池袋西口(北)の中華食材店「友諠商店」は有名だけど、ひとりで入るのはちょっと勇気がいる、と思っている人も多いのではないでしょうか?
友諠商店だって、じつは慣れれば楽しい場所なのですが、古いビルの奥にあるエレベーターで4階に行くのに緊張するという声も少なからず聞こえます。
最近、住宅地に増えている小さな中華食材店での買い物についてお話ししましょう。紹介したいのは、きっとどの店でも売っていて、すぐに見つかる4つの食材、「老干媽(ラオガンマ=ラー油)」「鎮江香醋(ジェンジャンシャンツー=黒酢)」「冷凍水餃子」「大紅棗(ダーホンザオ=ナツメ」です。
■「老干媽」~餃子のラー油代わりにどうぞ
私がよく利用する店は、板橋区大山の興栄中華物産。東武東上線の大山駅から徒歩3分のところにあります。2年前にできたというきれいな店内は、1階に生鮮食品やドライフルーツ、アジア食材など、中2階と中地下に中華食材があります。
まずは「老干媽(ラオガンマ)」。ひとことでいえばラー油の瓶詰ですが、たくさんの種類があります。実際にはラー油というより、いわゆる日本の「食べるラー油」に近く、トウガラシのほかにいろいろな具材が入っていて、炊いたご飯にかけて食べる人もいます。
日本にいる中国人留学生に「どの老干媽がおすすめですか?」と聞いても各人好きなものが違うので、まずは一般的な「三種ミックス辣油」にしてみましょう。辛そうな瓶が並んでいるコーナーで赤い蓋とラベルにおばあさんの写真が印刷してあるものが「老干媽」シリーズです。私は最初、この写真を「お兄さん?」と思いましたが、よく見るとおばあさんで、この方がラー油をつくったそうです。
瓶には日本語でも「ローカンマ 三種ミックス辣油」と書いてあります。実際の発音は「ラオガンマ」に近いかな。中に入っている三種とは「ザーサイ」「ピーナッツ」「豆腐」だそうで、見た目ほど激辛ではなく、味わい深いです。
我が家では、このカリカリした豆腐が大人気です。最近はドン・キホーテでも扱っている店舗があるので、餃子のラー油代わりにぜひお試しください。きっとリピ買いすると思います。ちなみに興栄中華物産では350円でした。
中華食材の個人商店に入ると、中国語でなにか言われるけど、どうしたらいい? と聞かれることがあります。
たぶんそれは「歓迎光臨」(ファンイングアンリン=いらっしゃいませ)なので、私は日本語で「こんにちは~」と答えています。会計時にレジで何か言われたら、「袋要りますか」です。これは友諠商店のような大きな店でも聞かれます。
要るなら「要(ヤオ)」、要らないなら「不要(ブーヤオ)」だけでいいですが、財布と一緒にマイバッグを出してしまえば何も聞かれません。日本語では「袋ありますか」と状態を問うのが普通なのに、中国語では「袋要りますか」と人間が主語になるあたり、おもしろいなあと言語の教師として思います。でも、たいていレジの方は日本語ができるので大丈夫です。
■「鎮江香醋(ジェンジャンシャンツー)」~酢が苦手な人にこそおすすめ
「鎮江香醋」は中国の代表的な黒酢のブランドのひとつです。調味料の棚にはたくさんの瓶が並んでいますが瓶に黄色いキャップと黄色いラベルが目印です。お醤油みたいな黒さですが、ラベルにある「醋」は「酢」の異字体。「鎮江香醋」とはつまり、「鎮江というところの香りのいいお酢」というわけです。
日本の黒酢よりもずっと黒っぽく、うまみのアミノ酸も多いので健康のために毎日飲む人もいます。昔、SARSの感染が深刻だったときに「鎮江香醋」をコーラで割って飲むことが流行したこともありました。この飲み方が健康にいいのか判断できませんが、確かに黒酢はコーラで割れば飲みやすく、コーラは黒酢のおかげでさっぱりした味になります。酸っぱいものが苦手な私でさえ、当時これを勧められてはまりました。
「鎮江香醋」の原料は、もち米・麦ふすま・塩・砂糖だけで、保存料や着色料などの添加物なし。これを発酵後、年単位で熟成させます。8年寝かせた高級品はメタボ予防の健康食品やダイエット飲料扱いです。
