チャイニーズ中華は町中華とどこが違うのですか?

東京ディープチャイナ研究会が対象としている「チャイニーズ中華」とは、海を渡って日本に来た中国語圏の人たちが調理する中華料理のことです。

では、これまで私たちが慣れ親しんできた町中華とはどこが違うのでしょうか?

この写真には、西川口駅前にあるチャイニーズ中華(手前)と町中華(奥)が並んで写っていますが、店の外観はパッと見、それほど違いは感じられません。

町中華は、必ずしも明確な定義はないそうですが、古くから地域に愛され続ける、中華料理中心の大衆食堂の総称です。強いていえば、「昔から続いている町の中華料理店」「個人営業やのれん分けでやっている店」だとされています。

町中華探検隊という団体の活動が知られていますが、目的は「超高齢化の荒波にさらされ滅亡の危機を迎えつつある町中華(大衆的な中華店)を日本の誇るべき食文化として捉え、そのことについて考え、食べ、記録」することだといいます。なるほど、ある種の郷愁がベースになっているように感じられますし、そこに町中華の魅力があるというのはよくわかります。

町中華探検隊

一方、チャイニーズ中華を探索する目的は、いやそれほどの使命感はないのですが、あえていえば、好奇心だと思います。

なにしろ調理の担い手が本場中国語圏の人たちです。ゆえに提供される料理の中身が違ってくるのは当然です。当研究会では、そもそも成り立ちの異なるふたつの中華のどちらが好きとか、いいとかいうつもりはまったくありません。いわば新興勢力であるチャイニーズ中華が提供する未知なる味覚とそれを支える世界に好奇心を寄せているのです。なぜこのような料理が存在するのだろうか。いったいどういう人たちがどうやってつくっているのか……などなど。

でも、両者は似ている、いや共通しているところもあるんです。

これまでチャイニーズ中華は店を増やしながら、町中華の役割を引き継ぐように、大衆的な中華料理を日本人に提供してきたところがあります。事情が少し変わってきたのは、最近のことといっていい。ともに日本の中華をより豊かなものにしてきたと言っていいでしょう。

振り返ってみると、日本の大衆的な中華料理は、この30年間で次々と新しいメニュー加えてきました。すでに日本化され、定着していた酢豚やチンジャオロース(青椒肉絲)、八宝菜、エビチリ(乾焼蝦仁)、回鍋肉(ホイコーロー)、麻婆豆腐などに代表される町中華のメニューに対し、1990年代以降に登場したチャイニーズ中華の「家常菜(家庭料理)」と呼ばれる料理群がそうです。

チャイニーズ中華の調理人たちは、日本人の口に合わせ、本場の辛さや味の濃さ、油の量を少し抑えつつ、それまで中国には存在しなかった定食というスタイルを採用しました。ご存じの方もいると思いますが、中国では食卓に大皿を並べて多くの人たちと一緒に食事をするのが一般的なスタイルでしたから、ある時期まで定食を提供する飲食店がほとんどなかったのです。

実際、それは学食や工場の食堂などにしかありませんでした。近年、上海をはじめとした都市部では定食メニューを提供する外食チェーンが現れています。これは日本の個食のスタイルが逆輸入されたといってもいいでしょう。

彼らが「家常菜(家庭料理)」と呼ぶメニューには、たとえば、油林鶏(ユーリンチー)や木須肉(ムースーロウ=豚肉とキクラゲのタマゴ炒め)、宮爆鶏丁(ゴンバオジーディン=鶏肉とピーナッツ炒め)、麻婆春雨などがあります。

これらをメイン料理(おかず)として、ご飯とスープ、デザートの杏仁豆腐をつけるというのが、彼らが日本人の口に合わせて考案した定食メニューの基本形でした。これらの料理は、すでに日本の中華料理店のメニューの中にもあったと思うのですが、これほど一般化したのは、駅前のチャイニーズ中華の定食メニューが広めたと言っていいのではないでしょうか。

さらに、彼らはそれまで日本人が知らなかった心温まる家庭料理も静かに広めました。たとえば、タマゴとトマトを一緒に炒めるという意外性を私たちに教えてくれた西紅柿炒鶏蛋(シィホンシィチャオジータン=トマトのタマゴ炒め)をはじめ、鍋巴(グオバー=おごげ)、冬瓜湯(ドングアタン=冬瓜スープ)、西紅柿炖牛腩(シィホンシィドゥンニウナン=牛バラ肉トマト煮込み)などでしょうか。

これらの料理は、和食に比べれば、確かに味が濃くて油っこいけれど、ほどよい甘みが口に優しく、素材とうまみが溶け合う癒しの味です。

最近では、よだれ鶏(口水鶏)のような麻辣グルメも広まりつつあり、日本で体験できる中華料理の世界はますます豊かなものになっています。

当研究会としては、この種の新しいメニューに注目しがちですし、それを多くの人に知ってもらいたいという気持ちがありますが、必ずしも万人の口に合うとは限らないことも承知しています。

たとえば、これは都内の四川料理店が出す辣子鶏(ラーズジー=鶏肉の麻辣炒め)という人気メニューですが、どれだけトウガラシを入れれば気がすむのだろうというビジュアルです。このような真っ赤な料理はとても食べられないと思う人もいると思いますが、逆に食べてみたいと好奇心をおぼえる人もいるでしょう。

チャイニーズ中華の中には、このように万人に愛されることは難しそうな料理もありそうですが、これまで日本では体験できなかった新鮮な味覚を手軽に味わえる時代になったことを歓迎したいと思います。

 (東京ディープチャイナ研究会)

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