この夏、約5年半ぶりに各社のガイドブックの上海版が発行されます。
地球の歩き方 上海・杭州・蘇州2026~2027
https://www.arukikata.co.jp/guidebook/234576/
私も何冊か関わったのですが、5年ぶりともなるとなかなかに変化が激しく、取材期間中は「どうしたら最近の上海を伝えられるか」を常に考えていました。
ということで今回は、長く上海に来ていない方にも、上海に行ったことがない方にも2025年の上海が伝わりそうなお店、教えたいお店をご紹介したいと思います。
まずは「木姜子」。
日本では麻辣燙がブームと聞きますが、上海では既にそこまでではなく、店舗も以前に比べて減った感があります。
そんななか登場したのがお一人様向け貴州省火鍋。発酵系の酸っぱ辛いスープの小鍋で好きな具を煮込んで食べるお店で、食事時は常に満席になっています。

人気の理由は麻辣燙にはないヘルシーさ。
具材は練り物や加工肉、春雨ではなく、切り立ての赤身の牛肉や雲貴系(※1)の中がトロトロの豆腐がメイン。つけだれは発酵漬け込み系のたれです。さらに野菜類は食べている途中でも取りに行ける食べ放題制。最近流行りのピーナッツもやしも取り放題です。
※1:雲南省と貴州省のこと。この2地域の味がここ数年ずっとブーム。

薬味はネギでもニンニクでもなくみじん切りの折耳根(ドクダミの根っこ)がお勧め。好き嫌いが分かれると思いますが、パクチーのように今後日本にも波が来るのではないでしょうか。

2軒目は「園有桃」。
以前ご紹介した新疆系手打ちパスタの「Yaya’s」のオーナーが「ここもいいよ」と紹介してくれたお店なのですが、ひとことで言えば「湖南料理の概念が変わってしまうビストロ」。中国茶とナチュラルワインのペアリングを楽しみながら味わえる湖南料理なのです。
扱っているワインはお馴染み、ノマドワイナリーの「小圃」のもの。お店のワインセラーの中には「小圃」のイアン・ダイさんのサインも見つかります。辛い料理に合うお勧めは、このお店「園有桃」オリジナルラベルのオレンジワインだそう。

一般的な湖南料理店では淡水魚の頭で作る剁椒(細かく刻んだ唐辛子)料理ですが、こちらのお店はなんとヒラメを使用。唐辛子は赤ではなく黄色の唐辛子を使っており、刺すような辛さとまろやかな酸味に、ヒラメの甘みがよく合います。
途中で追加するのは平たい手打ち米線。乾麺ではなく生です。全部の旨みが絡む最高の締めだと思いました。
湖南料理としてはかなり創作系なのですが、このお店のすごいところは湖南省出身者たちから高評価を得ているところ。「小さい頃食べていた食材や調味料を本当に使っている」という意見も。地方の人が上海のお店のことを褒めるって、かなりレアなことなのです。

個人的にリピートしてしまっている「有園桃」。ランチは米線メニューが人気です。こちらも打ちたての生。薬味は取り放題です。

最後は「BASTARD」。
広東人とポーランド人のカップルが切り盛りする「モダンチャイニーズ」のお店です。「ジャンル的には創作料理?フュージョン?」と聞いたところ、「それだと中華料理と思われなくなってしまう」とのこと。なので中華料理店です。
イチオシは“陜西風ヴィネグレット”で和えたナスの前菜。香ばしさと酸味のあるソースとトロトロのナスの融合。上海の中華料理はハイスピードで進化中だということを実感できる一皿です。

盛り付けがユニークなハトとモレル(アミガサタケ)の黄酒漬けや、皮がパリパリのローストチキンもお勧め。ほかにない新しさがありながらしっかりおいしく、王道の中華とも言える料理なところがさすがだと思います。


ほかにも歴史建築内にオープンした新疆ビストロの料理(近いうちに紹介したいです)、椒麻鶏(最近ブームの鶏料理)、茶館の米線ランチ、見立てだけではない精進料理など、食の新しいトレンドはどんどん生まれ中。
久々の上海という方なら「以前食べたあの味」を目指してしまうかもですが、滞在中の1日だけでも思い出はちょっと置いておいて、未知のお店にチャレンジしていただきたいな、と。新しい上海の味にぜひ出会っていただきたいです。
(萩原晶子)
店舗情報
木姜子

上海市静安区巨鹿路758号1幢
11:00-21:30
園有桃

上海市徐匯区新楽路167号
11:30-14:00 17:30-24:00
BASTARD

上海市静安区胶州路273弄60号現所一期1楼114室
18:00-24:00
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