯です。
「でも、観光レストランですよね? 観光客がいない地元の隠れ家に行きたいんですけど」という方は、『咸亨酒店』周辺の路地をくまなく歩いてみてください。
地元のおじさんたちが昼間から飲んでいるような、昔ながらのお店も多数見つかります。下の写真は『咸亨酒店』から歩いてすぐのところにある『一石居』。ここもとてもいいお店です。
日本人に馴染み深い作家・魯迅の出身地であり、書道を習ったことがある方なら必ず知っている王羲之ゆかりの地『蘭亭』などの史跡もある紹興。散歩が楽しい古鎮が市街地の真ん中にいくつもあって、山や洞窟などの大自然もあって、堂々と路上昼飲みもできる紹興。なのになぜか、日本人の知人から「今度旅行で紹興へ行く」「紹興、行ったことがある」などの話をあまり聞きません。
2024年内には高速鉄道が停まる「紹興北」駅直結の地下鉄も開通するそうです。この春中国へ行くという方は紹興、ぜひお勧めです。
(萩原晶子)
店舗情報
咸亨酒店
中国浙江省紹興市越城区魯迅中路179号
9:00-20:30