今日はラオスで仕事をしている幼馴染の S さんが一時帰国しているので、久しぶりの再会です!
彼女はアメリカ等からの帰国子女で、日本の大学卒業後にはオランダで学んだこともあり海外経験が豊富です。それゆえ、食文化への関心が高いのですが、ガチ中華が好きになったきっかけは私にあるそうです(笑)。
今回選んだお店は、上野御徒町にある「王さん私家菜(おうさんスージャーツァイ)」です。
アメ横の路地を入ったところにあります。

今年2月に開催されたTDC中村編集長主催の「上野御徒町ガチ中華ツアー」に参加した際、貴州のミャオ族出身の方が経営で、貴州料理があると知り、食べてみたかったんです。貴州の知名度はあまり高くないかもしれません。私が初めて貴州のことを知ったのは、何年も前にガチ中華のイベントでもらった貴州観光案内の冊子でした。

この冊子から貴州とミャオ族のことを少し紹介します。
中国には漢民族以外に55の少数民族がいます。貴州は中国の南西に位置します。

人口約3580万人の貴州省では、うち漢民族が約60%、18の少数民族が約30%、中でもミャオ族はその少数民族の中の12%を占めており、山岳地帯にいます。いくつかの部族に分かれていて、それぞれ言語や民族衣装が全く異なるそうです。
Sさんが、ミャオ族と同じ民族はSさんのいるラオス他、ベトナムやタイにも「モン族」という名前で住んでいることを教えてくれました。
編集長が、写真家で、貴州にも何度も取材経験のある佐藤憲一さんを紹介して下さり、ミャオ族の写真をいただきました。


どちらも鮮やかで素敵な衣装…!
そんなミャオ族や貴州の人達の食べる料理って、どんなものなのでしょう?
店内メニューには青椒肉絲や酢豚等よく見る料理が並んでいますが、壁には見慣れない料理の写真が。ドクダミ回鍋肉、ドクダミ炒めとドクダミが目を惹く店内。お勧めメニューが冊子に載っておらず、壁に貼ってあることはガチ中華店の特徴の一つです。

注文に迷っていると、オーナーの王さんが声をかけてくれました。「ドクダミは今、根がいいので裏メニューで『ドクダミの和物』があります」と、初来店の私達にいきなり裏メニューを教えてくださいました。なのでそれと、その他に2品注文。
また、お店で漬けているという発酵唐辛子(糟辣椒(ザオラージャオ))も見せてくださいました。あと1週間くらい漬けると味が決まるそうですが、今回試食で頂けることに。
主食はドクダミの味を感じたいので、白いご飯がいいなと思っていたところ、S さんとぴったり同じ意見。この糟辣椒もご飯に少しのせられるのでちょうどいいです。
料理が来るまで、王さんのお店の成り立ちを紹介します。
アニメ等から日本に憧れを持っていた王さんは2009 年に留学で来日。最初は 5~6 年で帰国する予定が、日本が好きで残ることを選択。最初は飲食店でアルバイトをしていましたが、実家が中華料理店でこどもの頃より店で母の手伝いをしていた影響から、自分の店を開くことを決意し2015年に開店。上野にした理由は、アルバイトをしていた土地勘のある地域で、中華食材店が近くて何軒もあり便利だからとのことです。
お待たせしました。料理の紹介です!
1. ドクダミの和え物

見慣れないこの白い細い棒状のものがドクダミの根です。まず匂いがザ・ドクダミ。まるで実家の庭で草むしりをした時を思い出します(笑)
早速食べてみます。ん!思ったより辛い!
生のドクダミの根は、細いごぼうのような食感でゴリゴリしています。唐辛子の他に生のネギも入っており、それも辛さの一部かもしれません。
実は貴州料理は辛いと聞いていて、辛さはそれなりに平気な私でも、どんな辛さなのかちょっとドキドキしていました。でもゆっくり噛んでみるとパクチーや酸っぱい青菜の味も混ざり、ただ辛いだけではありません。ピーナツも入っていて、ドクダミの根の食感だけで終わらないのも面白いです。酸っぱい青菜は発酵されたものと後で知りました。
ちなみにドクダミの葉は2~3月と10~11月頃が旬で、葉も和え物として調理するそうです(要問合せ)。
2. 腊肉炒折耳根(燻製肉とドクダミの茎炒め)

