都内に次々と「ガチ中華」の店がオープンし、「ギラギラ系」をはじめとした、日本では見たことのない斬新なデザインの内装をしている店が増えています。その多くは、中国に実在するレストランの内装をそのまま持ち込むケースも多いようです。
ただし、どれもがみな素晴らしいとは言いにくいところがあって、手づくり感覚といえば聞こえがいいですが、「もう少し美的なセンスを洗練させたほうがいいのでは……」との意見を聞くことも。では、現地ではどうなのでしょう。
上海在住の萩原晶子さんは、毎回おしゃれな現地のレストランを紹介してくれています。
彼女によると「昔はこういうセンスのある店は台湾人か日本人が関わっていることが多かったですが、いまはスタートから中国人だけでやっている店が多いです」。
そうなんですね。今回の記事も、上海に行ったらぜひ訪ねたくなるようなお店です。
一口に中国人と言ってもその考え方はバラバラで、好きなものもライフスタイルも人それぞれ。
昨年、フォトグラファーの阿部ちづるさんと始めたnote『mie Shanghai』は、毎月二人、上海に住む中国人女子に最近のことを自由に語ってもらうフォトマガジンなのですが、取材するたびにそのバラバラ具合、人それぞれ感を確認する感じになっています。
mie Shanghai
なので、ちょっとした共通点を見つけると「おっ」と思うことも。
その共通点の一つが、今回ご紹介する「元古雲境」です。
取材中の雑談のなかで「最近行った店」「行ってみたい店」などの話題でよく出てくる人気店で、2023年1月現在、上海市内に3店舗を構える創作中華のお店です(北京、成都にも支店あり)。
特徴は、朴素(素朴、シンプル)なインテリア。
コンセプトは「二十四節気から得たインスピレーション」とのことで、「論語」の「不時不食」などもテーマにしているそう。季節の移ろいや自然界の侘び寂びを感じる空間になっています。
ストレスが多い上海では、派手できらびやかな店舗よりもリラックス、ナチュラル、チルな雰囲気のほうが若い子たちに刺さるのかもしれません。
土、木、紙など、古来からある素材を使ったインテリア。一角ではオリジナルの陶磁器や服なども販売している。
料理のジャンルは、人気の雲南料理をベースにしたフュージョン。
和洋東南アジアの香りを感じる、体にやさしいメニューを揃えています。地域料理の垣根を超えた料理は、2023年以降も上海では注目されそうです。
まずはいちばん人気のメニューから。
私もハマり中の「黒松露炒野菌(ヘイソンルーチャオイエジュン)」です。
ブームの雲南省産黒トリュフで風味をつけたキノコ炒めで、卵を絡めて食べます。揚げたエノキタケのコクもあって、まろやかなだけではない、きちんとおかずになるおいしさ。
「中国人、生卵を食べるの?」という方もいるかもですが、4~5年前からのブランチブームで「班尼迪克蛋(エッグベネディクト)」が定着したあたりから変化が起きた気が。最近は中東の半熟卵料理「北非蛋(シャクシュカ)」も、上海市内のカフェでブームになりつつあります。
「客家豆豉黄酒鶏(クージャードウジーホアンジウジー)」は、鶏肉の紹興酒煮込み。
鶏×紹興酒は、火鍋でも依然大人気の組み合わせです。
これに、辛さより味噌の風味が強い豆豉で味をつけ、仕上げにタイ料理で使われるコブミカンの葉をのせています。
味噌系中華×コブミカン、絶妙!
フュージョン中華のお店の魅力は、こういう意外な組み合わせの成功例に出会えることかもしれません。
野菜料理のお勧めは「黒鶏枞菌菠菜(ヘイジーツォンジュンボーツァイ)」。
雲南省産の黒鶏枞菌(キノコの一種)とほうれん草、クルミ、干し豆腐、枝豆などを和えた料理です。香る程度にほんのり効かせた花椒油の風味がアクセント。いかにも体に良さそうな一品です。
素材そのままの味。野菜のおいしさを堪能できる。
締めは「鱈魚茶泡飯(シュエユィチャーパオファン)」。
ここ数年上海で人気の和食といえばお茶漬けですが(※1)、そのオリジナルバージョン。ご飯の上には焼いたタラの身と梅肉が。そこにかかっているお茶はなんとジャスミン茶ベースの八宝茶です。
中国茶のお茶漬け、家でもアレンジしてやってみたいかも。
※1:火付け役は上海市内のお茶漬けカフェ「白日清澄」。日本人が関わらないカフェ系和食店(ガチ和食とは逆の形態だが、素材や作り方にこだわるロハス系のお店)が増えており、ご飯メニューで独自のお茶漬けを出す店が人気に。
それと、「元古雲境」に来たら外せないのがデザートです。
食事の時間以外は茶館としても利用できるので、スイーツのメニューも充実しているのです。特徴は、二十四節気をテーマにした中国らしい素材を使っている点。1月初旬の寒い日だったその日は、中国の冬を思わせるスイーツが用意されていました。
写真の手前左は「冬至・凝露(ドンジー・ニンルー)」。
キンモクセイで香り付けした米酒に、チーズとホワイトチョコのお団子を入れたもの。湯圓(元宵節に食べる白玉みたいなお団子)の進化系という感じでしょうか。
写真右奥は「大寒・暖陽(ダーハン・ヌァンヤン)」。
表面の赤は、甘酸っぱいサンザシシロップに漬けた薄切りのリンゴ。その中にジャスミン茶のムースが包まれています。アイデアにも味にも感動でした。
ケーキでもないし、甘味という感じでもなく、まったく新しい感覚。中国スイーツの進化ぶりは今後注目していかなければならないかもです。
以上、写真だけを見ると高そうなお店と思われるかもですが、予算は一人150〜200元ほど。最近の上海の値段感覚を考えると、こだわり店のなかではリーズナブルな価格帯だと思います。
食事の後は、そのままのんびりお茶を飲んでいてOKな雰囲気。
夜はバーとしても営業しており、米酒などを使った中国カクテルが充実しています。
ほかにも、上海市内には侘び寂びシンプル系レストランが増加中。
昨年から気になっているのは「一尺花園」です。2023年1月現在、上海市内に15店舗を構えるチェーン店で、観葉植物や自社デザインのシンプルな家具を使ったインテリアが印象的。まだ行ったことがないのですが、郊外の古い邸宅をそのまま使った店舗は古民家泊やグランピングも楽しめるそうです。
普段使いできるお店では「WABI COFE」が話題。
手作りのおつまみや中華系の軽食も揃えるカフェバーで、「京都の細い路地の奥にこんな店ありそう」と思う雰囲気。アンティークの家具も花瓶の花も、朽ちていくままに飾られています。
マシンで入れたコーヒーを紙のカップで出すカフェが主流になっているなか、素朴な手作り陶器のカップで、ハンドドリップコーヒーを出してくれるところも気に入っています。
最近、若い中国人と話していてよく聞くのは以下のような声です。
「食事は大勢よりも気の合う人と少人数で行く派」
「飲み会より、お休みの日のブランチの方がストレス解消できる」
「コロナになって、健康はかけがえのないものだと思った。だから体にやさしいものを食べることにする」
「そこにいる時間を楽しめるお店が好き。インテリアは大事。何も考えずにリラックスできるから」
侘び寂びシンプル系レストランのブームは、上海ではしばらく続きそうです。
店舗情報
元古雲境
五原路店
上海市徐匯区五原路137号
11:00-24:00
愚園路店
上海市長寧区愚園路1107号
11:00-22:00
世博店
上海市浦東新区浦東南路3888号
11:30-20:30