甘み、酸味、辛味、旨味、苦味、香りなど私達の味覚を存分に刺激してくれる中華料理。世界三大料理のひとつに数えられる中華料理は気軽に食べられる馴染み深いものですよね。
麻婆豆腐、青椒肉絲、餃子、棒棒鶏。家庭料理の定番で食卓によく並ぶものがある一方でフカヒレ、ツバメの巣、アワビなど高級食材をいただくものまで幅広いのも特徴です。
広大な国土を持つ中国では、異なる風土の中で様々な料理が生まれ豊かな食文化が育まれて来ました。
日本では主に「中華料理」と呼ばれることが多いですが、実は「中華料理」とは日本人向けにアレンジされた中国料理のこと。本場中国の中国料理は日本の中華料理より幅広い食材が使われ、地方によってそれぞれ特徴があります。
今回は多彩な中国料理の中でも特に私たち日本人が愛してやまない四川料理に注目!その歴史やおいしさの秘密、食欲をそそる辛味の元などをご紹介します。
中国の四大料理の一つである「四川料理」
東は海に面し、西は山に囲まれた中国。広い国土と豊富な土壌、地域によって異なる自然環境は中国の郷土料理にも多大な影響を与えています。
日本でよく言われるのは、中国の中国料理は大きく分類すると4つに分かれるということ。「四大中国料理」という表現をよく耳にしますよね。この四大中国料理は大きな中国を4つの地域に分け、それぞれの郷土で育まれた地元の料理を表しています。
四大中国料理は以下の4つ。それぞれ食材や味付け、使用されるスパイスなど特徴があるので料理の特徴や代表的な料理を一覧表で見てみましょう。
四大中国料理 | 特徴 | よく使う食材 | スパイスや味付け | 代表的な料理 |
四川料理 | ・冬の寒さ、夏の暑さを乗り切るためのスタミナ食 ・豊富なスパイスを使った辛味や痺れが特徴 | ・鴨の血 ・豆腐 ・ハチノス ・豚肉 | ・豆板醤(トウバンジャン)や唐辛子、花椒(ホワジャオ) ・「麻辣(マーラー)」と呼ばれる辛く痺れるような味付け ・味は濃いが辛くないものもある | ・麻婆豆腐 ・青椒肉絲 ・担々麺 ・辣子鶏 ・夫妻肺片 ・火鍋 |
北京料理 | ・宮廷料理として発展した ・小麦や雑穀が豊富な地域 | ・生姜やニンニクなど体を温める食材 ・小麦の麺,皮 ・羊肉 | ・ミソや塩などを使うしょっぱい味付け ・強火を使う煮込み料理 | ・北京ダッグ ・ジャージャー麺 ・水餃子 ・刷羊肉 |
上海料理 | ・海と山に囲まれ、新鮮な食材が豊富。 ・素材の味を活かす料理 | ・海産物 ・淡水魚 ・ウナギやザリガニ | ・甘く薄味で煮込んだり蒸したり ・黒酢をよく使う ・甘く濃い味付けもある | ・上海ガニ ・糖酷小排 ・小籠包 ・蟹粉豆腐 |
広東料理 | ・「食は広州にあり」といわれるほどバラエティに富む ・西洋料理の手法を早くから取り入れて発展してきた | ・フカヒレやツバメの巣などの高級食材 ・オイスターソース ・フルーツ | ・素材の旨味を味わうあっさりした味付け ・ロースト料理が多い | ・ワンタン麺 ・牛肉のオイスターソース炒め ・焼鴨 |
四川料理はなぜ辛い?四川料理の歴史
それぞれに特徴を持つ四大中国料理の中でも、一際大きな違いを持つのが四川料理です。豊富な食材に加え、麻辣(マーラー)と呼ばれる痺れるような辛味が四川料理の特徴。本場中国でも四川料理の人気は特に高く、今では中国全土で食べられています。
日本でも世界でも中華料理は辛い料理が多いというイメージが定着していますが、それは四川料理が元。では、四川料理はなぜ辛いのでしょう?
