
今年4月に10年ぶりに中国東北地方に行ってきた。
大連、ハルピン、瀋陽の三都市を訪れる取材は初めて訪れるハルビンからスタート! ハルビンは東北地方の中でも最北部にある黒竜江省の省都。ロシア革命から逃れてきたロシア人が多く住んだことで知られ、聖ソフィア大聖堂など、今も街の中心部には多くのロシア建築が残っている。街の中心部にあるソフィア大聖堂。現在はアナと雪の女王やロシアのお姫様のコスプレをした中国人の若い女性でいっぱいだ。
そのロシア人とともにハルビンに根付いたロシアの食文化は、東北地方の中でも特別。
もちろん、東北の食文化もあり、ハルビンの食文化は東北らしく素朴でありながら、どこかハイカラでおもしろい。そんなハルビンのごはんをちょこっと紹介したい。

ハルビンの街歩きは、欧風建築が並ぶ中央大街から。
ヨーロッパのような石畳の通りを歩くと、どこを見ても「大列巴(ダーリエバ)」が並んでいる。直径25センチはあろうかという巨大なロシアパンで、ハルビン名物にもなっている。
主に観光客が買っていく名物かと思ったら、そうじゃない。地元っ子が老若男女関係なく、大列巴が入った袋をぶら下げて歩いている。
大列巴より小ぶりな「沙一克(シャイーク)」というパンもあり、沙一克でいっぱいの袋を持った人も目につく。そして驚くのは、老若男女に関わらず、家に着くまで待てないのか、歩きながら食べている人がむちゃくちゃ多いのだ。


この大列巴と一緒に食べたいのは、ハルビンの食を代表する「紅腸(ホンチャン)」。
切った瞬間ににんにくの香りがぶわ~っと爆発のソーセージ。紅腸は大列巴と同じくロシア人が伝えた食文化のひとつ。観光客がハルビン土産に買っていくのはもちろんのこと、ハルビン人は紅腸と一緒に薄くスライスした大列巴、ハルビンビールを飲むのが楽しみらしい。


ロシアパンとソーセージだけでなく、ハルビンではあちこちに「俄式餐庁」が見られる。
これはロシア料理店のことで、高級店から手ごろなお値段のところまでよりどりみどり。
ボルシチ(紅湯)、ピロシキ(油炸包)、モスクワ式サラダ(莫斯科沙拉)なども食べられる。ハルビン人に聞いたところ、ロシア料理は高級なので、誕生日やお祝いなどの特別な時に食べに行くごちそうらしい。




冬の最低気温が零下20度を下回るようなハルビンはロシアと気候が似ており、小麦粉で作ったパンや餃子などを主食としている点も共通しているので、ロシアの食文化が根付きやすかったのだと思う。
20世紀初頭のハルビンはロシアだけでなく、欧米諸国が領事館をおいた国際都市だったので様々な国の人が住んでいた。ハルビン人は自然と好奇心旺盛で異国の文化を受け入れるのに抵抗がない性格になっていたのではないかと思う。そこにロシアの食文化はしっかりと根をおろしたに違いない。
また、ハルビンには、ロシア人向けの東北料理もある。東北料理を代表する料理でもあり、中国だけでなく日本のガチ中華の東北料理屋でもおなじみで、日本人も大好きなあの豚肉料理! そう「鍋包肉(グオバオロウ)」はハルビン発祥の東北料理。
片栗粉の衣をつけた赤身の豚肉の甘酢あんかけで、その他の東北料理とは違うと思っていたら、最初は中国人向けの料理ではなかったのだ。鍋包肉を初めて作ったのは1907年創業の「老厨家」。初代料理長の鄭興文がロシア人のために作ったと言われている。中国で、日本で、鍋包肉を食べたことがある人もハルビンの老厨家で鍋包肉を食べてみてほしい。


黒竜江省南部の五常でとれるお米は五常大米と呼ばれ、中国全土にその名が知れ渡っているほど美味しいことで有名。清朝の時代は、皇室のお米でもあった。もっちり甘い五常米も鍋包肉と一緒に食べたい。

