今日の大都会・上海ではショッピングモールの食堂街や大型商業ビルの飲食店街など、煌びやかでおしゃれな内装の飲食店が主流である。
しかし、大通りから一本入った裏路地には昔ながらの食堂も残っている。
上海の裏路地の食堂はこんな感じ
そんな町の食堂を思わせる店が新小岩で発見されたと聞いて※1 やって来た。ディープチャイナの集積地で名高い新小岩南口とは反対の駅北口、しかもそこから15分近く歩いたところにその店はある。
※1 グルメな友人が常にニューオープンの中国人経営の料理店を探していて、その方の情報。私が第一発見者ではありません。
「尚氏私房菜(しょうししぼうさい)」。外観はいかにも元居酒屋の居抜き物件だ。
2021年の4月※2、この店を初訪問した。引き戸を開けると、とても営業しているとは思えない雰囲気。
※2 この店のオープンは2021年3月。
小上がりで娘さんが遊んでおり、おかみさんがニンニクを剝きまくっている。
「酢に漬けるよ」
ご主人が白酢は日本のやつの方が良いと、業務用のガロン系のサイズの酢を指さして、たどたどしい日本語で言った。
「上海のどこからですか」と聞くと、浦東新区だという。ご主人は何やら薄焼き卵を焼き出した。「これは食べられるのか」と聞くと、タダで一枚どうぞと出してくれた。
何の花か知らんけど、白い花の蕾がいっぱい入ってる。
「車で2時間くらい行った埼玉で採ってきた花。日本人は、食べないね。美味しいよ」
後で調べたところ、これはニセアカシア※3 の蕾の模様。
※3 ニセアカシアの正式和名はハリエンジュというそうだ。夏に白い花が咲くアカシアの蜂蜜が採れる木で、先にこの木が日本に入って来てアカシアと呼ばれていたそうだが、その後、本物のアカシア(ミモザ)が入ってきたので、偽アカシアという名前になったとのこと。
まずは肉まんの一種である梅干菜包(メイガンツァイバオ)を注文し、あとは雲呑(ワンタン)でも頼むかと、炉の上に置く五徳を見ると、鍋に紫色の物体が……。
「これ、芋のお粥。中、紫色の芋」(おかみさん)
レアなのでこれにした。味はない。
「砂糖入れたのも美味しい」(おかみさん)
卵料理は薄い塩味で、梅干菜包は味が濃く甘かった。むむむっ、これは、これは本当にこの人んちの家庭料理だわ。旅行で上海に行ってもまず食べられない。愉快過ぎる! また折を見て来よう!
さて、それから9か月後、春節も間近な2022年1月にこの店を再訪すると、なんと店内を改装していた。小上がりはテーブル席に変わっていたが、そこで子供が自由にしてるのは以前と同じ。
野菜だしっぱのカウンターの上に、いきなり丸鶏が鎮座しているのが目に飛び込む。
近寄って見ていると、おかみさんが来て「赤い方はニワトリで辛い味つけ、白い方はアヒル(鴨ってことだと思う)で塩味」と日本語で説明してくれた。
なんか日本語少し上手くなってる。これは食べるしかないでしょうと、盐水鸭(ヤンシュイヤー)※4 と思われる白い方を半身で頼んだ。
一緒に提供された無料のお茶が菊花茶! 上海で安いお茶として無料でよく出てきたけど、それ出してくるとは感激。盐水鸭からは紹興酒の香りがした。
※4 盐水鸭は多少の香辛料と塩をもみ込んだアヒルを生姜などの香味野菜を加えたスープで丸茹でにしたシンプルな味つけの料理。南京の名物料理だ。
メニューも整備したようで、見ると麻辣味のものが多かったけど、我々はそれには目もくれず、上海あたりの薄味の料理からナズナワンタンを注文。「ナズナ※5 は売ってないでしょう」と話すと、どうやらこれもまたどっかで摘んできたらしい。
ナズナぎっしりのワンタンにのってるのは紫菜。海苔の一種で中国のスーパーでよく見かける円盤状のあれだ。
※5 上海ではナズナが最もポピュラーなワンタンの具で、形状もこの帽子みたいな形が特徴的で他の地域のワンタンと異なっていると思う。
あらためて「浦東のどのへんです?」と聞くと、実はおかみさんの方は河南省出身だというので、「その中のどこか」とさらに百度地図を出して、私の片言の中国語も織り交ぜながら聞くと、南陽市という省都鄭州から南西方向に高速鉄道で1時間くらいの地級都市と判明した。
未踏の地だなあ。ちなみにご主人の出身は上海市の南浦大橋対岸のあたりの浦東新地区という、ざっくりとした情報。
「吃饱了(チーバオラ)! 买单(マイタン)!」※6
※6 吃饱了=おなかいっぱいです。ごちそうさま 买单=お会計お願いします
はっ! ここは新小岩だった! 一瞬、日本にいるのを忘れた。 次に来たら、何を食べさせてくれるんだろうか。
店舗情報
尚氏私房菜
葛飾区東新小岩3-15-1
090-6127-8777