まずは550ミリリットル300円くらいの普通のタイプを買ってみましょう。ちなみに輸入品だからか、同じものが300円以下から800円くらいまで、お値段はお店によってまちまちです。中国出身の方が経営する店の方が安い傾向があると思います。そして次は別のブランドとか、熟成期間が長いものとか、いろいろ試して比較してお気に入りの黒酢を見つけましょう。
「鎮江香醋」の使い方は、健康のために何かで割って飲む以外に、中国料理全般にいろいろ使えます。最も簡単なのは、「鎮江香醋」+「老干媽」で水餃子のタレにすること。「鎮江香醋」も「老干媽」も原料に塩が使われているので、お醤油を足さないでこの二つだけで十分です。基本は1対1。これでやってみてあとはお好みで加減してください。お醤油+ラー油+米酢よりもコクがあるし、見た目もちょっと豪華な感じです。
唐揚げにレモンを絞る派には、レモンの代わりに「鎮江香醋」もありです。酸っぱいものが苦手な私は、唐揚げにレモンを絞る人に「なんで勝手に酸っぱくするの!」と怒った経験が何度もありますが、この「鎮江香醋」なら大丈夫。うまみ成分が強くて酸味がまろやかなのでむせません。
酸っぱいものが好きという方なら、ラッキョウやニンニクを剝いてガラス瓶に入れて全部が浸るまで「鎮江香醋」を注ぐだけという酢漬けもおすすめです。1週間くらい寝かせてからどうぞ。
「鎮江香醋」は黒酢ですから、バルサミコ酢を垂らして合うものなら、生ハムでもクリームチーズでもドレッシングでもお肉のつけタレでも基本的に何でも大丈夫。お安いのでガンガン使いましょう。
■「冷凍水餃子」~おいしく食べるなら凍ったまま蒸籠で
「冷凍餃子」なんてコンビニにもスーパーにもあるのになぜ、あえて中華食材店で?
それは種類が多いからです。そもそも餃子は焼きではなく、水餃子が基本。で、何の餃子にする? と具材を決めるもの。なので、豚肉とキャベツの餃子から一歩進みたいならぜひ、中華食材店の冷凍庫の前で悩んでほしいのです。
種類も多いけれど、袋詰めされていて量も多いので、一度に何種類も買えないし、とりあえずどの具にするかあーだこーだと悩むのもいいところです。どうせ中華食材店で買うなら、日本であまり食べない具で、でもそんなにクセがなくて誰でも食べられるものとして、ナズナの水餃子を買ってみましょう。
お店の冷凍庫か商品のパッケージに日本語で種類が書かれているので、初めてでも、中国語がわからなくても大丈夫。でも、日本語を読んでもあえて選ばないであろうナズナに挑戦です。
ナズナは春の七草のセリ、ナズナ…のあれで、ぺんぺん草のことです。漢字では「薺」、中国語は繁体字なら「薺菜」です。
中国でナズナは薬用植物でもありますが、上海ワンタンの具材としてとてもポピュラーな食材です。上海ワンタンは日本のワンタンと違って、具の部分が大きく、餃子くらいかそれ以上の大きさです。朝、ワンタン屋に行って「今日は何のワンタンにしようかな」というのが上海の朝だそうで、私もここでナズナを初体験しました。それに近いのが、「冷凍水餃子」のナズナのやつというわけです。
水餃子はスープで煮るか、茹でるか、蒸すかですが、断然、蒸したほうがおいしいです。水餃子は茹でるより蒸したほうが具のスープが外に漏れないため、おいしさが丸ごと味わえるからです。
普通の蒸し器でも、蒸籠(せいろ)でも8分くらい放っておけばいいので簡単だし。見た目もそれっぽいのでこの際、蒸籠も買ってしまいましょう。スーパーの肉まんもシュウマイも蒸籠で解凍すると本格気分が出せますね。
ちなみに、蒸籠を買うときはお家の鍋のサイズを測っておくこと。やはりぴったりだと蒸気の効率がいいので早くできます。蒸籠の方が大きいぶんにはある程度どうにでもなりますが、焦げたり、最悪の場合、はみ出した部分の蒸籠が燃えます。
小さいものを買うにしても、肉まんを入れて蓋が閉まる厚さは最低限必要だし、家にある一番小さい鍋より外径が小さいものは使えません。上記のすべての失敗は実体験に基づくものなので、老婆心ながら……。
さて、「冷凍水餃子」は蒸したら蒸籠ごとお皿に載せて食卓へ。つけダレはもちろん1と2で紹介した「鎮江香醋」+「老干媽」1対1でどうぞ。そして、ナズナの次はセロリや酸菜なども人気なのでいろいろ試してください。簡単ですからね。
■「大紅棗(ダーホンザオ)」~茶こしマグで戻してみる?
