東京ディープチャイナ(TDC)のHPやFBで紹介される東京のガチ中華事情を見に行きたい(もちろん食べるけど)と思っていたのに、なかなか上京できなかった。やっと5月末に上京でき、東京のガチ中華を体験することができた。
コロナがまだ落ち着いてなかった頃、「羊貴妃羊湯館」という羊のスープのお店が御徒町にあることを知り、羊大好き人間の私は東京がうらやましかった。上京したら絶対、ここに行ってやろと思っていた(後に「羊貴妃羊湯館」は関西のガチ中華地帯の大阪島之内にも出店してくれた)。
私が羊貴妃羊湯館を知った頃から空前のガチ中華ブームに入り、TDCのサイトで知る東京の行きたい店をメモしても、どんどん新しいお店が出てくるので頭がアップアップ。情報を追いかけることをあきらめた。
そんなわけで上京した際、最初のお昼ごはんは、数えきれないほどあるガチ中華のお店から厳選するのではなく(そんなことしたら、決められない)、気になっていた「粤港美食2号店」にした。
東京駅につくと、早速中央線に乗って、粤港美食2号店まで移動。
私はローストダックのっけ飯(980円)にローストポーク(540円)を追加。めったに来られないお店だから、2種類食べたい。
ローストダックは、繊維質だけど、身がしまっていて、ちょっと甘いソースがよくあう。カリカリに焼いたローストポークは脂身と赤身のバランスが絶妙。軽い塩味で何もつけずに食べてもめちゃうま。粤港美食2号店は我が家の近所に欲しいお店だ。
食後、神田の古書店街を歩いて驚いた。ガチ中華のお店を探すまでもなく、四川、上海、東北、火鍋に加え、蘭州拉麺のお店があっちにもこっちにも。ガチ中華の聖地池袋に行くまでもなく、ここだけでも相当なガチ中華地帯じゃないか~っ!
神田古書店街散策の後は、山の手線でガチ中華の聖地池袋に移動。とりあえずは繰り返しテレビで見た「沸騰小吃城」に行ってみた。午後4時と中途半端な時間だけに中はガラガラ。思ったよりもこじんまり。テレビだと大きなフードコートみたいな感じに見えたのに(友諠食府と勘違いしていた)。
ガチ中華ブームが来るとは誰も思ってもいなかった15年以上前、JR池袋北口の「永利」という東北料理店に連れて行ってもらったことがある。当時の私は、実は一回も東北料理を食べたことがなかった。一皿の量が半端なく多く、家庭料理のような素朴さの中に豪快さがある東北中華料理と大陸そのものの味が東京で食べられることに驚いた。
沸騰小吃城の周辺では東北料理店以外のガチ中華店が目についた。麻辣烫(マーラータン)、羊肉砂鍋、烤魚(カオユー)、過橋米線などなど。ここでは四川、西北、雲南の料理が普通に食べられる。池袋北口付近に東北料理屋が集まっていた時代を思うと、今はとにかくバリエーションが広がっている。
烤魚はもともとは重慶の巫山から始まった料理。烤魚と言っても、焼くと言うより煮る。豆腐皮、蓮根など数種類の具をいれて楽しむ(お店の人曰く、あまり大量にいろんな具をいれるのはよくないそうだ)。90年代以降に生まれた新しい料理ながら、中国の大都市で大流行中。それが日本で食べられるなんてガチ中華ブームのおかげ。
翌朝は山の手線で高田馬場へ。
コロナ期に日本人経営のお店が撤退した後、そこにガチ中華のお店がごそっと入ったと聞いていたので、その様子を見に行きたかった。早稲田口から下りると、いきなり眼の前に「民福北京ダック」の看板が! 東京に行く1週間前、北京にいた私は民福で北京ダックを食べてきたばかり。民福は北京では誰もが知っている人気北京ダックのお店。あの民福の支店が高田馬場にあるなんて(実際のところは本物かどうかはわからない)!
