いま東京の「ガチ中華」の店で流行しまくっている料理が、四川風麻辣魚煮込みの「烤魚(カオユ)」です。麻辣スープで白身魚と野菜を煮込んだもので、見た目がド派手な「ガチ中華」の代表料理のひとつといえるでしょう。
烤魚という料理について、またそれが食べられる店については、もうすでに何度も東京ディープチャイナでは紹介していますが、今回おすすめするのは、池袋に2022年5月にオープンした「諸葛烤魚(ショカツカオユ)」。
いわゆるギラギラ系で、天井からカサがぶら下がる奇妙な内装や「国潮」調のイラストや標語が至る場所に貼られているところが、いまどきの「ガチ中華」らしい店です。
すでにこの店はAmy松田さんが昨年オープン直後に留学生さんと一緒に訪ねてレポートしていますが、今回はこの店で食べられる料理をもとに、烤魚という料理についてもう少し深堀りしてみましょう。
そもそも「烤魚」を直訳すると「焼き魚」ということになってしまうのですが、日本人には全くそうは見えません。四川料理なので、中国だとナマズや鯉などの川魚を使いますが、日本では海鮮のスズキやヒラメといった白身魚をいったんカリっとした感じで焼いたあと、トウガラシや花椒などが入った麻辣スープ(あとで紹介しますが、実はスープの種類は他にも選べます)で野菜と一緒に煮込みます。
白身魚のふんわりとした口当たりと弾力、スープでしっかりと味つけされたハーモニーは新食感といえます。さらに魚の下で一緒に煮込まれていたジャガイモやキクラゲ、キノコ、特にレンコンの歯応えなどが合間に加わることで、味の世界が広がります。
聞くと、魚の下味にはニンニクやショウガ、クミンなども使って臭み消しをしてから、両面焼きするそうです。
ところで、この烤魚、もはや日本だけではなく、ワールドワイドで食べられているようです。
東京ディープチャイナのメンバーでカナダ在住の北川紗織さんによると、モントリオールのチャイナタウンの中華レストランでも、烤魚が人気メニューとなっているそうです。おそらく世界にあるチャイナタウンではどこでも食べられるでしょうし、それは横浜中華街でも例に漏れないようです。
さて、諸葛烤魚は麻辣の本場重慶発の外食チェーン店で、中国国内で900店舗、マレーシアやシンガポール、ドイツなどの海外にも出店しているそうで、池袋にあるここは日本1号店です。
諸葛烤魚
http://zgky.cn/
なぜ三国志に出てくる蜀の丞相・諸葛亮の名前をこのチェーンは採用しているのか。理由は、烤魚発祥をめぐって諸葛亮と関係のある以下の2つの伝説があるからだそうです。
ひとつは、三国時代に重慶が属した蜀の宴会で出された烤魚を諸葛亮が大層気に入ったことから、後に「諸葛烤魚」という料理名となり、その後も歴代の王家の宴会に欠かせない一品となったというもの。
もうひとつは、ある日諸葛亮が川釣りに出かけたとき、急に雨が降ってきたのですが、そのとき彼はたいそう空腹で、釣った魚をその場で焼いて食べようとしました。ところが、雨はすぐにやんだので、焼き魚のまま家に持ち帰ったところ、家人がさまざまな香辛料を使ったスープでその焼き魚を煮込んだところ、美味だったことから、その後「諸葛亮の焼き魚(諸葛烤魚)」と評判になったというもの。
真偽はともかくも、いまどきの中国の飲食チェーンの起業家たちはこういう伝説をモダンにアレンジするのが大好きです。で、生まれたのが「諸葛烤魚」というわけです。
ついでにもうひとつ。店に貼られた大きなポスターは中国の芸能人で、都内の「ガチ中華」チェーンでもよくあるイメージキャラクターでした。ご存知の方もいるかもしれません。
