7月下旬にモンゴルに行ってきました。コロナ禍後、初の海外旅行です。
モンゴルは中国の北側に位置する高原の国です。ゴビ砂漠をはさんで南に広がる中国の内蒙古にはこれまで何度も行ったことがありましたが、メインランドに行くのは初めてでした。数日間の滞在でしたが、あらゆることが新鮮でした。ここでは料理の話にしぼってお話したいと思います。
そもそもモンゴルと中国内蒙古の料理はどう違うのでしょうか?
一般にモンゴル料理は、「赤い食べ物」(オラーン・イデー)と呼ばれる肉料理と、「白い食べ物」(ツァガーン・イデー )と呼ばれる乳製品に分かれます。今回はレストランなどで食べるオラーン・イデーを中心に話します。
モンゴルの肉料理には、茹でたり、煮たりする料理と蒸し料理、焼き料理があります。
茹で料理の代表は、岩塩で羊肉を茹でるチャナサン・マフで、中国では「手扒肉(ショウバーロウ)」といいます。
蒸し料理の代表がホルホグです。
モンゴル料理のメインディッシュといってもいいもので、羊肉の釜蒸し焼きです。
焼き料理といえば、羊の串焼きのショルログ(羊肉串)や丸焼きのボードグでしょう。今回の旅行では、中国や東京の「ガチ中華」の店でよく見かける塩茹でのチャナサン・マフ(手扒肉)やショルログを食べる機会がありませんでした。
一方、中国や「ガチ中華」でよく食べるモンゴル風蒸し焼売のボーズや、羊肉スープ麺のゴリルタイ・ショル(羊肉湯麺)などは、今回モンゴルでも食べました。
ただし、モンゴルで食べた羊スープは、中国や東京の「ガチ中華」のスープとは少し違う気がしました。
これはウランバートルにあるモンゴル料理店「モダン・ノマズ」の羊スープで、中国や東京の「ガチ中華」の白濁した羊スープとは違い、淡白で透き通っているのです。
ちなみに「モダン・ノマズ」は、その名のとおりモダンなモンゴル料理を出す店で、店内の内装も面白いです。
最近のウランバートルにはおしゃれなレストランが増えていて、「モンゴリアンズ」という人気の料理店で、現地の方と会食しました。この町いちばんのショッピングスポットであるシャングリラモールの中にあります。
そのとき食べたのが、羊肉と野菜入り蒸し焼きうどんのツォイバンでした。
実は、いまモンゴルで沖縄のクリエイティブ集団「CHAKA LAND」が歌う「ツォイバンどうですか?」という曲が流行っているそうです。
「CHAKA LAND」は沖縄の吉本興業の芸能学校ラフ&ピースの出身で、メンバーのひとりにG.エンフエルデネさんというモンゴル人留学生がいて、この曲が生まれたそうです。耳に残る曲で、モンゴルでは知らない人はいません。
なぜツォイバンが歌われたかというと、モンゴル人男性がいちばん好きな料理だからだとか。そんなわけで、一緒に行った現地の方に食べるよう勧められたのです。高級店だったせいか、この店の麺はとても薄くてモチモチの食感がなく、想像していた麺料理とは少し違った味でしたが、羊肉はたっぷり入っていました。
これは一緒に行った方たちが頼んだもので、小麦生地に羊のひき肉を入れて焼いたホーショールと、野菜と肉のスープのノゴートイ・ショルです。
ホーショールは中国では肉餅(ロウビン)といわれている料理のことだと思いますが、形状がちょっと違います。ノゴートイ・ショルはスープの色が少し赤くてボルシチ風でした。
このようにモンゴルと中国では同じ系統の料理でも違いがありましたが、いちばん違うと思ったのは、モンゴルではサラダをよく食べることです。これは「モンゴリアンズ」のサラダです。
1973年8月にモンゴルを訪ねた司馬遼太郎は「街道をゆく5 モンゴル紀行」(朝日新聞出版)の中でこんなことを書いています。
「おどろいたな」
「なにが?」
「モンゴル人が野菜を食べるなんて」
「なにが?」と応じているのは、通訳の女性ですが、当時司馬さんはモンゴル人のような遊牧民は野菜なんて食べない、食べるなんて「堕落」だ……と考えていたようです。かつてモンゴルの遊牧民たちは、馬乳酒など新鮮な乳製品でビタミンを摂っていたからです。
それから約50年後の現在、ウランバートルのレストランではサラダが当たり前のようにメニューになっています。しかも、これらの野菜はモンゴルで収穫されたものです。
さらに違いと言えば、そもそもモンゴル人は箸を使いません。もちろん、ウランバートルには和食や中華、ラーメン屋さんもあるので、そこでは箸が出ますが、一般のモンゴル地元メシの場合はフォークやナイフで食べます。
なぜ同じ民族のはずなのに、こんなに食文化が違っているのでしょうか。
それは双方の歴史が大きく関係しています。現在のモンゴルはソビエト連邦期のロシアと東ヨーロッパ諸国から、内蒙古自治区は中国から食文化の影響を受けているからです。
もともとモンゴル料理は塩以外の香辛料をほとんど使わないのでシンプルな味わいが一般的だったのですが、モンゴルではロシアの影響を受け、レストランなどではサラダを食べたり、肉料理も塩だけでなく、ロシアや中央アジアのスパイスが使われているように思いました。一方、内蒙古では中国の影響を受けて、トウガラシなども多く使い、味が濃くて複雑な中国人好みの味になっているように思います。
最後にお酒の話を少し。ウランバートルのビヤホールで飲んだ地ビールの「アルタンゴビ」と、いま現地でいちばん人気というモンゴルウォトカの「エデン」を紹介します。
ビールの味はロシアで飲んだものに近く、さっぱりタイプというより、ほどよいにごりを感じます。またモンゴルでは中国のような白酒ではなく、ウォトカを飲みます。味は確かに無味無臭のウォトカに近かったです。
ウランバートル市内にある人気のビヤホール「イフ・モンゴル」の店内です。夏は店の前のオープンエアの場所で飲むのが最高に気持ちがいいです。なにしろ夏でも20℃くらいなのですから。
そんなわけで、都内の「ガチ中華」の店でも、モンゴル料理とひと口に言っても、メインランドの料理なのか、中国内蒙古由来の料理なのかで、味つけが違うことがあるようです。ぜひ食べ比べてみてください。
(東京ディープチャイナ研究会・中村正人)
店舗情報
Modern Nomads
In Front of Metro Mall and Khuukhdiin Urlan Buteekh Tuv, Baga Toiruu, Sukhbaatar District Baga Toiruu, Sukhbaatar District,Ulaanbaatar
Mongolian’s Restaurant, Shangri-La Mall
403, 4th Floor, Shangri-Mall, Olympic Street Sukhbaatar district,Ulaanbaatar
Ikh Mongol
Great Mongol, Ulaanbaatar