你好!中原美波です。
突然ですが皆さん、“ハラール中華”という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?
私は中村さんに初めて「実は近頃ハラール中華という店が出てきて…」とお話を伺った時、耳慣れない言葉に思わず「ハラール中華ですか?」と聞き返してしまいました。
さらにはその“ハラール中華”たるものを提供するお店を、あの牟明輝さんがオープンしたばかりなのだとか!
前回取材させていただいた『食彩雲南』友誼食府池袋店などを例に、牟さんは都内でも比較的珍しい雲南料理のお店を展開していますが、今年10月、日暮里に新たに“ハラール中華”に特化したお店『食彩 清真小厨 ハラールキッチン』を出店しました。
そこで今回は“ハラール中華”の真相を探るべく早速お店にお邪魔しました!助っ人はもちろん、谷井朱花さんと傳あおいさんです。
お店は日暮里駅東口から徒歩2分ほど。お店はどこだろうとキョロキョロしていると突然目に入ったのは電子看板に流れる“ハラール中華”の文字。聞き慣れなかった言葉を改めて目にして今度はどんなガチ中華に出会えるのだろうかとワクワクが止まりません。
お店の入り口はビルの1階奥にひっそりと佇み、隠れ家のような雰囲気も感じられます。しかし店内に入ると17時台にも関わらず、多くのお客さんで賑わっていました。
店内は比較的こぢんまりしているものの、カウンター席とテーブル席があり、用意していただいたテーブル席の一角はまるで家庭の食卓のような雰囲気です。早速席につき、今回の本題“ハラール中華”とは一体⁉ということで牟さんからお話を聞きながらお料理を待ちます。
~ムスリムの人々に親しまれるハラール中華~
まだまだ聞き馴染みのない“ハラール中華”ですが、この言葉は主にイスラム教徒(ムスリム)の間で通ずるイスラム法の下で、「口にすることが許されたもの」を意味する「ハラールフード」のみを使ったガチ中華です。ちなみに店名にも入っている「清真」という言葉は中国語で「ハラール」を意味するそうです。
NPO法人日本アジアハラール協会公式サイト
https://web.nipponasia-halal.org/about
広大な土地をもつ中国はかねてから様々な人々が移り住んできた関係で、今もなお55もの少数民族が暮らしています。なかでも西北地方では主にイスラム教を信仰する回族、ウイグル族が生活しています。そんな彼らが普段食べている料理そのものがまさに“ハラール中華”。そのため日本ではまだまだ聞き馴染みはありませんが、現地の人々にとっては広く親しまれているガチ中華の一種なのです。
実際こちらのお店のシェフの中には、新疆ウイグル自治区や内モンゴル自治区を出身とする方もいるそうで、本場の味を知るシェフがガチで絶品なハラール中華を振る舞います。
~ハラール認証を受ける上での苦労~
ちなみに飲食店としてハラール料理を提供するためには、「アジアハラール協会」の厳格な条件をクリアして、協会による認証を受ける必要があるそうです。
例えば豚肉やアルコールなどを使用せず、ハラールの食材のみで調理するのはもちろん、調味料も全てハラール認証を受けている業者から発注しているそうです。また、こちらのお店では幅広いお客さんに利用してもらえるよう、アルコール飲料の販売もしていますが、その際に使うグラスやそれを洗うスポンジ、収納場所も完全に分けられているそうです。
ハラールフードに限定して料理を提供するだけでも大変ですが、アルコール提供を行うことで、備品の使い分けなどさらなる大変さも生じます。しかしながらそれを厭わない牟さん。お客さんに対する思いが感じられます。
店内にはその認証を受けた証となるものが掲示されています。ムスリムの方々はこれらによって安心した食事ができるのですから、お店にとってもお客さんにとっても非常に重要な認証となります。
~日本におけるハラール中華事情~
そのような手間が要されるにも関わらず、あえてハラール中華のお店を始めた理由とは何だったのでしょうか?
