日本に来てあっという間に25年が経った。冬はおでん、夏は冷やし素麺、休日となればクッキーを焼いたりステーキを焼いたりという普段の食生活は、むしろ日本人独身女性によくあるパターンだと思う。
しかしやはり、ふとした時に、故郷の味が恋しくなる。
12歳の夏まで過ごした故郷――中国東北地方の料理は、点心に代表されるような繊細でお上品な南の料理と違い、しょっぱくて豪快で、「田舎料理」と皮肉る食通の日本人ライターさんもいるぐらい。
確かに、故郷で祖母がよく作るような肉まんは、ひとつで小籠包六、七個分の大きさはある。
ニラとたまごを詰めて、油をたっぷり敷いた中華鍋で焼く「韭菜盒子」なんて、焼き餃子のバケモノと表現した方がぴったり。とうもろこしは穀物、つまりご飯の一種という分類になり、甘くなくて硬くて、要は炭水化物のかたまり。
日本にこれだけ長く住むと、さすがに甘いとうもろこしにも、日本人向けにアレンジした「町中華」も、「そういうもの」として楽しめるようになった。しかし、砂町銀座商店街の片隅で、東北の香りがぷんぷんする「味好美」というお店を見つけた時は、やはり狂喜した。
愛らしいふっくら肉まんに、くたっとした形のもち米しゅうまい、手作りチマキ、味つけ一切なくふわふわ感勝負の「大馒头」……それに、この信じられないような安さ! 自家製のエビチリや肉料理の入ったお弁当がひとつ350円、肉まん、野菜まんはひとつ100円!
普段シャイで、同じマンションの住人に挨拶するのも苦手な私であるが、嬉しすぎて、勇気を出して中国語でお店の人に声をかけてみた。案の定、おじちゃんもおばちゃんも大連出身。大連に母の家があると言うと、親しみを込めて馒头を一個おまけ💖
そう言えば学生の頃、電気店で2日間だけのアルバイトをしていたら、懐かしいアクセントの観光客の若夫婦が来たっけ。同じ東北出身でアルバイト中の留学生と知ると、ほとんど見もしないで、合計15、6万の加湿器、ドライヤーなどを買ってくれた。あまりに真っ直ぐな愛情表現に、私は自分が時給制のアルバイトで、歩合などはもらえないとも言えなくて……。
そんなことをふと思い出しながら、引き続き商店街を見て歩いた。一見どの商店街にも一軒や二軒はあるような、激安八百屋さんに入ってみると、なんと奥には懐かしい中国のお菓子や調味料、そして塩漬けたまごなどがある。「中国」と「江東区の商店街にある八百屋さん」が、当たり前のように溶け合っているのだ。
そんなお店で嬉しいことに、私は好物の「甘くないもち米とうもろこし」を発見。真空パックで、さすがに香りは記憶の中の新鮮なものよりは落ちるだろうが、その弾力性ある粒たちを思い切りかじるのは、やはり至上の喜びに違いない💖
こうして自転車の籠に、溢れんばかりの食糧を積んで帰宅。今夜のサラダは、ごま油と具沢山ラー油を入れて、中華風にしよっと。
店舗情報
味好美
江東区北砂4-24-8