「東京ディープチャイナ」を楽しむために中国地方料理の特徴を知ろう

都内にディープ中華の店が増えたことで、日本にいながら味わえる中華料理の種類も格段に増加しています。

ひとことで中華といっても味はさまざまです。

中国は東西約5000km、南北約5500kmと広大な国で、地方によって気候や文化、風俗、習慣、宗教などに違いがあります。これは料理にもいえることで、それぞれの地方で使われる食材や調理法は違い、各地に特色のある食文化が存在しています。

こうした違いを頭に入れておくことは「東京ディープチャイナ」を楽しむコツといえるでしょう。


中華料理の地方によるグループ分けで有名なのが四大料理と八大料理です。

中国で体系的な料理が登場したのは春秋戦国時代(紀元前770~紀元前221年)と考えられています。その後、7世紀に始まる唐宋時代になると、北と南で独自の料理体系が生まれます。17世紀の清代初期に四大料理という、当時影響力の強かった4つの地方を中心にグループ分けする考えが生まれました。

四大料理について簡単に説明します。

四大料理とは、日本で北京料理として知られる山東料理(魯菜/ルーツァイ)、同じく上海料理として知られる江蘇料理(苏菜/スーツァイ)、四川料理(川菜/チュアンツァイ)、広東料理(粤菜/ユエツァイ)のことです。

●山東料理(>北京料理)

山東料理は、現在の山東省を中心に黄河中下流域で発展した料理の総称です。日本では「北京料理」と呼ばれることが多いのですが、中国で「北京料理」といえば山東料理に含まれる「北京」という都市の料理です。

北京ダック

明清時代に宮廷料理人として採用される者が多かったことから強い影響力を持つようになったと言われています。

料理の特徴は強火をうまく使うことや煮込み料理が多く、塩味が強いこと。主食は粉食。食材としてネギやショウガ、ニンニクを多く使い、調味料としてミソを多用することで知られています。北方に住む遊牧民族と境界を接していたことから羊肉を使った料理も多いです。代表的な料理に、北京ダックや火鍋の涮羊肉(シュワンヤンロウ)が知られています。

●江蘇料理(上海料理)

江蘇料理は、長江下流域の淮安(長江支流の淮河沿いの都市)と揚州(鑑真和尚なじみの都市)、南京(江蘇省の省会)を中心に発展した料理の総称です。日本では「上海料理」と呼ばれることが多いですが、「北京料理」同様に「上海料理」は江蘇料理というグループにおける地方料理となります。

12世紀の北宋滅亡以降、中国の北方は混乱・衰退したため、経済の中心は長江両岸に移り、そこで新たな食文化が花開きました。

松鼠桂魚

江蘇料理の特徴は、温和な気候が育んだ地産の水産物を中心に甘く薄味で煮込んだり蒸したりしたものが多いことです。代表的なものに「松鼠桂魚(ソンシューグイユィ)」があります。日本では桂魚は手に入りにくいので、イシモチなどで代用されることが多いようです。

●四川料理

四川料理は、中国南西部に位置する四川省、重慶市を中心に発展した料理の総称です。

激辛料理で知られていますが、花椒(ホワジャオ=中華山椒)のしびれとトウガラシの辛さを併せた「麻辣(マーラー)」が特徴です。このエリアの夏は蒸し暑いことから暑気払いとしてこの味が生まれたという説があります。

四川省と重慶市を併せた人口(重慶市は1997年まで四川省)は中国で最も多く、出身者が各地に移り住んでいることから、中国国内では四川料理店の数が最も多いと言われます。ただ、このエリア以外の中国人にとって本場四川料理は辛すぎると感じる人が少なくないようです。

麻婆豆腐
四川料理についてはこちら

●広東料理

広東料理は中国南部に位置する広東省を中心に発展した料理の総称です。早くから海外に渡る人が多かったことから世界中に広まっており、中華料理=広東料理と捉えられるケースも多いようです。