ハルビンで食べられる東北料理らしい一品と言えば、「殺猪菜(シャージューツァイ)」。
ブタ殺しの料理という物騒な名前がついているけれど、シンプルで素朴な料理だ。
東北地方の冬と言えば、昔は新鮮な野菜を食べることができなかった。白菜で酸菜(スワンツァイ)と呼ばれる漬物を大量に作り、長い冬を乗り切った。そのため酸菜と豚肉と春雨を煮込んだり、炒めた料理が豊富。殺猪菜は、その豪華版とも言うべき料理。
東北の農村では春節の頃に豚を殺して、春節を祝う習慣があった。一頭をつぶし、余すところなく食べるため、殺猪菜には内臓だけでなく、血を固めた豆腐、腸詰めなどを豚バラ肉と一緒に酸菜と煮込む。
そして春節は家族そろって大鍋の殺猪菜を味わうのだ。殺猪菜は東北各地にある伝統料理だけれど、中でもハルビンの殺猪菜は美味しいと言われているので、短い滞在でも食べてみてほしい。

デザートには東北名物の凍梨(トンリー)を食べよう。

冬の東北では、果物を外に放り出しておけば、凍ってしまう。オンドルの温かい部屋で凍った果物を食べるのが東北人の冬のお楽しみ。凍った果物は、シャリシャリと甘いデザートになる。中でも梨が一番美味しいので、凍梨のジュースも売られるほど。
最後に日本のガチ中華の東北料理店では、たぶん食べることができないハルビン名物を紹介したい。
鯉の豆腐と春雨を煮込んだ「莫得利炖魚(モードゥーリードウンユー)」を前にすると、大人でも巨大なお盆からキラキラ輝く琥珀色の極太春雨をうれしそうに、時には真剣にひっぱる様子が目につく。
鯉が主役の料理のはずなのに、誰もが食べたいのは鯉のうまみを吸いこんで、美味しそうな茶色に色づいた春雨と豆腐。
この莫得利炖魚はハルビンの方正県にある莫得利村発祥の料理で、80年代に莫得利村の漁師が作り始めた漁師料理だ。漁師料理なら、おいしいに決まっている。ハルビン以外ではあまり見かけないだけに莫得利炖魚は食べてもらいたい。

初めてハルビンを訪れた私はもともと粉物好きなので、まずハルビンのパン食にはまった。
実際に食べてみて、ハルビンのパンのレベルの高さとパン屋(中国の伝統的な粉物屋、レストランのベーカリーを含む)の多さにびっくりした。
ハルビンでは、いたるところで大列巴や沙一克が入った袋をぶら下げたハルビン人を目にする。私はそのハルビン人が、おばさんだろうが、おじいちゃんだろうが歩きながら、むしゃむしゃとロシアパンを食べだすところがたまらなく好きなのだ。
中国の北方はどこも粉食だけれど、ハルビンほど買ったばかりのパンを歩きながら食べている人が多い町はどこにもない。ハルビン人って、本当に開放的で食いしん坊で好きだなあ。
東北地方の中でも、人も食も一味違うハルビンに行ってみよう!

最後に、取材に行かせてもらった「地球の歩き方大連、瀋陽、ハルビン」も発売されました。こちらもよろしく!

(浜井幸子)
店舗情報
老厨家

中国黒龍江省ハルビン市道里区友諠路318
10:30~21:00
老韓院殺猪菜

中国黒龍江省ハルビン市道里区新陽路132
10:00~22:30
王慶章莫得利炖魚

中国黒龍江省ハルビン市南崗区哈西街道北興街19号
10:00~21:00
Writer
記事を書いてくれた人

浜井 幸子
代表からひとこと
アジアグルメライターの浜井幸子さんには、8月に刊行された「地球の歩き方大連、瀋陽、ハルビン」の取材に現地に行っていただきました。今回は、そのうちハルビンの取材報告でした。
とにかく中国の中でも最も珍しい街といってもいいかもしれません。浜井さんの書いているように、ロシア正教の教会やロシアレストランがたくさんあるのがハルビンのいちばんの特徴です。
すでにお知らせしてありますが、東京ディープチャイナでは、スプリング・ジャパンさんとのコラボで、ハルビンへの無料チケットのキャンペーンを現在実施中です。

スプリング・ジャパン株式会社
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キャンペーンの内容は、この記事および、TDCまたスプリング・ジャパンのSNS等の告知投稿を通じてご応募いただいた方の中から、抽選で航空券(大連・ハルビン)を6名様にプレゼントするというものです。
キャンペーンの詳細はこちらをご覧ください。そして、ハルビンに旅立っていただければうれしいです。
みなさまのご応募お待ちしています。