上海の新春の味、「イドシ」。
筍と塩漬け豚肉と百叶結(バイイエジエ 中華押し豆腐を結んだもの)を強火で煮込んだスープです。
私がこのスープを知ったのは、中国市場担当者になって間もない頃の2012年。
上海子会社が新しく雇った80后(1980年代生まれ)の上海人男性社員からでした。
「上海には新年に飲むすごくおいしいスープがあるんだよ。その名前が日本語みたいに聞こえるんだ。こう言うんだよ。イドシ」。
イドシは「腌笃鲜」の上海語の発音。中国の共通語、普通話での発音は『イェンドウシエン』です。
しかし、家庭料理であるがゆえに出会う機会がなく、実物のイドシにお目にかかるのは2015年、上海にある上海料理のチェーン店「小南国」での食事会を待つこととなります。
コロナで渡中できなくなって久しい2022年の旧正月明け、日本在住の上海人がイドシを作る様子がSNSで流れてきました。
そーいや、久しくイドシ食べてないなあ……どっか東京で食べられるんじゃね?
こんなときには職場の90后上海人女子!
WeChatで連絡すると、返って来た答えは銀座の「四季 陸氏厨房」。
「メニューに腌笃鲜が書かれてない記憶があります。一度電話してみた方がいいかも知れない」
早速電話で「イドシありますか?」と日本語で尋ねると、予約不要でできますとのこと。
席も予約して週末に友人4人とこの店を訪問しました。
ビルの9階とは一般人にはなかなか見つけるのはハードルですが、入るとそこは中国人客でいっぱい。日本人は我々だけでした。
話に聞いていたとおり、店内の紙のメニューには腌笃鲜は載ってない。
「イドシありますよね」と尋ねると、「できます。30分かかります」と他のメニューの注文もそこそこに店員さんは棚の土鍋を取り出して厨房に発注をかけに戻ってしまった。
ところが、他に頼むものを物色していると、イドシはたちまちやって来てしまいました。
これです、イドシ!
「あっちでも頼んでいたので、先に出しました」と小声で店員さん。
さすがの臨機応変ぶり!
確かに隣の中国人女子グループの方からもイドシの声が聞こえていました。
ぐつぐつと煮込まれた、熱々のイドシを早速食べ始める。
塩漬け豚からくる濃厚な旨味が出汁となったスープで筍をいただくとは日本人にとっては新しい体験。
初めて食べる友人たちも汁の最後の一滴まで飲み干していました。気に入ってもらえたようです。
「こういう優しい味の中華は珍しいね」
そうなんですよ。中国にはこういう薄味料理の地域もあるんです。
この日は他に上海っぽい料理である蟹粉豆腐,葱油拌面,荠菜大馄饨,上海锅贴,干煸扁豆を食べ、大満足でした。
早速WeChatで上海人女子に報告しました。
「四季で食べたよ、イドシ!」
「四季のものは、本場上海の味にかなり近いと思います」
WeChatで四季陸氏厨房を検索してみると、中国人向けの中国語の公式サイトが見つかった。そこには堂々と「茭白腌笃鲜 3,000円」との記載あり。
なーんだ、実はレギュラーメニューだったのか。
美味しい春をありがとう!
店舗情報
四季 陸氏厨房
中央区銀座7-6-10
アソルティ銀座花椿通りビル9F
03-3573-5088