四川料理が辛い味付けとなったのには、その気候が大きく関係しています。中国本土の真ん中に位置する四川省は山に囲まれた盆地。夏は蒸し暑く、冬は寒い気候です。
日本の夏でもそうですが、暑さに湿度が加わると食欲が減退してしまいますよね。湿度の高い夏でも食が進み、発汗を促すことが健康増進につながるように、そして冬には食事で体を中から温められるように辛味の強い料理が好まれるようになりました。
しかし、四川料理がすべて辛いわけではありません。辛味の元となる中南米原産の唐辛子は17世紀の明朝末期の時代に中国に伝わったといわれており、辛味は後から加わったものなのです。
四川省に唐辛子を持ち込んだのは、明末から清代初期にかけて四川省に移住してきた湖南省の人たちだといわれます。湖南料理は中国では最も辛い料理とされます。
辛味の調味料としては、ほかにもソラマメを塩漬けにして発酵させ、唐辛子や味噌を加えて熟成させた豆板醤(トウバンジャン)や、黒大豆を同じく発酵させた豆豉(トウチ)があります。一方、米を糖化させて甘酒のようになった酒醸(ジュウニヤン)も、食後のデザートとしてよく使われます。
豊富な土壌があったこと、外部からの人の流れ、長期保存のきく辛味調味料が生まれたこと、そして四川省の気候などをもとに辛く痺れる四川料理は発展を続けました。
四川料理の辛味は6種類に分かれる
四川料理の辛味は単に辛いだけではなく舌に感じる痺れが特徴。日本のわさびとも南米のハバネロとも異なる、舌をぴりぴりと痺れさせる刺激のもととなるのは四川料理で多様される6つの辛味です。
四川料理の辛味は以下の6種類。どのような素材でどのような辛味なのかを一覧で見てみましょう。
麻辣(マーラー) | 「花椒(ホアジャオ)」を使った舌が痺れる辛味。ぴりぴりした刺激が続くのが大きな特徴。 |
香辣(シャンラー) | 花椒の香りと刺激に唐辛子を加えた辛味。麻辣より香りが強く、舌が熱くなるような辛味が特徴。 |
煳辣(フーラー) | 唐辛子を炒め焦がした香りと辛味。ぴりっとした刺激的な辛味と鼻に抜ける焦げの香りが特徴。 |
糟辣(ザオラー) | 唐辛子を発酵させた香りと辛味。にんにくや生姜を唐辛子と一緒に発酵させた香り高い辛味が特徴。 |
酸辣(スアンラー) | 辛い中に酸っぱさを感じる辛味。最初に酸味が、後味に辛味が残るのが特徴。 |
鮮辣(シェンラー) | 生の青唐辛子の香りと辛味。青唐辛子特有の爽やかな香りと辛味が特徴。 |
この6種類の辛味の中でもさらに四川料理の特徴を際立たせているのが「花椒(ホアジャオ)」を使った「麻辣(マーラー)」と「香辣(シャンラー)」です。
中国原産のスパイスである花椒は四川料理の痺れのもと。食べ終わった後もぴりぴりと刺激を感じる本場の四川料理には欠かせない存在です。舌への刺激だけでなく、食欲をそそる爽やかで強い香りも特徴。古くから漢方薬としても使われてきた側面もあります。
この花椒を多く使うのがもともとの四川料理ですが、唐辛子を多く使う湖南料理と混ざり合って両方の特徴を持つ現在の四川料理へと進化しました。
代表的なものからディープなものまで!四川料理一覧
四川料理の歴史や発祥、その辛味のもとなどをご紹介しました。次は代表的な四川料理を見ていきましょう。
回鍋肉
日本でもお馴染みの回鍋肉(ホイコウロウ)は四川を代表する家庭料理のひとつです。日本で食べられる回鍋肉は甜麺醤の風味が強く甘い味付けが特徴。実はこの味付けは日本人向けにアレンジされたもので、本場の回鍋肉は豆板醤の辛味が強く出た料理です。
本来の回鍋肉はどっしりとしたお肉を食べる料理。野菜は豚肉を際立たせるために存在する引き立て役です。1時間ほど茹でこぼして柔らかくなった豚肉を厚めにカットし、ニンニクの葉とともに生姜やネギなどの香味野菜を加え豆板醤で味付けしたものが本場の回鍋肉なんですよ。