海に面した南方ならではの豊富な食材を生かし、あっさりとした味つけで調理するのが特徴です。種類豊富な点心(広東語でディンサム)をお茶と一緒に楽しむ飲茶(広東語でヤムチャ)は世界中で人気です。

点心と飲茶の料理

このように中華料理は大きく4つに分けられますが、実際はもう少し複雑で多様です。

都内のチャイニーズ中華の店でも、これら4つの括りに入らない特色ある地方料理を出す店が急増中です。たとえば、福建料理や湖南料理などです。

そこで、中国で広く知られているもうひとつのグループ分けの八大料理を簡単に説明しましょう。

八大料理とは

八大料理とは、前述した四大料理に福建料理(闽菜/ミンツァイ)、湖南料理(湘菜/シャンツァイ)、浙江料理(浙菜/ジャーツァイ)、安徽料理(皖菜/ワンツァイ)の4つを加えたものです。

●福建料理

福建料理は、中国南東部にある福建省を中心に発展した料理の総称で、台湾料理にも多大な影響を及ぼしています。

その特徴は巧みな包丁使いと多種なスープ料理。味付けは蝦油(エビを発酵させた油)、魚露(魚醤)、紅糟(酒粕の一種)などの調味料を使った甘酸っぱいことで知られています。

福建省は山がちな土地で、東を海に面しているため、新鮮な山海の幸に恵まれており、料理にはふんだんに使われます。

福建料理から生まれた熊本のタイピーエン(太平燕)

有名な料理は山海の珍味を壺に詰めたスープ「仏跳牆(フォーティヤオチァン)」やカキ入りオムレツ「海蠣煎蛋(ハイリ―ジエンダン)」など。
また、「扁肉燕(ビェンニュッイェン 太平燕ともいう)」というワンタンスープ麺は、熊本のご当地グルメ「タイピーエン(太平燕)」の元となった料理です。

●湖南料理

湖南料理は長江中下流域の南岸にある湖南省を中心に発展した料理の総称です。明代以降は中国有数の穀倉地帯となったエリアで、中国で最も辛い料理として有名で、清代初期には政府主導で湖南省から四川省に多くの人が移り住み、トウガラシの辛さを四川に伝えたと言われています。

酸辣湯

同じ辛さでも四川料理の「麻辣(マーラー)」に対して、湖南料理はすっぱく辛い「酸辛(スアンラー)」。強火の調理法が好まれ、味つけが濃いことも特徴。代表的な料理に、最近日本でも人気の酸辣麺のスープの元祖である「酸辣湯(スアンラータン)」があります。

●浙江料理と安徽料理

浙江料理と安徽料理は、四大料理では江蘇料理の系統に含まれた地方料理といえます。

清蒸魚

浙江料理は浙江省の杭州から温州一帯の地方料理で、海に近いことから海産物を使った料理が多く、日本人の口に合います。代表的な料理に、蒸し魚の醤油がけの「清蒸魚(チンジョンユィ)」があります。

梅干菜焼肉

安徽料理は世界遺産に登録された安徽省の黄山南側一帯の地方料理。砂糖や油を多く使った濃い味が特徴です。豚の角肉と高菜を甘く煮込んだ「梅干菜焼肉(メイガンツァイシャオロウ)」のような料理が知られています。


日本では江蘇料理や淅江料理、安徽料理の看板を掲げる店は少なく、上海料理をうたう店でメニューに入っているのが一般的です。

現在の東京には、これら八大料理の括りには入らない、地方料理を提供する店がたくさんあります。たとえば、雲南・貴州料理、西北料理、東北料理、台湾料理などです。

実をいうと、ほとんどのディープ中華の店では、人気の四川料理や東北料理、火鍋など、ひとつの地方料理に限らず、さまざまな料理が食べられるのが一般的です。メニューを見ながら、味の違いを見極め、注文できるようになればたいしたものです。

(東京ディープチャイナ研究会)

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