中野富士見町に2023 年12月にオープンした本格四川料理「素心道」に友人と一緒に訪ねました。
案内してくれたのは、年末市ヶ谷の広東料理店「焼味佬」の忘年会に誘ってくれた広州出身の羅鳴さんです。
この店のオーナーは四川省出身で、香港在住中、日本の男性と結婚されて来日した太田菜菜子さんです。最近、中国から富裕層がお忍びで来日しているようですが、そのような客層を意識した「私房菜」です。先日も香港の芸能人が来店したそう。
私房菜というのは、香港の食文化のひとつで「プライベートキッチン」と呼ばれるひとりのシェフが数少ない個人客のためだけに作ってくれる料理のことです。羅鳴さんによれば、このスタイルの店の発祥は1920年代の中華民国時代そうです。
こんな隠れ家のようなお店が中野富士見町にあるのですね。しかも場所は地下鉄丸ノ内線駅から徒歩1分の場所です。
昼間の営業は手ごろな値段で四川風ワンタンや担々麺、そしてランチコースなどが食べられますが、夜は基本的に予約制のコースしかやってません。成都出身の若いシェフは、王鵬さんといって、モダンな四川料理と特にスイーツを得意としているそうです。
では、その日いただいたランチコース(3800円)を紹介します。
最初に用意してくれたのは、広東産のライチ紅茶。ライチの甘い香りとほんのりとした甘さが心をリラックスしてくれます。
本日の前菜3点。左からおろし山芋のブルーベリーかけ、四川風香腸、四川料理の定番のひとつ韮泥白肉。それぞれ食感も味も異なり、美味ですが、特に花椒とニンニクの利いたピリ辛の四川風香腸(ソーセージ)は見かけよりずっと上品な味わいです。
スープは松茸入りチキンスープ。雲南産の松茸を使っているそうですが、スープは当然のようにすべて飲み干していまいます。
本日の点心は、小籠包、エビシュウマイ、エビ蒸し餃子という定番の三品。文句を言いようがありません。
メインの肉料理は、辛くない四川料理の代名詞「老媽蹄花(ラオマーティファ)」という花豆と豚足の煮込み。羅鳴さんによると、広東ではこれを「富貴猪手」と呼ぶそう。足は食べるには穢いので、「(前足)手」と呼ぶのだとか。
主食は四川風水餃子の「紅油水餃」。豆板醤や花椒と辣油で味つけした水餃子ですが、辛さは控えめにされています。ぼくもそうですが、羅鳴さんは広東人なので、辛さを抑えてくれたのだと思います。点心があったので、主食は麺かご飯物がいいと思ってしまうのは日本人だけなのかもしれません。
そして、これが王鵬さんのもうひとつの腕の見せどころである食後のデザート。シェフ特製のココナッツミルクのスイーツ、キンモクセイとココナッツの実がけです。ふだんデザートをあまり口にしないぼくですが、甘さ控えめで、これまた上品な味に大満足でした。
以上がランチコースですが、夜のコースは、6800円、11000円、22000円から。フカヒレやアワビなどの高級食材も加わりますが、本格派の四川料理が選べて、このメニューから事前にお好きなものを頼むことができます。
これが王鵬さんの手づくりスイーツのメニューです。これも夜のコースで事前予約が必要です。
さて、数日後、ぼくは学生ライターの中原美波さんとそのゼミ仲間の谷井朱花さんと3人で店を訪ねました。なかなか夜のコースはお高いですが、昼のランチメニューなら気軽に楽しめるし、紹介したいと思ったからです。
ランチメニューは6種類の四川風ワンタンや担担麺、各種点心から選べて、ワンタン1品にサラダやお粥、デザート(エッグタルト)を加えたセットがあります。
この日は3人でワンタンを3種食べ比べようということで、太田さんおすすめの「鶏白湯」「酸辣」「山椒」と、ここはやっぱり外せないということで担担麺を注文しました。
食後の感想をふたりの学生がこう話してくれました。
谷井朱花さん~推しは「酸辣」
今回のガチ中華は大きいワンタン〜!! 登場した途端、もはやシュウマイなのかと思わせるビジュアルに心がときめきました!
