新疆中華って何? 池袋「新疆味道」で食べるホットなラグマンと米粉

最近、東京でよく目につく「ガチ中華」の地方料理のジャンルに、黄河流域からシルクロードにつながる甘粛省や陝西省、内蒙古自治区、新疆ウイグル自治区などの西北地域の料理があります。

これらの料理の特徴は、羊肉とスパイスです。羊肉は塩やクミンなどを振りかけ、強火で焼いて食べるのが一般的ですが、塩茹でにしたり、スープや鍋にも使います。味つけは他の地方料理に比べてシンプルです。

もともと遊牧民であるモンゴル族、回族やウイグル族などのイスラム教徒が食べていたもので、中国のハラール料理(清真菜)ともいわれます。

なかでも珍しいのが、新疆ウイグル自治区で食べられている「新疆中華」とでも呼ぶべき料理でしょう。池袋の「火焔山 新疆・味道(かえんざんしんきょう・あじどう)」に行けば、食べられます。

この店、週末はたいてい込んでいて、予約を入れたほうがよさそうです。

明るい色彩のイスラム風タイルのデザインは、いかにもこの店らしいです。

週末の金土日の夕方はライブもあります。

歌っているのが彼で、新疆出身のアリさんです。

この店には紙のメニューはなく、タッチパネルで注文します。「特色招牌菜(スペシャル料理)」「涼菜(冷菜)」「焼烤(焼きもの)」「経典熱菜(温かいおかず)」「主食(麺やごはんもの)」に分かれています。ちなみにこれは「特色招牌菜(スペシャル料理)」のページです。

では「涼菜(冷菜)」からいくつか選びましょう。

牛肉とキュウリの和えものの「牛肉拌黄瓜(ニウロウバンホワングア)」。醤油で煮込んだ牛肉の燻製に、キュウリやニンニク、パクチーなどを加えて和えた冷菜です。ウイグル語では「カラゴシハミセイ」といいます。食欲がないときにもおすすめのさっぱり味です。

牛肉拌黄瓜

こちらは牛肉の代わりに羊肉、キュウリの代わりにネギが使われた和えものの「葱拌羊肉(ツォンバンヤンロウ)」です。

葱拌羊肉

次は「焼烤(焼きもの)」。定番の羊肉串です。

羊肉串

そして、ナン(饢)です。一般に中央アジアで焼いて作るパンの総称で、生地を円盤状に伸ばし、釜の内側に貼りつけて焼きます。

ナン
羊肉串とナン

この店には、1人前の食べやすいサイズのナンもあります。それから日本ではかなり珍しい新疆産のビールが飲めます。「烏蘇啤酒(ウースーピージウ)」といって、新疆ウイグル自治区で1986年に設立されたビール会社の製品です。

次はメイン料理の「経典熱菜(温かいおかず)」。基本的に羊肉を野菜と炒めたものが多いですが、「回民待客菜(ホイミンダイクーツァイ)」にしましょうか。イスラム教徒向けのおもてなし料理といえます。小さなマントゥが付いています。

回民待客菜

さて、この店の「特色招牌菜(スペシャル料理)」の筆頭は「大盤鶏(ダーパンジー)」です。鶏肉をトマトやクミン、八角、桂皮などのスパイスとジャガイモやタマネギなどの野菜と一緒に煮込んだもので、ウイグル語では「トホコルミス」といいます。

大盤鶏

これはかなりの大皿料理で、中国の若いカップルが注文しているのをよく見かけます。あとで平たい小麦麺をのせ、混ぜて食べるのですが、とても中国的な食べ方です。

羊スープもあります。「羊肉湯(ヤンロウタン)」といいます。白濁した羊ダシスープの中に羊肉や細切りにした各種内蔵、干豆腐、ネギなどが入っています。意外にあっさりした塩味のスープですが、羊臭さが少し気になる人もいるかもしれません。

羊肉湯

この店ではまだ食べたことはありませんが、メニューをみると、モンゴル料理によくある骨付き羊肉を鍋で塩茹でした「手扒羊肉(ショウバーヤンロウ)」もあります。

最後は「主食(麺やごはんもの)」。なんといってもおすすめは、中央アジア全域で食べられている混ぜ麺のラグマン、その中国語読み「過油肉拌麺(グオヨウロウバンミエン)」でしょう。

