放送作家の島津です。どうぞ、よろしくお願いします。
今回、ご紹介するのは「ハラール中華」です。どうでしょうか?
一応、説明をしておくと、「ハラール料理」とはイスラム教の教えに則って調理・製造された食品や料理、またはそれらに付与される認証のことです。「ハラール」とはアラビア語で「許されたもの」を意味し、食べてよい物と。一方で食べていけないもの「ハラム」の代表が豚肉やアルコール類になります。
日本人向けに平たくいうと、豚肉やアルコール類を提供しない、羊や鶏がメインのお店です。でも実は今回紹介するお店ででは豚肉は出ませんがアルコール類は出ます。
というのも使うグラスやスポンジが厳密に管理され、ムスリム以外の人にはアルコール類も提供しているので酒好きの方、安心してください。
ひと昔前の自分の知識では、ハラール料理への認識はどうしてもイスラム圏の中東を思い浮かべますが、実際にはマレーシア、シンガポールさらには中国で言えばウイグル族の人もムスリムに該当するので知る人からすれば「ハラール中華」というカテゴリーも昔からあるものです。
ただ、やはりそれほどメジャーかというとそうではないようです。強いて例えるなら「もつ鍋」みたいなものでしょうか?
地元では定番ではあるけど、決してメジャーではない。であるがゆえに「もつ鍋」が食べられるお店があるならば、ちょいと足を運んでみたいと。きっと、ムスリムの方からすればいつもの味はちょっと飽きたから「今日は変化球で行きたいな」くらいの面持ちじゃないかと勝手に想像しています。
マーケティング的には非常にニッチでありながら確実なニーズが見込めるジャンルではないかと思います(事実、東京ディープチャイナの記事でもウイグル料理の店がいくつも紹介されてますね)オーナーのビジネス嗅覚が見事です。
では今回の紹介するオーナーさんは誰かというと、東京ディープチャイナではお馴染みの食彩雲南・ムーさんの蒸鍋館のオーナーでもある牟明輝さんです。
10月初旬にオープンした「食遇・楼蘭(しょくぐう・おうらん)」というお店です。
食彩雲南グループとしては日暮里にある「ハラールキッチン」に続くハラール中華としては2号店となる店です。映画で言えば1本目がヒットしたから2つ目があるというね、その人気ぶりをひしひしと感じます。
ハラールキッチン
「手づかみで食べるラム肉」はほぼ原価です
場所は大塚駅から徒歩5分ほど。実は今回、新店舗のオープンに先駆けた試食会へと参加してきました。
後日、訪れた際には午後の開店と同時にムスリム系の中高生とヒジャブ姿の女性客も。彼らのネットワークで立ちどころに情報が共有されているのだなと感じます。
まず、紹介するのは店イチオシの「手づかみで食べるラム肉」です。牟さん曰く「ほぼ原価です」とのこと。いわば集客のために利益は度外視!という逸品です。まさに看板メニュー。
ニンニク醬油、ゴマ油、パクチーをベースにしたタレに付けて食べます。口に入れると骨から肉がスッと取れてフワフワで柔らかな肉を堪能出来ます。これを軸に注文しながらサイドメニューを注文するのがおススメです。
つづいては定番の「ラム肉大串」です。(1本280円。注文は2本から)大粒のラム肉は食べ応えが満点です。クミンのスパイスが効いた一品でビールが進みます。
ガチ中華店同様の前菜も味わえます。写真はきゅうりのニンニク和え(480円)と牛ハツモトのネギソース和え(680円)。ハツモトとは牛の心臓につながる大動脈にあたります。ホルモンならではコリコリ感は酒のつまみにもってこいです。
「牛のアキレス腱の醤油漬け」は初体験
初体験だったのが「牛アキレス腱の醤油漬け」。ちょっとゼラチンにも似たような感じです。
つづいてのハラール中華が「鶏肉じゃがいものスパイシー煮込み」(ハーフ1680円)です。
私は取材の後に知ったことですが、ハラール中華において「じゃがいも」は定番の食材のようです。今回、食べることはありませんでしたが「ジャガイモの飴がけ」(大学芋のようなメニュー)や「ジャガイモの酢辛炒め」などのメニューもあります。ドイツでもじゃがいもメニューというのが多いのですが、これは地理的に寒冷で土壌が豊かではない地域ならではです。米や小麦が取れにくい地域の食文化が滲んでいます。さて、こちらのスパイシー煮込みはカレー風味でじゃがいもがあるのでカレー感満載です(通常は麺料理も付きます)。