味ももちろん大満足で、肉肉しいワンタンも美味しかったですが、山椒やお酢、漢方の香りが広がるスープの味わいが今でも忘れられません、、、胃も心も大満足でした〜!
特に酢ラーの私にとってNo.1ワンタンは酸辣!酸っぱさが癖になっておいしい〜〜〜!中国の黒酢が使われているらしく、日本のお酢よりまろやかで深みがある感じがしました。
肉肉しい種とチュルチュルの皮、そして風味豊かなスープ!絶品でした〜〜!!明るい店員さんも大好きです✨また食べに行きます〜(手作りエッグタルトも必須)
確かに、四川のワンタンは日頃スーパーで売っているちっちゃな一口サイズのものとは違いますね。スープもそれぞれ違いがあり、飲み干してしまいたくなります。四川のご当地酢は「保寧醋」だと太田さんに教えてもらいましたね。
中原美波さん~推しは「山椒」「担担麺」
まず店内に入った途端、ポップな店構えとはまた雰囲気がガラリと変わり、開放的でスタイリッシュな空間が印象的でした。そして何より、王さんと太田さんによる、具もたっぷり、心のこもった大ぶりワンタンはこれまで食べたことのあるものとは一味も二味も違いました!
スープの香り高さもまた別格で、私は特にキレのある痺れと爽やかさが特徴的な山椒がお気に入りでした。
四川担担麺もまたお気に入りの一つ。少し太めの麺に絡む程よい甘みとじんわり温まる辛みは広く好まれること間違いなしの美味しさです。さらに太田さんのご厚意でいただいたエッグタルトも必ずと言って良いほど食べてもらいたい一品です。
とにかくどのお料理をとっても美味しいことは言うまでもありません!王さんと太田さんの優しい雰囲気が作り出すからこそのお店の雰囲気に包まれて、家庭料理のような、でも高級レストランのような絶品料理を楽しんで、身も心も温まってもらえたらと思います。実家からは遠いですが必ずまた訪れたいです!
中原さんも言っていますが、このエッグタルトおいしかったですね。なんでもこれは王さんではなく、太田さんの手づくりなんだそうです。テイクアウトもできるそうです。
ところで、ランチを終えて店をあとにしようとしたとき、カウンターに1冊の雑誌が置かれているのに気がつきました。
この雑誌は中国で発行されている「悦游Traveler」という旅行雑誌の2023年1月号でした。太田さんに話を聞くと、いまからちょうど1年前、この雑誌の取材を受けたのだそうです。
実は、昨年12月に中野富士見町にいまの店をオープンする前、同じコンセプトの隠れ家風のレストランを沼袋で経営していて、そのときの話だそうです。
雑誌の取材陣と一緒に店を訪ねてきたのは、中国の有名モデルで女優の秦舒培(チン・シューペイ)さんとその娘さんでした。
彼女は河南省開封生まれで、2008年に春夏のNYファッションウィークに参加し、モデル業界にデビューして以来、さまざまなファッション誌でも活躍しています。
記事にざっと目を通したのですが、秦舒培さんはここ数年、年末年始にはご主人(香港の俳優、歌手でストリートファッションブランドの「CLOT」のディレクターでもある陳冠希さん)や娘さんと一緒にお忍びで東京を訪れているのだそうです。そのとき、沼袋にあった太田さんの私房菜を訪ねたというストーリーでした。
こんなお店が東京にはいくつかあるそうです。もっと知りたいですね。もしかしたら、夜のコースで訪れたときに、香港の芸能人に偶然出会えたりするかも……。
一度昼間に軽くランチを体験してから、夜のコースを楽しむのがいいかもしれません。
(東京ディープチャイナ研究会・中村正人)
店舗情報
素心道
杉並区和田1-17-2
03-6690-8378