過油肉拌麺

羊肉やトマト、タマネギ、ニンニク、セロリ、ナスなどを炒め、麺を茹でたあと、軽いあんかけにした具をのせてできあがり。麺はとてもコシがあって食べ応えがあります。この店には麺の上にジャガイモの千切り炒めなどをのせた「土豆絲拌麺(ドゥトウスーバンミエン)」やニラ入りの「韭菜拌麺(ジゥツァイバンミエン)」、酸菜入りの「酸菜拌麺(スアンツァイバンミエン)」などの変わり種メニューもあります(その理由は後述します)。

そして、これも中央アジアの地元メシであるポロ、その中国語読み「新疆手抓飯(シンジャンショウバーファン)」です。

新疆手抓飯

長粒米の香米をタマネギやターメリックと炒めたあと、水を入れて炊き、子羊の筋肉やトマトを入れて煮込む、中央アジア風炊き込みご飯です。中央アジアでは米を蒸らす前に、干しブドウをのせて食べますが、この店ではどちらかといえば、しめのチャーハンのような存在かもしれません。

どの料理もそれぞれおいしいです。ただし、実をいえば、この店の料理は都内に何軒かあるウイグルレストランの料理と、同じメニューでも味つけがかなり違います。この店のほうが明らかにトウガラシを使う量が多く、辛さが際立っています。

なぜでしょうか。以下のような理由が考えられます。

中華人民共和国の建国以降、新疆ウイグル自治区に多くの中国系の人たち(主に漢族)が移住しました。そのため、本来トルコ系であるウイグル料理が中国の料理とミックスされたのだと考えられます。

同じようなことは、朝鮮料理と中国の料理がミックスした吉林省延辺朝鮮族自治州の料理にも見られます。

今日の中国の料理は全般的に四川料理の影響が強く、パンチの利いたホットな味つけが、とりわけ若い世代に好まれています。ウイグル料理もそれなりにスパイシーなのですが、トウガラシがそれを凌駕しているように思います。ラグマンに酸菜などをのせるというのも、きわめて中国的です。

実際、この店のオーナーは、新疆ウイグル地区出身の回族の方です。

つまり、新疆ウイグル地区に移住した漢族の人たちが自分たちの味の好みに合わせて、ウイグル料理を中華風にしたという言い方ができるかもしれません。

ですから、このような料理は「新疆料理」と呼び、ウイグル料理とは別物とみるのもひとつの考え方でしょう。ただこうした現地化の諸相は世界各地でみられるものであり、ここではあえて「新疆中華」と呼んでみたくなります。

というのも、実はこの店はもともと2019年9月に別の場所にオープンしたのですが、2021年夏に現在の場所に移転しています。元あった場所は同じオーナーの店で、「新疆米紛」という麺の専門店になっています。

この新疆米粉という料理は、プルプルの太いライスヌードルを茹でたものに、トウガラシの利いたトマトソースで牛肉や鶏肉などを和えた汁なし混ぜ麺です。辛さは3段階に分かれていますが、最も辛さを抑えた微辣(ウェイラー)でも相当辛いです。

実は、中国には新疆米粉を提供する外食チェーンもあるようです(本社は天津)。最近の中国の大都市には、雲南やチベット、新疆などの少数民族の暮らすエリアの地方料理をアレンジして提供する店が増えています。少数民族文化に対するエキゾチシズムを心地よく商品化しており、火焔山 新疆・味道にもそのテイストが感じられます。

たとえば、店員はお揃いの黒いTシャツを制服にしていますが、背中に「可可西里(ココシリ)」「达达木图(ダダムト)」「巴郎子(バーランズ)」など、チベットや新疆の地名がプリントされています。

たとえば、可可西里は2017年世界遺産に登録されたチベット高原北部の自然地区。巴郎子は新疆出身のギター歌手エリキン・アブドーラのヒット曲のタイトルです。

このように、東京にオープンした新疆中華の店から今日の中国社会の姿が垣間見られるのは興味深いことです。それが東京ディープチャイナのもうひとつの面白さです。ぜひ一度、この店のホットなラグマンをお試しいただければと思います。

(東京ディープチャイナ研究会)

店舗情報

火焔山 新疆・味道

豊島区南池袋1-26-2 近代ビル5F
03-6912-5218 
kaenzan-ikebukuro.com

新疆米粉

豊島区南池袋1-20-11
池袋第五ビル1F
03-6709-0342

最新情報をチェックしよう!