白い部分は一見もやしのようにも見えますが、もちろんドクダミの根。こちらは加熱されいるので食感は柔らかく辛さも控えめです。もう一つの特徴は「腊肉(ラーロウ)」を使っていること。
燻製された肉で、つくるのに時間と手間がかかります。腊肉は炒めるとカリカリになり、独特の風味もあります。腊肉とドクダミの根の組み合わせは、いつも食べる炒め物と違う食感ですが、炒められて少し甘くなった玉ねぎの存在も味と食感のバランスを良くしていてとにかく食べやすく、ご飯に合います。
実はドクダミは東南アジアではよく食べられていて、私もベトナムに行った際にフォーやバインセオ(ベトナムお好み焼きと呼ばれる)にのせて食べました。ラオスでは葉を生で食べる文化があるとSさんが言っていました。
王さんに聞くと、ドクダミは北京の方では食べないが、貴州では日常食で、パクチーやネギのように香り野菜として使うとのこと。王さんの店では千葉と埼玉の畑で育てたものを摘んでいますが、中国の田舎では野草から調理しているそうです。
メニュー化したきっかけは、中国の料理学校で学んだことを活かして店を開いたものの、オリジナリティに欠けるので「日本にはドクダミ茶もあるし、地元のドクダミ料理を出してみよう」と始めたところ、常連さんのリピート注文や口コミで好評になっていき、他の貴州料理も出すようになったそう。
貴州の味は、こどもの頃食べていた祖母の味を思い出しながら作り方を研究し、祖母や母からもアドバイスを受けながら今に至るそうです。
3. 糟辣椒

刻んだニンニクや生姜も入って爽やかな味で、そこまで辛くないです。店員さんの話では、これを使った炒飯が人気だそうです。
4. 酸汤牛肉(サンタンニューロウ)

オレンジがかったスープ。ここで食べられる火鍋のスープのベースも一緒
その名の通りスープに酸味があります。辛さもあり、この酸っぱ辛さが病みつきになります。
タイのトムヤムクンに近いと感じましたが、原材料は全く違います。トムヤムクンは、トマトは全く使っていないですが、このスープはトマトを半年から1年発酵させたものがベースになっているそうです。トマトでこんなに酸味が出るとはビックリです。

酢も使用しておらず、発酵の威力を知ります。
店に来てから知りましたが、S さんは納豆やキムチ等の発酵食品が大好きで、特にこのスープがとても気に入りました。この店は今日Sさんのために選ばれたかのようです。
5. 酸豆角肉末(サンドウジャオロモ:ささげと挽肉炒め)

もう1品追加するなら、とお勧めしてくれたものです。
ササゲは、見た目はインゲンをとても長くしたもので、中国や東南アジアでよく食べられています。このササゲも発酵させているとのことで、ササゲの酸味と唐辛子の辛さのバランスが良く、ご飯が進む一品です。
「漬物を料理のメインに使う発想がすごい」とSさん。確かに。
ササゲを漬けた瓶がありました。

夏は2週間ほどで漬かるそうです。ササゲを瓶から取り出す時に人の手が触れる場合、ササ
ゲが人を選ぶそうで、その人の持っている乳酸菌と発酵されたササゲと相性が合わないとササゲの味が変化して不味くなってしまうそうです。現在、相性が合うのは王さんのみとのことで、これは科学の面白いところです…。
これまで紹介した発酵食品は全て、塩、白酒 (コウリャン、トウモロコシ等から作られる蒸留酒) 、生姜、ニンニクで漬けているとのことです。中国で代表的な酒の一つ、白酒は貴州が一番有名だそうです。
ミャオ族は山岳地帯に住んでおり、昔は特に交通の便が悪く、食材を発酵させることで長持ちさせてきた歴史があると王さんはいいます。
6. 酸酿汤圆(甘酒入り団子)

汤圆は黒胡麻餡の入った白玉デザートですが、甘酒の中に入っているのは珍しいのでデザートとして注文しました。
この甘酒も王さんのお店で作っているそうです。甘酒は癖がなく飲みやすかったです。貴州では食後によく食べられているとのことです。
今回は最初から最後まで発酵食品づくしの食事でした!
酸っぱ辛い料理は日本の暑い夏に元気をみなぎらせてくれます。見たことのないドクダミ料理はとても斬新だったけど、かなり興味深く、特に炒め物がおいしかったです。色々な発酵食品が様々な調理法で楽しめるのも面白かったです。
今回は食文化への探求心が強いSさんと一緒に来たことで、取材により深みが増しました。S さんも大好きな発酵食品を使った炒め物やスープの今までにない味や食感が体験できて楽しかったとのこと。今度会う時はここで火鍋を食べようと決めました。
中国のミャオ族は遠くにいますが、ここではとても交通の便のいいところで貴州料理を食べることができます。裏メニューも親切に教えてくれるので、ぜひ行って王さんに聞いてみてくださいね!
(aokinapple)
店舗情報
王さんの私家菜

台東区上野4-2-8 2F
03-5826-8313
Writer
記事を書いてくれた人