「大紅棗」の棗はナツメのこと。「大紅棗」は「大きな赤いナツメ」を意味します。ドライフルーツやシロップ煮で売られていて、料理にもデザートにも使われます。でも日本では、ナツメという名前は聞いたことがあっても、なかなか食べるチャンスがないかもしれません。
ナツメには鉄分をはじめとしたミネラルとビタミンB群、食物繊維などが豊富に含まれていて、女性のための美容食といわれるので、日本でももっと普通に食べられればいいのにと思います。中国ではこうしたドライフルーツやナッツをちょっとおやつにすることが多くて、現地のスーパーではドライフルーツもナッツも専用の大きな売り場で量り売りされています。東京の中華食材店でも様々なドライフルーツやナッツの袋詰めが並んでいます。
「大紅棗」の多くは新疆ウイグル産で、大きいほどいいとされ、一粒のサイズが大きいほど値段も高くなります。大粒の乾燥ナツメはきれいに並べられて贈答用の包装で売られていて、お土産にも勧められます。東京の中華食材店にも必ずある乾燥ナツメですが、基本的にはそのまま食べます。乾燥していてモソモソするところが、お茶うけにぴったりです。
でも、このモソモソでむせたり、食べにくく感じることもあります。そこでおすすめなのが、ドライフルーツをヨーグルトの水分(ホエーといいます)で戻す方法です。
水切りヨーグルトは、低カロリーなカルシウム食品として注目されています。普通はザルにガーゼかキッチンペーパーを敷いて漉すものですが、これからの季節、そのザルを冷蔵庫に入れたいし蓋もしたい。そこでザルの代わりに登場するのが、中国土産にもらったことが多いであろうあの使いにくい陶器茶こし付きマグカップです。もらったり買ったりしたけれど、使っていないという人が私の周りには何人もいます。私の場合も、自分で買って、何年もしまい込んでいました。
まず、この茶こし部分にコーヒー用のペーパーフィルターを入れます。きっちり内側に沿うように織り込んで調整してください。ここにプレーンヨーグルトをたっぷり入れて蓋をして冷蔵庫で一晩おけば、フィルターの中には水切りヨーグルト、マグカップの中にはホエーと分けられます。すぐに水が切れてヨーグルトの嵩が減るので、ヨーグルトは蓋が閉るギリギリまで入れても大丈夫です。
水切りしたら茶こし部分を取り出して、プレーンヨーグルトはクリームチーズ代わりにしたり、ドレッシングにしたり、そのまま食べたりしてください。そしてこのホエーが入ったカップに乾燥ナツメを入れて蓋をして冷蔵庫へ。2日くらいでプリプリのナツメになります。
この方法で干しブドウも切り干しダイコンもおいしく戻せます。切り干しダイコンは戻したら「老干媽」で和えるだけで本場っぽい一品になりますよ。干しブドウも新疆ウイグルの名産品です。
この方法で一番よかったのはドライマンゴーです。残ったホエーはヨーグルト以上にたんぱく質が豊富な飲料なので、捨てずに飲んでください。
もし、陶器の茶こし付きマグがなければ、コーヒードリッパーでも水切りできますよ。
店舗情報
興栄中華物産
板橋区大山町 6-5 鈴木ビル1F
03-6909-3128
東武東上線大山駅南口から徒歩約2分