実際に牟さんに伺ってみました。すると最大の理由として、「日本にはまだまだハラール中華が少ない」ということを挙げられていました。確かに私も今回の取材が決定するまでハラール中華という言葉自体も聞いたことがありませんでしたし、ハラールフード自体もあまり食べ馴染みがありませんでした。そんな中、近年日本ではガチ中華が広まりつつあり、これまで知らなかった地域の中国料理も日常生活圏で食べられるようになりました。
また、コロナ禍が落ち着きインバウンドも回復しつつある現在、エリア問わず様々な国の方が日本を訪れます。ところが、「日本にはハラール対応のお店も、ハラール料理メインのチェーン店なども少ない。ムスリムの彼らは一体どこで安心して食事ができるのだろうか?」と感じた牟さん。そこから彼らも楽しめる、ガチ中華の一種である“ハラール中華”の出店を決めたそうです。
様々なガチ中華が見られるようになった現在では、ガチ中華も飽和状態にあるように感じていて、これからは対中国人、対日本人に限らず対世界でお客さんを捉えるようになったそうです。
そして、純粋に牟さんが羊料理好きで、日本で羊料理を提供するお店を増やしたいそうです。グローバル化で日々変化が激しい中、現状に留まることなくさらに広く目を向け、好きなことを通じて新しいことにチャレンジし続ける牟さん、やはり素敵ですね。
~初めて出会った絶品ハラール中華の数々~
さて、皆さんに共有したいことがあまりに多すぎて説明が少々ボリューミーになってしまいましたが、いよいよここからハラール中華の料理の数々を紹介します。
今回もまるでフードファイターかのように本当にたくさんの料理をいただきました。(笑)みなさんもお腹を空かせてご一読ください!
4種類の前菜盛り合わせ
まずハラールフードである牛をメインに扱った前菜メニュー4種を盛り合わせたワンプレートです。それぞれ簡単に紹介します。
①牛の黒センマイのマラー和え
こちらは牛の胃袋の冷菜。ひんやりと冷たく、山椒のキリッとした香りが噛めば噛むほど広がります。あまり辛くなく、爽やかで病みつきになる一品です。
② 牛の白センマイのマラー和え
①と同じ部位ですが、煮ると白色に変わるそうです。葱油で味付けされており、おつまみにぴったりな味わいです。
③牛ハチノスのマラー和え
見た目からも想像できる通り、唐辛子が使用されています。①、②とはまた違ったピリ辛風味です。コリコリとした食感の中に旨みがギュッと凝縮されています。
④牛アキレス腱の醤油漬物
私は初めてのアキレス腱料理!少しどきどきしながら食べてみるとほんのりした甘味がふわっと広がり、食感はクリュクリュ、といった感じ。コラーゲンたっぷり感があり美味しかったです。
ちなみに私はいずれの部位も食べ馴染みないものでしたが、どれも味食感と病みつきになり、箸が進んでしまいました。
手づかみで食べるスペアリブ
塩茹でされたお肉はしっとりと柔らかく、骨付きですが簡単にほぐすことができます。脂身もクセが少なく旨みと甘みが主役となっています。ちなみに右にあるソースはアクセントとなるニンニク醤油、ごま油、パクチーなどで作られています。
ニンニクがアクセントとなったソースの塩味はお肉の甘味によく合います。もちろん、ソースなしでもいただける美味しさなので一口目はまずそのままで、熱々のうちに召し上がってください!
油かけ肉入り混ぜ麵
具材はやはりハラールフードで、お肉はこれまた柔らかく調理されたラム、その他ピーマンやトマト、玉ねぎなど甘みや爽やかさを加えてくれるお野菜もたっぷりです。風味は青椒肉絲に近いような感覚でした。ほうとうのような太さの麺はもちもちつるつるで最高の食感です。
と、まずここまで3品みてきましたが、ハラール中華に対してどのような印象を受けているでしょうか?
ちなみに私は食べる以前、ハラールフードのみ、と制限された食材の中で作られるため、今まで食べてきたガチ中華よりヘルシーでメニュー数も少し限られるのかな?とイメージしていました。しかしそんなイメージも開始早々一変、これまでのガチ中華と何ら変わらずスタミナ満点で味わい深いという印象を持ちました。
ここから先はラム肉を扱ったものを中心に、さらにボリューム満点なお料理を紹介し、ハラール中華の奥深さ知っていただければと思います!
