門倉郷史著「黄酒入門」、120種の銘柄と料理の相性を解説した待望の書

みなさま、紹興酒はお好きですか?

中華料理といえば紹興酒を飲むものと日本では思われていますが、実際には白酒やビール、ワインなど、さまざまなお酒が飲まれています。

ぼくの場合、紹興酒といえば、浙江省の海沿いの温州や寧波あたりの海鮮料理、とりわけ中華風魚の煮つけあたりと一緒にちびちび飲むのが好きです。日本の煮魚は醤油の味が強くて、それが悪いわけではないのですが、中国の煮つけはソースに甘いコクがあり、口当たりもなめらかで複雑な味わいがあるので、口の中で紹興酒がうまくまとめてくれます。

紹興酒と中華料理

ただ日本の一般の中華料理店、これはガチ中華の店も含めて、どの店でもたいてい紹興酒は置いてありますが、何年ものかの違いで値段が違うくらいで、銘柄そのものを飲み比べすることができるほど、揃っている店は少ないです。だから、まあこのへんで適当に飲むしかないなという消極的な選択肢しかないといえます。

ですから、門倉郷史さんが今年9月に上梓された「黄酒入門」(誠文堂新光社)を手にしたとき、まさに「こういう本がほしかったのだ!」と思いました。

「黄酒入門」(誠文堂新光社)

本の内容について簡単に紹介します。

まずタイトルの「黄酒(ホアンジウ)」ですが、「糯米や黍米(きび)など穀物を湯原料とした醸造酒全般」を指します。発祥は中国最古だそうです。

紹興酒は黄酒の一種で、浙江省紹興市で製造されているものを指します。

驚いたのは、一般に黄酒は、浙江省や上海など江南地方で主に製造されている酒かと思っていましたが、実際には北方や南方など中国各地で製造されていたことです。

白酒に「醤香」「濃香」「清香」と3タイプの香型があるように、黄酒にも「干型」(最も辛口)「半干型」(ポピュラーなドライタイプ)「半點型」(ふくよかで飲みやすい)「點型」(濃厚で甘口)の4タイプがあるそうです。

同書では「日本流通の注目黄酒」が解説されているのですが、こんなにいろいろ日本に流通していたのかという驚きがありました。古越龍山や会稽山、関公、双塔、塔牌、石庫門など、よく見かける銘柄からそうでないものまで含め、解説はためになります。

「黄酒入門」に掲載されている会稽山や越王台のページ

さらに、「中国本土の注目黄酒」では、各地の知られざる黄酒が紹介されていて、次回その地を訪ねたら、ぜひ味わってみたくなります。

「中国本土の注目黄酒」

随所に「黄酒・紹興酒のペアリングレシピ」というコーナーがあり、和食、洋食、中華はもちろん、スイーツとの相性も紹介しています。

「黄酒・紹興酒のペアリングレシピ」

さて、せっかくなので、門倉さんに選んでいただいた黄酒6種を紹介しましょう。門倉さんによると、「風味の違いが明確に感じ取れた方が黄酒の楽しさを感じていただけると思い、産地が異なる銘柄を選びました」とのこと。

唐宋紹禮10年 甕出し(浙江省紹興市)

唐宋紹禮10年 甕出し(浙江省紹興市)
以前購入して美味しかったので選びました。伝統製法由来の紹興酒らしい酸味だけでなく、口当たりのよい甘みや旨みがしっかりあって非常にバランスがよい味わいです。甕ではなく陶器の方も有名レストランで取り扱われているなど、評判がいい銘柄です。

西唐老酒(浙江省嘉興市)

西唐老酒(浙江省嘉興市)
原料に大米を使用しており、ノンカラメルなので色味は黄金色でクリア。味わいもレモンのような軽やかな酸味とライトなボディ感でスッキリしています。前菜などちょっとしたおつまみと楽しんでいただけるかなと思い、選びました。

即墨老酒焦香型(山東省青島市)

即墨老酒焦香型(山東省青島市)
青島はビールが有名なので日本人にとってお馴染みの場所。ただ、ビールだけではなく面白くて歴史のある黄酒もある!ということを知っていただきたく、選びました。原料の黍米(きび)を泥状になるまで捏ねるようにして熱入れしてから麹を与えて発酵させていくのですが、そのときに生まれる焙煎の香りが酒の味にダイレクトに表れるという個性的な黄酒です。日本酒やワインに精通されている方でも驚かれるぐらい、唯一無二の味わいです。

賽百露(内蒙古)

賽百露(内蒙古)
内蒙古巴彦淖尔(バヤンノール)の大自然で育まれた牛乳を主原料とした、世界的にも希少なミルクワインです。酒色は原料から想像もつかない黄緑がかった黄金色。香りは爽やかで、青草のようなフレッシュさがあり、口に含むと米酒のような丸みとミルキー感が颯爽と駆け抜けていきます。
※これは厳密には黄酒ではなく、奶酒に分類されます