というものの、回鍋肉は家庭料理なので正しいレシピが存在しません。現代では日本でアレンジされたキャベツやピーマン入りの回鍋肉も四川で食べられています。
火鍋
いま東京で食べられる店が急増中な火鍋も四川料理です。
中国では「火で煮込む鍋料理」全般を「火鍋」と呼んでいます。特に四川省の鍋は、火をふような辛さが特徴です。
四川火鍋のスープのもとは、大量の牛脂や豆板醬、唐辛子、花椒、ニンニクなどで、そこにスープを入れて沸騰させてから、具材を鍋に入れ、ゴマダレなどにつけて食べます。本場の辛さに慣れていない人は、口の中が痺れて味がわからなくなるほどです。
そのため、最近では鍋を2つに仕切り、麻辣スープとそれほど辛くない白湯スープに分けて出す店も増えています。
具材はお肉や魚介、ジャガイモやレンコンなどの根野菜を煮込んで食べ、その後葉野菜をたっぷり入れてさっとスープにつけていただきます。最後に麺を入れてしめにします。スープは油が強すぎるので、基本的に飲むことはありません。
麻婆豆腐
優しい味わいの豆腐を痺れる辛さに変えてしまったのが麻婆豆腐。暑い夏の日に汗をかきながら食べるもよし、寒い冬の日に体を温める目的で食べるもよし、四川でも日本でも年中愛されている一品です。
本場の麻婆豆腐はぴりりどころではない、痺れる辛さが特徴。粉状の花椒がたっぷりと振りかけられ、一口食べると舌がぴりぴり。癖になる花椒の刺激と豆腐の甘みが本場の麻婆豆腐の特徴です。辛味よりも痺れの方が強い料理ですね。もちろん本場でも白いご飯と一緒に食べられます。
干鍋(ガングゥォ)
比較的新しい現代四川料理のひとつが干鍋(ガングオ)です。読んで字のごとし、スープなしの鍋料理のこと。たっぷりの野菜と肉を花椒や唐辛子などが入った辛い油でじっくりと炒めた料理のことです。鍋で提供されるため干鍋という名前がついています。
干鍋の中で最も有名なのが、麻辣香鍋(マーラーシャングオ)です。最近、日本にも届き始めています。野菜やお肉の旨味とスパイスの香りがダイレクトに楽しめる、これから日本でも流行するであろう四川料理です。
大千干焼魚(ダー・チェン・ガン・シャオ・ユー)
「大千干焼魚(ダー・チェン・ガン・シャオ・ユー)」は四川の伝統料理のひとつです。海のない内陸に位置する四川省では、鯉などの淡水魚を使うのが主流。魚をカラリと揚げ、たっぷりの香味野菜と唐辛子や豆板醤などの辛いソースで煮込んだ料理です。
淡白な味わいの魚に濃い味のソースがぴったりの一品です。
四川料理のディープなオススメレストラン2選!
日本でも大人気の四川料理。本場の辛さや痺れを体験できるお店をご紹介します!ぜひ本場の麻辣味を楽しんでくださいね。
香辣妹子(シャンラーメイズ)
JR池袋西口の近く、雑居ビルの中にある中華料理のフードコート。中華料理のフードコートというだけでも面白いですが、その中にある「香辣妹子(シャンラーメイズ)」は本場の四川料理がいただけます。
日本風にアレンジされた四川料理とは異なる、容赦ない辛味と痺れを味わいたい方にぴったり。汁なし担々麺やよだれ鶏などがコスパ抜群の価格で食べられます。
譚鴨血老火鍋(タンヤーシュエロウヒナベ)
本場の火鍋を味わいたいのなら新宿「譚鴨血老火鍋(タンヤーシュエロウヒナベ)」へ。四川に600店舗を持つ大人気店が日本に初上陸しています。
無数の唐辛子が浮かぶ真っ赤なスープは見ているだけで辛い!でも辛いもの好きな方にはぜひチャレンジしてほしいおいしさです。辛さも選べるので、四川火鍋初挑戦の方にもおすすめです。
まとめ
辛さは旨味、を地で行く四川料理。食べ慣れた日本風中華料理とは異なる味わいですが、刺激の強い四川料理の虜になってしまうこと間違いなし!辛味の後に痺れを感じる未知の味わいを食べに出かけてみましょう。