曙橋で出合った、まさかのチベット料理の心温まる味わい

チベット民族はヒマラヤ山脈一帯に生活する人々で、中国西南部に位置する広大なチベット自治区を中心に、青海省、甘粛省東南部、四川省東部、雲南省北部などに暮らしています。

2016年7月と2021年3月、東京神保町の岩波ホールで上映された『ラサへの歩き方~祈りの2400km』は、チベットの美しい山岳地帯を舞台にした巡礼の世界を美しく描いています。

『ラサへの歩き方~祈りの2400km』オリジナル予告編

チベットの多くの地域は標高3000mを超える高地にあり、羊やヤク(牛の一種)の放牧に適していますが、耕地には適さず、主食であるハダカムギ以外にこれといった農作物はありません。また、水産物を食べることは稀ですが、これはチベット仏教に基づく殺生の忌避(魚卵は卵の数が多く、多くの命を奪うことから)とも、水葬に対する忌避とも言われています。

こうした背景から、チベット料理のレパートリーはそれほど豊かなものとは言えません。そのなかから、実際に私が現地で食べた代表的なチベット料理を紹介したいと思います。

●ツァンパ

これはチベットの主食です。映画『ラサへの歩き方~祈りの2400km』の冒頭のシーンは、巡礼に出かける前の家族がツァンパを食べているシーンから始まります。

「チンコー(中国語で青稞)」と呼ばれるハダカムギ(大麦の一種)を煎って粉にしたもので、バター茶を加え団子状にして食べます。日本の麦焦がしに似ているという人もいます。

ツァンパ自体に味はなく、バター茶の塩とバターで味つけします。個人的には苦手なのですが、雲南省北部のチベット寺院で僧坊に招かれた際に出されたツァンパとトウガラシの漬物、バター茶の組み合わせは絶品でした。

●トゥクパ

チベット風うどんで、麺(小麦粉使用)の形状によって呼び名は変わります。チベットを旅行する際、外国人が立ち寄るレストランであれば、ほぼどこでも食べることができます。日本人にとってはいちばん口に合うチベット料理かも知れません。

●モモ

チベット風蒸し餃子で、薬味としてトウガラシが添えられることが多いです。具は何でもありですが、チベット自治区だとヤク肉が多いイメージです。なお、チベット自治区で「牛肉」といっても、ほぼ「ヤク肉」となります。

●チベット式カレー

お隣のネパールの影響を強く受けたチベット式カレーもあり、ヤクの肉が使われています。ラサのレストランでは普通に食べられますが、地元のチベット人はあまり口にしないようです。

以下は、代表的な飲料です。

●バター茶

チベット語で「ジャ」。団茶(れんが状に固めたお茶)にバターと塩を加え、筒状の攪拌機に入れて作ります。チベット人には必須の一品で、1日に10回以上飲まれています。日本人からすると、塩気とバター風味があることから、お茶という感じはしません。

チベット自治区では茶樹が育たないため、茶葉は雲南省などから持ち込まれました。その代価となったのが馬であり、世界遺産に登録された麗江や香格里拉などはその交易路(茶馬古道)の要衝として栄えた町です。

●ンガモジェー

チベットのミルクティー。ヤクの乳と砂糖をたっぷり入れて飲みます。チベット旅行中はよく飲みましたが、起床時には「今日も頑張ろう(平地に暮らす者にはチベット旅行は過酷なのです)」という高揚感を、夕食時には「今日も楽しかった」という充足感を覚えたものです。

●チャン

「チンコー」を原料にしたお酒でチンコー酒といいます。アルコール度数はそんなに高くはなく、少々黄色く濁った見た目で微妙な甘さが特徴です。

さて、このような独特のチベット料理ですが、なんと東京でも食べることができます。

その場所は、曙橋にある「タシデレ」というレストランです。

店の入口には五色の旗が飾られていますが、これは「タルチョ(中国語で経幡)」と呼ばれるチベットの祈祷旗で、「世界は5つの要素で構成される」というインド哲学の「五大」に由来するものです。

色は青色が「天」、白色が「風」、赤色が「火」、緑色が「水」、黄色が「地」を表しており、旗に経典が刷られている場合、風にはためくたびに経文を読んだこと(徳を積むこと)になるため、峠など風の強い場所や寺院などでは、すごい数の旗を目にすることになります。なお、最初の写真はチョモランマ(エベレスト)の中国側ベースキャンプに飾られたタルチョです。

では、東京のチベット料理店では、どんなものが食べられるのでしょうか。

メニューをみるといろいろありましたが、チベットディナーセットを頼むことにしました。メインディッシュにモモ、ティンモ(蒸しパン)、ライス、ドリンクが付いて2000円ほどで、一度にいろいろな料理が味わえるからです。

メインディッシュには、ピンシャ(豚肉やジャガイモ、春雨などの入った具だくさんスープ)を選びましたが、あっさりした味でおいしくいただきました。

店では、上で紹介した料理はすべて食べられますし、チベット料理のほかにも、インド料理やネパール料理などもあります。何を食べたらよいかわからなかったらスタッフに聞いてみるとよいでしょう。

私は「地球の歩き方」チベット編の編集者として、これまで10回近く現地を訪ねています。2020年春にも取材の予定でしたが、コロナ禍で延期となってしまいました。そのため、最新刊は下記の版になります。チベットをテーマに長く撮影を続けてきた写真家の長岡洋幸さんが撮った現地の祭りなど、民族色豊かな作品が多数収められています。現地に行くことは難しいですが、ぜひ書店で手に取ってみてください。

地球の歩き方 D08 チベット 2018年~2019年版

https://www.arukikata.co.jp/guidebook/series/book/D08

(東京ディープチャイナ研究会・碓井正人)

店舗情報

タシデレ

新宿区四谷坂町12-18四谷坂町永谷マンション1階03-6457-7255
http://tashidelek.jp

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