上海は食べ物のブームがわかりにくい街だと思います。
でも最近、ジャンルが異なる飲食店が一つの料理をそれぞれにアレンジして出し始めたら、それは流行っている料理なのではないか、と思うようになりました。
そう思うきっかけになったのが、今回ご紹介する料理「椒麻鶏(ジャオマージー)」です。
椒麻鶏は、日本のサイトで検索すると四川料理なのですが、中国の「百度」などで検索すると新疆料理になっています。新疆人が四川の味をベースに作ったのが起源と言われていますが、上海では新疆料理と認識されています。
青い花椒の実で味付けした「麻」な風味は四川料理そのもの。でも上海市内の四川料理店にはないという、そういう料理です。
もともとがアレンジ料理なのでお店ごとのカラーを出しやすいのか、この半年くらいで椒麻鶏をいろいろなお店で見るようになりました。というわけで今回は、上海市内で椒麻鶏を食べるならぜひ行きたいお店をご紹介したいと思います。
まずは基本の椒麻鶏から。
市内の新疆料理ゾーン・浙江中路に昔からある食堂『貫貫吉餐廳』は、アルコール提供なし、女性店員は調理場もホールもヒジャブ着用という筋金入りです。夜や早朝は店の近くで羊を解体していることも(けっこうな市中心部なのですが……)。


こちらの椒麻鶏は、中国の口コミアプリ『大衆点評』によると上海トップの人気。
ほぐした茹で鶏にピーマン、玉ねぎなどの新疆っぽい野菜と青い花椒の実を和えた正統派の椒麻鶏です。新疆料理のサラダ「老虎菜」に「麻」の風味を足した感じ。さっぱりしていて油っぽさもないので、私は四川料理の「口水鶏」より好みだなと思っています。
以上が、伝統的、正統派の椒麻鶏です。

2軒目はフレンチのビストロ『mignon9』です。
フレンチなのですが、中華アレンジメニューが人気のお店で、休日のランチタイムは在住欧米人で賑わっています。

今回はランチで椒麻鶏を頼んでみました。
「これから焼くのでちょっとお時間かかります」と言われ、「焼く?」と疑問に思いながら待っていたら運ばれてきたのがこれ。
原型ゼロ、全然違う椒麻鶏が出てきてびっくり。ほのかに「麻」なパリパリのローストチキンをクリーミーなソースと味わうスタイルでした。
ディナータイムに何人かで頼む場合は丸鶏のローストバージョンになるそうです。

『mignon9』は、「油潑エッグベネディクト」もお勧め。
卵の下のソースが、見た目マヨネーズ系なのですがしっかり油潑麺のあの味。その下にはぎゅっとつぶして焼いた香ばしいクロワッサンが敷かれています。
味わうには油潑麺のおいしさを知っていることが前提になるので、ガチ中華のその先にある料理と言ってもよいのではないでしょうか。

3軒目は個人的に今イチオシのお店『hoxa bistro』。
歴史建築「沙美大楼」のホテルロビーの奥に入り口がある隠れた新疆料理店です。ここ、やや観光地っぽくて高級っぽくて、「ガチ中華の新疆料理」を求める読者の皆さんは恐らく選ばないお店、邪道だと思うお店かもしれません。
でも、ここの料理、びっくりします。ぜひ言っていただきたいお店です。

椒麻鶏はこんな感じ。
香ばしく揚げ焼きにした鶏を、花椒の香りを含んだソースで味わいます。チキン南蛮の四川×新疆ミックス、という感じ。でもチキン南蛮ほどしつこくなく、絶妙。ビールにもぴったりです。

この『hoxa bistro』、ほかにも意外なアレンジ新疆料理がたくさんあって、全部に驚かされるのですが、いちばん定番の羊肉串もこの仕上がり。
串から外してスパイスの効いたヨーグルトソースとともに薄焼きナンに包んで食べます。
これを食べて以降、全部の羊肉串にこのスパイスヨーグルトソースが欲しいと思うようになってしまいました。

以上、今回は3店舗の椒麻鶏を紹介しましたが、まだまだ変わり種がありそうな予感。
よく、上海で食べる地方料理は本場の味と違うということが言われますが、椒麻鶏は「これが本場の味」ということを論じている記事、人にまだ出会ったことがありません。
もしかしたらこの椒麻鶏は、いちばん自由な中華料理なのかもしれません。
(萩原晶子)
店舗情報
貫貫吉餐廳

上海市黄浦区浙江中路70号-2号
6:30-翌2:00
mignon9

上海市徐匯区五原路71号
11:00-17:00 18:00-23:00
hoxa bistro

上海市黄浦区北京東路194号沙美大楼2階
11:00-16:30 17:00-22:30
Writer
記事を書いてくれた人