「ラムスペアリブとナンの新疆風味」はハラール中華ならではの味
つづいては「ラムスペアリブとナンの新疆風味」(1980円)です。
味付けは上記のスパイシー煮込みと似ています。スペアリブはほろほろで肉と骨がスルッと取れます。この料理ポイントはやはりナンです。インドカレーで食べるナンとはちょっと違います。汁と馴染んでる部分とそうでない部分の食感がいいですね。カレーにも使われるターメリックのスパイスは四川料理、広東料理、東北料理にはないハラール中華ならではないでしょうか。
牟さんにおすすめされたドリンクが「八宝茶」。
クコの実、龍眼(龍の目に似ていることからの由来)干しブドウ、ナツメなど入ったお茶。中国全土で親しまれているようです。
また、ディープチャイナの中村代表が訪れた際に教えていただいたのが「クワス」というソフトドリンク。ライ麦を発酵させたロシア由来のドリンクだそうで元々は東北の地域から伝わり、ウズベキスタンやシルクロード周辺の地域にも伝わったようです。味はすっきりとした微炭酸ジュースで変な甘さはなく、日本人の口にも合うドリンクです。
「ラム肉の炊き込みご飯」と「ヤンザータン」こと羊スープ
今回、味わったわけではないですがラインナップの中にあるのが「ラム肉の炊き込みご飯」です。写真は日暮里店で提供されたものです。牟さん曰く、「大塚店ものとは若干、中身が違う」「日本人には人気のメニューです」とのことで参考までに。
そして日暮里店と同じくメニューにあるのが「ヤンザータン」です。羊のいろんな部位から取った出汁で出来た白湯スープでホルモン肉がいろいろ入ってます。味つけがあっさりしているので個人的にはちょっと調味料を欲しいところです。
まとめ
ハラール中華、いかがでしたでしょうか?
私は常に「食の冒険家」でありたいなと思う日々ですが、未体験の味に出会うことは一つの喜びです。身近に世界を感じられるのはまた楽しいものです。百聞は一見に如かずです。ぜひ、皆さんも体験してみてください。
大塚ハラール中華!食遇楼蘭のオススメ3品
(島津秀泰)
店舗情報
食遇楼蘭
豊島区南大塚2-36-1-105
03-3945-1977
ハラールキッチン(清真小厨)
荒川区西日暮里2-54-6 KSビル102
03-3801-5778
Writer
記事を書いてくれた人
島津 秀泰
代表からのひとこと
今回の記事でも紹介されていた「クワス」という珍しい清涼飲料をについて、もう少し詳しく説明したいと思います。
クワスとは、黒パンに水を加えて発酵させ、甘味料を加えたロシアの国民的ドリンクです。
ではなぜハラール中華の店にロシアのクワスがあるのか?
それはひとことでいえば、中央アジアがかつてソ連邦だったことと関係します。要するに、ウズベキスタンをはじめとした中央アジアの国々では、ロシアの食文化の影響があり、クワスを飲んでいたのです。
中国のウイグルとウズベキスタンの食文化がよく似ていることから、同じムスリム文化ということもあり、クワスを飲むようになって、新疆ウイグル自治区のレストランの食卓でも提供されるようになったのだと思います。
でも、よく見てください。「食遇・楼蘭」のクワスのボトルには、中国語で「格瓦斯(クワス)」と書かれています。そしてその上に「秋林」とも。
実はこの「秋林」というのは、黒龍江省ハルビンにある老舗デパートの名前です。
「秋林公司」は1900年開業。イルクーツク出身のロシア人実業家のチューリンがハルビンに支店を開き、ロシア製の食材を生産・販売したのが始まりです。そのとき、クワスも生産されたので、ハルビンの人たちにはなじみのあるドリンクなのです。
つまり、このクワスは中国産ということで、日本の中華食材店などでも売られるようになり、
こうしてハラール中華の店でも提供できるようになったのです。
これはハルビン市内にあるロシアレストランとロシア食品の販売店です。
ハルビンという町についてはこちらの記事を参照ください。
「ガチ中華」の世界はまさにグローバル。さまざまな食文化が中国で採り入れられ、それが日本に届けられているのです。