安西創の「玩琴趣談」中国の楽器紹介【1】笛子

安西創の「玩琴趣談」中国の楽器紹介【1】笛子

東京都内で「中国音楽の小学校」がコンセプトの音楽教室「創樂社(そうがくしゃ)」を主宰している安西創(あんざい はじめ)です。この度中国の楽器を紹介するコラムを担当する事になりました。東京ディープチャイナ読者の皆さんよろしくお願いします!このコラムでは中国の様々な楽器について「難し過ぎず、でもちょっとだけ詳しく」ご紹介して行きます。文中の固有名詞や用語には、日本語音読みとピンインも並べました。これらを手掛かりに、興味が出たらぜひご自分でも「その先」を検索して、更なる「ディープチャイナ」をお楽しみください。

さて、記念すべき第1回は日本人にも見た目に馴染みがある楽器、中国の横笛「笛子(てきし、Dizi)」をご紹介します。

秦より以前の時代(紀元前221年より前)、楽器は素材により「金、石、土、革、絲(撚り合わせた絹糸の事、即ち「琴、きん」や「瑟、しつ」などの弦楽器)、木、匏(ほう・瓢箪の事。笙など)、竹」の8種類に分けられる「八音」という分類がなされていました。因みに、日本でもすっかりポピュラーな楽器となった「二胡(にこ、Erhu)」は、後に北方異民族から流入した楽器で、この頃は音楽史的にまだ中国に現れていないので、また別の機会に。

「笛子」は主に竹で作られた横笛の総称なので「八音」ではもちろん「竹」の部に所属します。隋唐の時代になるまでは縦笛も横笛も「蕭」の字で表す事が多く、若干の混同がみられます。余談ですが、沖縄では横笛を「ファンソー」と呼びます。これは福建や広東での笛子の呼び方「横蕭(おうしょう、hengxiao)」に由来します。

今や笛子は漢民族だけでなく、モンゴル族やウイグル族など独自のスタイルを持つ多くの民族の様々な音楽にもポピュラーな楽器として広く親しまれています。長短様々なサイズがありますが、構造は基本的に同じです。管の長さが短い方が高く鋭い音、長い笛は相対的に低くて潤いある伸び伸びした音がします(音楽の種類によってある程度使う笛の種類は決まって来ます)

笛の写真

上)主に北方で使われる「梆笛」 下)主に南方で好まれる「曲笛」

これらの笛は、揚子江を挟んで北方の笛と南方の笛で大きく二つに分けられ、北方の演奏スタイルは短く高い音域の笛を用いて、舌を使って音を鋭く区切ったり、花舌(かぜつ、huashe)というべらんめえ調の「巻き舌」のような舌使いで音に独特な表現を加えたりして明朗快活な表現をするのが特徴です。対して南方は低めの音域の笛を使って、あまり音を途切らせないように伸び伸びと吹くのが特徴です。演奏技法の違いを指して、私の笛子の先生は「北派の曲で口の筋肉やテクニックを鍛えて、南派のスタイルでは息遣いを学ぶ」と言っていました。

これら北方で使う短めの笛を、特に「梆笛(ほうてき、Bangdi)」、南方の物を吹く時に使う笛を「曲笛(きょくてき、Qudi)」と呼びます。木製の打楽器「梆子(ほうし、Bangzi)」を使う、山西、山東、河南、河北など各地にある「梆子劇(ほうしげき、Bangziju)」に使う笛子だから「梆笛」。対して「曲笛」はユネスコ世界文化遺産にも指定されている蘇州の地方劇「崑劇(こんげき、Kunqu)」の楽曲、「崑曲(こんきょく、Kunqu)」の主要伴奏楽器だから「崑曲の笛子」を縮めて「曲笛」と呼ぶ訳です(中国音楽にはお芝居の伴奏音楽と密接な関係がある曲種が大変たくさんあります!)