1974年8月26日山東省青島生まれの俳優で、映画監督や歌手でもあるそうです。中国映画協会の副会長であるとも。
このチェーンを日本に持ち込んだのは、まだ30代の中国人オーナーの王琦さんです。
実は、このチェーンでは烤魚を煮込むスープが10種類もあるそうです。現地と同じものもあれば、日本オリジナルの新種のスープもあります。麻辣スープだけではないので、以下、王琦さんの簡単な説明を聞いて、スープ選びの参考にしてください。
この店いちばんの人気メニューです。スープの色は鮮やかで味は濃厚です。「香辣」スープは軽い痺れと辛さが相まって口の中で香ります。魚の焦げ目もまた香ばしくておいしいです。
いわゆる「麻辣」スープを使います。シャープな辛さはありますが、見た目ほど油っこくありません。
いわゆる「青山椒」スープを使います。意外とすっきりしていますが、痺れは強く、口の中に清らかな香りが残ります。
豆を発酵させた調味料の「豆豉」スープを使います。他と比べて少し塩辛いかもしれません。
「毛血旺」は鴨の血や牛、豚のホルモンをやわらかく煮込んだ四川の代表的な料理のひとつで、そのスープで焼き魚を煮込みます。
麻辣スープをベースにニンニクを大量に使って焼き魚を煮込みます。
日本ならではの味噌スープで焼き魚を煮込んだものです。甘い香りがあります。
「怪味」というのは四川風の味つけで、麻辣や酸味、塩味、甘味など複雑な味わいのこと。どんな味なのか試してみたいところです。
発酵白菜の酸菜を使ったスープで、辛さは抑えめ。さわやかな酸味が楽しめます。
甘酸っぱくてヘルシーなトマトスープを使います。
烤魚チェーンだといっても、羊の串焼きや四川料理など、一品料理もたくさんあります。
味の濃い烤魚に合わせて、レモン風味のさっぱりテイストの冷菜を選んでみました。
檸檬風味の骨抜きモミジ(鶏の爪)の和え物は絶品。骨が抜いてあるので、そのままコラーゲン部分だけ食べればいいので食べやすいです。
細切り鶏肉のレモン風味和え。かなりピリ辛ですが、酸味が辛いを抑えてくれます。
アサリのピリ辛和えも、口を休めてくれますし、お酒にも合います。
王琦さんによると、この店のデザートは特徴があり、人気だそうです。2大人気メニューはこちら。
通称フルーツ小鍋。ドラゴンフルーツやスイカ、パイナップル、ブルーベリーなどが北京のしゃぶしゃぶ鍋(涮羊肉)のような鍋に入っていて、ココナッツミルクに浸かっています。食べるとき、店の人が鍋の口に水を流し込むと、ドライアイスが溶けて白いけむりが出てきます。これも演出です。
竹筒タピオカは今年中国で流行したミルクティーで、竹筒の上にクリームたっぷりで見た目も新鮮です。
白キクラゲの漢方スイーツ「銀耳湯」はお代わり自由です。
オーナーの王琦さんは「重慶生まれの現地の味と店の雰囲気をそのまま日本に伝えたい」と話します。
1987年江蘇省徐州生まれの彼は2009年に来日。最初は日本語学校で学び、大学院に入学しました。その間、アルバイトをしながら学校に通い、卒業後、アルバイト先のオーナーから日本料理店の経営権を得て飲食店事業を始めたそうです。
一時期4店舗まで経営を拡大したそうですが、コロナ禍で2軒を閉店。日本料理店を1軒残したまま、2022年5月に「諸葛烤魚」をオープンさせました。
いまの30代の中国人オーナーには、このように在学中から飲食業に携わる人が多いですね。そのバイタリティには感心させられます。
話をしていても好感の持てる青年実業家です。みなさん、ぜひ最新の「ガチ中華」の世界を体験したいなら、この店を訪ねてみてください。
(東京ディープチャイナ研究会)
店舗情報
諸葛烤魚
豊島区西池袋1-36-4
コンソートビル5F
03-6915-2163