民福の写真を撮り、歩き出すとすぐ、私が北京で必ず行く「犟骨頭排骨飯」の店が目についた。
ここは醤大骨(ジャンターグー)という、骨付き肉の醤油煮込みのお店。でっかい骨を手でもち、骨のまわりに残った肉にむしゃぶりつきながら、ごはんを食べると最高にうまい。
肉を粗く削ぎ落した後の骨だから何しろ安い、それでいてボリュームもある。男飯という感じで北京では一時ブームになったほど。あの「犟骨頭排骨飯」は高田馬場にあるなんて、うらやましすぎる。こちらも民福と同じで本当にチェーンなのかは謎だけど、犟骨頭排骨飯が食べられるなら、それだけで満足だ。
さらに驚いたのは、1枚の肉夹馍(ロージャーモー)の写真。
中国のハンバーガーと称して、紹介される肉夹馍は、陝西省西安名物。豚バラ肉のとろとろ煮込みを細かく刻んだものを白吉馍(バイジーモー)と呼ばれる餅(パン)に挟んだものだ。おいしさと片手で食べられる手軽さが受け、日本のガチ中華のお店でもすっかりおなじみになった。
ただ、ピーマンと豚肉をクミンで味付けして炒めたものを挟んだ孜然(ズーラン)肉夹馍というタイプのものが出てくることもあり、正統派の豚バラとろとろ煮込み入りの肉夹馍に出会える確率は高くない。
高田馬場で見つけた臨潼(リントン)肉夹馍は、餅がクリスピータイプのもの。関西では西北料理店でも白吉馍を使った肉夹馍ばかりなのに、東京だと、こんな通な肉夹馍がある。
麻辣香鍋、麻辣烫などの若者受けするメジャーな料理だけでなく、こんなマイナーな料理があるところに東京のガチ中華ブームの奥行と幅広さを感じた。
2日目のランチは新宿の北京料理「隨園別館」。
こちらは連れて行ってくれた知り合いが子供の頃からあると言う老舗で、まさに元祖ガチ中華のお店。看板料理の「合菜戴帽」は、キャベツ、もやし、春雨などを炒めたものに卵焼きをのっけたもの(卵焼きを帽子に見立てるので戴帽という)で、春餅に甜麵醬を塗り、合菜戴帽をのっけ、巻き巻きして食べる。
随園別館の古めかしいけど、心地よい席に座っていると、昭和で時間が停まっているような感じがした。この感覚は私が生まれ育った神戸の元祖ガチ中華のお店でごはんを食べる時と全くいっしょ。昔とかわらないメニュー(中の料理だけでなく、メニューそのものがむっちゃ古い)で、昔と同じ味を作り続けている。
卵焼きが黄色というよりオレンジ。これは黄身がものすごく濃い色の卵を使っているらしい。この卵は高いんじゃないだろうか?元祖ガチ中華のお店は、厳選された食材を使っていても料理が安いのがいい。
ガチ中華ブーム以降、初めての上京で、京都と大阪のガチ中華地帯をあわせた規模をはるかに上回る規模の東京のガチ中華にすっかり度肝を抜かれてしまった。ざっと見ただけなのにガチ中華のお店があるわ、あるわ。ガチ中華は中華料理界の最大勢力と言ってもいいんじゃないの?
私が住む京都のガチ中華は、北は京大に近い元田中、南は龍谷大学に近いくいな橋周辺に集まっている。
特にくいな橋周辺のガチ中華食堂は住宅街にまぎれこんでおり、ほぼ留学生御用達で日本人客をあまり意識していない。場所だけではなく、メニューを書いた看板からして、簡体字のみで日本人にはわかりにくい。東京のガチ中華のお店は、立地からして、日本人客をもとりこもうとしているように見えた。
東京のガチ中華のお店のなかでも民福はものすごく日本人客を意識したお店。関西のガチ中華のお店にここまで日本語表記のお店があるだろうか?
ガチ中華は単なるブームではなく、ガチ中華という中華料理の1つのジャンルになったと思うけれど、関西でも蘭州拉麺店や火鍋屋の閉店が見られるようになった。東京では、これだけガチ中華のお店が多いと競争も相当熾烈に違いない。数年後、いや来年、今回私が見かけたガチ中華のお店は、いったいどれぐらい残っているだろう。
(浜井幸子)
店舗情報
粤港美食2号店
千代田区神田神保町1-2-9
03-3518-9499
馬子禄牛肉面
千代田区神田神保町1-3-18
03-6811-7992
犟骨頭排骨飯
新宿区高田馬場1-17-15
隨園別館新宿本店
新宿区新宿2-7-4
03-3351-3511