香港中楽団の林育仙女士による北方スタイル「梆笛」のデモンストレーション

香港中楽団の陳子旭氏による南方スタイル「曲笛」のデモンストレーション

音が出る仕組みは西洋のフルートや、篠笛、龍笛などと同じく歌口に吹き込まれた息が、壁にぶつかって鳴ります。指穴は右手3つ、左手3つの6穴ですが、指の押さえ方で半音も出ますので、一本で幾つかのキーには対応することができます。一般的には、何本か調子が違う笛を持ち歩いて必要な高さの笛子に持ち替えたりします。

さて、この笛の最大の特徴は、息を吹き込む歌口と6つの指穴の間にもう一つの穴が開けてあり、そこに蘆の内膜でできた薄い膜(笛膜・てきまく、Dimo)」を貼る事。これがビリビリと共鳴して独特な音色を作ります。

「笛膜」の解説

いかがでしたか?横笛の構造や種類にも色々ある事がお分かり頂けたでしょうか。中国音楽に使う楽器全般に言える事ですが、新中国建国以降、現代に至るまで奏法や楽器に驚くほどの研究と工夫が重ねられ、進歩を遂げています。そして、伝統を打ち破る新しいテクニックや今までにないコンセプトの新しい表現の演奏もたくさんあります。しかし、屈指の古い歴史を持つ「笛子」自体は原型を留め、変わらず愛され続けているのは凄いですね。もしかしたら変える事によって失われてしまう味わいの方が遥かに多いという事かもしれません。

ところで、日本で中国音楽を愛好されている方の殆どは二胡(にこ、Erhu)を手にしている皆さんです。私が中国音楽を始めた90年当初は「ニコ」が何かを説明してもピンと来ない日本人が大半だった世の中でした。それが、今は大手楽器店やカルチャースクールで気軽に手にする事ができるほど愛され広まっています。それは関係各位の演奏活動や啓蒙活動、メディアの影響など様々な要因有っての普及だと思います。その素晴らしさの一方で、豊かで広く奥深い中国音楽の世界があるにも拘らず、9割方の皆さんが二胡一辺倒なので「それ以外にもまだまだいっぱいあるよ!」とご紹介する機会を作って頂いたのがこちらのコラムです。ドラマの影響で、中華精神のシンボル的存在の「古琴(こきん、Guqin)」にさえスポットが当たる世の中になっては来ましたが、やはり一般的には「中国音楽=二胡」の図式がありますので、東京「ディープチャイナ」のご愛読者様には、これからより一層深くお届けして行きます。そして、皆さんの世界が広がるきっかけになれば幸いです。

【お知らせ】湯島聖堂芸術講座「中国音楽入門」4月開講。新年度生募集中!

五代将軍綱吉公の創建になる創建334年の「昌平坂の学問所」跡にして最大の孔子廟、国史蹟「湯島聖堂」。御茶ノ水駅に程近い電車からも望める緑豊かな「漢学の総本山」とでもいうべき由緒ある講堂で、昨年に引き続き「中国音楽入門」を年間10回講義させて頂きます。二胡初級の講座となってますが、様々な楽器の実演や解説をしたり、中国音楽そのものについて広くお話ししますので、特に楽器を弾かなくても中国音楽に興味ある方に楽しくご参加頂ける講座です。令和6年度生募集中(学生割引は半額です!!)見学歓迎、途中参加OKの講義です。指定管理団体、公益財団法人「斯文会(しぶんかい)」さんにお問い合わせください(代表0332514606)

2024年度 湯島聖堂芸術講座「中国音楽入門」年間スケジュール

2024年4月29日、5月26日、6月23日、7月28日、9月22日、10月14日、11月24日、2025年1月26日、2月23日、3月23日(各回90分、10時30分〜12時)

(尚、講義のある日は引き続き午後も教室をお借りして、中国の民間合奏音楽の一つ「江南絲竹楽」の集まりをしています。中国茶を飲みながら、揚子江下流域で演奏される楽曲を楽しむ会です。興味がある方はそちらもご見学頂けますのでお気軽にどうぞ!)

この国史蹟「湯島聖堂」では、今も論語を始めとする四書五経のほか各種漢詩漢文の読解や、漢詩の作り方、書道、吟詠、太極拳などの講座がたくさんあります。そしてその殆どに学生割引がありますので、興味がある講座がないかぜひ一度ホームページをチェックしてみてください。

「湯島聖堂」ホームページ
http://www.seido.or.jp/shibunkai.html

このコラムをきっかけに、新しい目で中国音楽の世界を身近に楽しんでくれたら嬉しいです。次回もお楽しみに!

中国音楽の小学校「創樂社」主宰 安西創(あんざいはじめ)
湯島聖堂芸術講座「中国音楽入門」講師
生徒さん随時募集中 https://r.goope.jp/sougakusha/ 

Writer
記事を書いてくれた人

ライター安西 創さん
安西 創

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