ラム肉串
こちらは先ほど紹介したスペアリブと同様に人気メニューの一つです。みなさんすでにご存知の料理かとは思いますが、こちらは一味違います。お馴染みの、と思いながら目の前に串を運ぶと「あれ??めちゃくちゃ重い、大きい、、お皿に乗らない、、」とびっくり。
BBQみたいなサイズ感です。そして食べてまたびっくり。そのサイズ感にも関わらず簡単に噛み切れくらいしっとり柔らかいのです。こんなにも肉々しくて歯切れ良い羊肉串は初めてで、この先も記憶に残ること間違いなしの羊肉串でした。
味付けに使用されているクミンのヒリヒリ感もお肉の旨みをグッと引き締めてくれて、もたれるようなこってり感もありません。牟さんも、「西北地方出身の方が作る羊肉串はやはり格別に美味しくて、ウイグル族や回族の方に限らず多くの方に好まれますね」と一言。
ラム肉水餃子
続いては皆さんも大好きな水餃子。適度に厚みがありもちもちした皮、お肉のぎっしり感はまさにガチ中華ならでは。
名前の通り、タネには豚肉ではなくハラールのラム肉が使用されています。私たちが家庭で食べる豚肉の餃子よりも羊肉のものの方が後味がさっぱりなので、いくらでも食べられそうです。
ちなみに私はテーブルに用意されている醤油をつけて食べたのですが、協会指定のもののためか、なんとなく醤油の味わいも大豆感が強いように感じました。いつものものとは一味違った餃子が楽しめます。(ちなみにスペアリブについていたニンニク醤油ベースのソースも餃子によく合います!)
ラムスペアリブ炊き込みご飯
そしてこちら、私の個人的お気に入りNo.1のお料理で、皆さんに紹介したくてしょうがありませんでした!(笑)
こちらは中国に限らず中央アジアで広く食べられているメジャーな料理だそうで、店内で食事していたウズベキスタン人の方々も馴染み深いようで、料理を見たとたん、母国語で「ポロ!」とメニュー名を嬉しそうに口にしていました。
私は中華というとやはり炒飯のイメージが強く、炊き込みご飯は食べたこともなければ想像もつきませんでした。現地は乾燥地域のため緑の野菜はあまり使われないそうで、具材はラムのスペアリブとにんじんと至ってシンプル。しかしながら、羊スープ、干し葡萄などをベースとした出汁で炊き込んだご飯は羊肉のミルキーな甘み、旨みがよく染みており、優しい味わいです。
ご飯もピラフのようにパラパラに仕上がっており、主食とはいえペロリと食べられます。毎週食べたいくらい私もお気に入りの一品。
ラムアキレス腱とネギ炒め
前菜に続いて2度目のアキレス腱を使った料理。
今度は羊のアキレス腱で煮込み料理です。写真からも伝わるほどとろとろにじっくり煮込まれています。実際食べてみると煮込んだアキレス腱は本当にプルプルしており、前菜の牛のものとはまた全く別の食感。臭みもありません。
味付けは醤油や生姜などで特に辛くはなく優しい甘みです。具材と調味料のコクがギュッと詰まって、まるでビーフシチューのような味わいでした。
牛ハツモトのクミン炒め
そして最後に出てきたのがこちら。ハツモトとは心臓に近い大動脈のことで、私にとってはこれまた初挑戦の部位でした。
しかしこれもまたすっかり私のお気に入りに。食感はエリンギの茎に近く、コリコリと歯応えがあります。味も比較的淡白なので味付けのクミンの風味が引き立ちます。その他にもピーマン、パプリカ、パクチーと野菜もたっぷり。唐辛子は苦味と酸味をプラスし、炒められたピーナッツは甘味と香ばしさがあり、味も食感も楽しい一品です。すでにお腹一杯でしたがついつい食べてしまいました。
ということで何とびっくり全8品でした! この記事を読んだみなさんもお腹いっぱいになったでしょうか?
~利用者の声~
そして、実際にムスリムのお客様も来られていたのでお話を伺ってみました。簡単にご紹介します。
まずは5人組のウズベキスタン人の方々。
今は日本に在住しているそうで、同じく日本に住んでいる友人からこのお店を聞いて初めて訪れたそうです。
皆さん日頃から普段からハラール料理を食べるそうですが、日本ではやはりハラール対応のお店を探すのは大変だと言います。
そんな彼らが注文していたのは「羊煮込みスープ麵」。初めて訪れて気に入ったのか、追加でラム肉串も注文していました。ムスリムの方も羊料理に馴染みがあり大好きなようです!そして帰る際には先ほど紹介したアジアハラール協会認証の証明書の写真を撮影していました。やはり協会による認証の重要性を感じます。
お話を伺ったもう一グループはエジプト出身、現在日本で働く3人組の方でした。
こちらのグループもやはり、友人の紹介により初めてこのお店に訪れたそうです。皆さん数少ないハラール対応飲食店を友人同士で共有しているみたいですね。日本にはまだまだ認証を受けているような、安心して食事できるお店が少ないため、「こういったお店があるのはありがたい」と話していました。
こちらのグループでは麻婆豆腐など各々食べたいものをオーダーしていました。
なお印象深かったのはこのようなムスリムの方が店員さんと日本語を通じてコミュニケーションをとっていたこと。
母国語でもなく中国語でもなく、日本という場で料理を通じてグローバルに交流しながら、馴染みの味を楽しむ。何だか複雑な状況ですが、現代のグローバル化の良さを見たような気がしました。
そして何より、牟さんの想いがムスリムの方々にしっかり届いていることがわかり、食を通じて提供者側の思いやりが届いていくその繋がりに、改めてハラール中華の魅力、そして広くガチ中華の魅力を感じました。
最後に利用者の声として谷井さんと傳さんの声も紹介します!