客家黒姜(広東省梅州)

客家黒姜(広東省梅州)
広東の山奥に住む客家族が作る南方黄酒。黒糯米と白糯米をたっぷりと使い、濃醇でコクのある味わい。生姜も使用しているのでただ甘口なだけでなく、後味は意外とスッキリとしています。

台湾老酒(台湾)

台湾老酒(台湾)
台湾の紹興酒は、蓬莱米(台湾産のうるち米)と糯米を使用したり、麦麹と米麹を合わせて使うなど中国の製法と日本の製法を併せ持っているのが特徴。そこから生まれる味わいも独特で、麦感が非常に強く、ドライです。これもひとつの個性であり、台湾独自の酒文化として面白いなと感じています。

さて、中国酒探究家の門倉さんは中華郷土料理「黒猫夜」に9年在籍していたそうです。同店はは赤坂、六本木、銀座で中国各地の郷土料理と中国地酒をカジュアルに楽しめる中華レストランです。現地酒蔵から直仕入れの銘柄を中心とした黄酒約20種と、日本ではレアな白酒約20種が楽しめるそうです。

その間、彼は日本で唯一の黄酒専門ECサイトの「酒中旨仙(しゅちゅううません)」を兼任していました。ここでは紹興酒だけでなく、山東省や福建省など中国各地の黄酒を取り扱っています。家飲み用だけでなく、ギフト用としての利用も多く、最近では白酒の取り扱いも増えているそうです。

現在、彼はどちらも卒業しており、代々木上原の「Matsushima」というレストランにて週1~2回在籍しているそうです。この店は中国の少数民族料理や発酵、スパイスを活用した月替りのおまかせコース料理と、黄酒を始めとした中国地酒のペアリングをお楽しみいただけるレストランです。

門倉さんは、紹興酒の産地の酒造見学に訪れています。そのときのエピソードを聞きました。

「醸造長と一緒に外を歩いていたら、熟成中の紹興酒の甕がずらーっと並んでいました。日本酒は蔵内で温度管理しながら進めていくので、それと比べて『とても野生味溢れる酒なんだな!』とワクワク興奮しながら歩きました。

そして、醸造長がおもむろに甕の蓋をガバっと開けて「好香啊〜」と言いながら、さらにズボッと手を突っ込んで味と香りを確認されて、造っている側も野生味溢れる人だなと思いました(笑)

こうしたシーンを通して、黄酒の原始的な酒造りが垣間見えて、好奇心がより湧いたのを覚えています」

最後に、読者のみなさんへのメッセージをひとこと。

門倉郷史さん

「黄酒は1万年と長い歴史を持ち、穀物を原料とした酒のルーツでありながら、良くも悪くも伝統を重んじてきました。そのため、他の酒文化と比べて止まってしまっている面があるのも否めません。

でも、僕はそれをノビシロだと思っています。原料の改良や製法の工夫、最適な温度帯やペアリングなど、深堀できる余地がたくさんあるのです。

これまで深堀されてなかったからこそ、これから一緒に創り上げていける稀有な酒文化だと思っています。古いのに新しいお酒の世界。僕自身まだまだ探究中で、この本は始まりです。ぜひ一緒に深堀していきませんか。そして、干杯できる日を楽しみにしております」

この本を読んで、ぼくも黄酒に合うガチ中華メニューをもっと発掘したいと思いました。

(東京ディープチャイナ研究会・中村正人)

店舗情報門倉さんおすすめの黄酒が楽しめる店

大勢でカジュアルに楽しみたいなら

中国酒家 大天門

港区浜松町1-24-7 第一田中ビル1F・2F
050-3187-6617

ディープな料理と楽しみたいなら

蓮香

港区白金4-1-7
03-5422-7373

豊栄

文京区本駒込3-1-8 
050-5590-2072

黒猫夜

港区六本木4-9-1 佐竹ビル4F
03-3497-0256

月世界

渋谷区道玄坂2-26-5 
050-5868-5768

落ち着いた雰囲気の中で楽しみたいなら

智林

新宿区白銀町12-5
03-3268-3377

テクストゥーラ

千代田区有楽町1-7-1 
03-6259-1144

四川家庭料理 中洞

文京区千石4-43-5
03-5981-9494

東京チャイニーズ 一凛

中央区築地1-5-8
050-5570-7081

イチリンハナレ

神奈川県鎌倉市扇ガ谷2-17-6
050-5593-6795

中国菜 漢

中央区新川2-18-4
03-6435-4850

黄酒ペアリングが楽しめます

Matsushima

渋谷区上原1-35-6 第16菊地ビルB1F
03-6416-8059

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