Q1:お気に入りのメニューは?
Q2:ハラール中華の印象は? という2つの質問に答えてもらいました。
谷井朱花さん
Q1:お気に入りのメニューは?
ラムスペアリブ炊き込みご飯です。人参のやさしい甘さとラム肉の旨み、レーズンのほのかな香りがご飯に染み込んでいました。中央アジアでメジャーな料理らしいのですが、出汁文化を持つ日本人の舌にも合う!と確信しました。 日本人には以外な組み合わせと感じますが、全部ふわっとまとまっていて優しい味です!ぜひ!!
Q2:ハラール中華の印象は?
日本でハラール料理と中国料理を組み合わせたお店を経営していると聞いた時は、料理も客層も全くイメージできませんでした。実際に訪れてみると料理も客層も3つの国が交わる場所になっており、私にとってまさに新境地でした。牟さんから、日本はムスリムの方が食事できる場所が少ないという話を聞き、ぜひこのお店が契機となり、全ての国の方が安心して食事を取れる場所が増えれば!と感じました。
傳あおいさん
Q1:お気に入りのメニューは?
私のイチオシメニューはラムスペアリブです。身はほろほろで程よい塩加減でタレをつけずに食べても美味しいです!これまでガチ中華でラム料理をいくつか食べてきましたが、ラムの新たな一面に出会えました。気づいたらお皿が骨だらけになっていました。
Q2:ハラール中華の印象は?
島国である日本は他の文化と融合することはほとんどなく、忘れがちになってしまいますが、文化には国境がないということを改めて気付かされました。実際中国にもハラール中華を出しているお店が多くあると知り、また一歩”ガチ”の味を知ることができました。
~まとめ~
ということで、今回は紹介も料理もボリューム大でしたが、“ハラール中華”いかがだったでしょうか?
ハラール中華は制限されているのではなく、むしろまだまだ知らないガチ中華を教えてくれる、ガチ中華の領域を広げてくれる奥深いものだと発見することができました。そして私も、以前よりもっと羊料理が好きになりました。
ハラール中華は日本ではまだまだ発展途上にはあるかもしれませんが、牟さんが仰っていた通り、今後その需要は確実に高まっていくと考えられます。
これから先、中国と日本だけでなく、国籍を問わない幅広いコミュニケーションを生む媒体として、このガチ中華が発展していくように、そして私もその後押しができればと考えるようになった取材でした!
そして日本において、新たなガチ中華を積極的に展開し続ける牟さん、今後もどのようなガチ中華と私たちを巡り合わせてくれるのか、乞うご期待です!
(中原美波)
店舗情報
ハラールキッチン(清真小厨)
荒川区西日暮里2-54-6 KSビル102
03-3801-5778
https://halal.owst.jp
Writer
記事を書いてくれた人
中原 美波
代表からのひとこと
中原さん、谷さん、傳さん、今回もお疲れさまでした。
ぼくも牟さんが「ハラール中華」のお店を始める話やその狙いを聞いたとき、なるほど、それは面白いと思いました。実際、店を訪ねると、中原さんが書いてくれたように、ウズベキスタンやエジプト、マレーシアなど、中国の人たちに交じってムスリムの人たちが来店しており、さすが狙いどおりだなと感心したものです。
この店で厨房に立っているのは、新疆ウイグル地区出身の胡鹏さんと内モンゴル自治区出身の白鋼さんで、おふたりはこれまでハラール料理をつくってきた人たちです。
中原さんが書いているように、牟さんが「ハラール認証」を取得するには、いろいろ苦労があったそうです。今度、ぼくは日本アジアハラール協会の方にお話をうかがいに行こうと思っています。その話はまた今度しますね。