武蔵関の知られざる名店「翔ちゃん」では壁のメニューを注文すべし

西武新宿線の武蔵関駅北口すぐそばに「翔ちゃん」という名の、知られざる「ガチ中華」の名店があります。

一般に都内の「ガチ中華」の店は、池袋や上野のようなターミナル駅周辺や、学生街の高田馬場、埼京線沿線、錦糸町や小岩など東部地区に集中していますが、都心から郊外に延びるJRや私鉄の沿線駅前にも、数軒あることが多いです。

当研究会では、これらの店を「私鉄沿線系ガチ中華」と呼んでいます。

ただし、私鉄沿線系に来店する客は、ターミナル駅周辺とは違い、地元住民がほとんどなので、実をいえば、日本人の口に合わせた和風中華を定食スタイルなどで提供している店がほとんどです。つまり、昨今減少の一途をたどっている町中華の代替を果たしている町の中華屋さんでもあります。

でも、なかにはそういう表向きの姿とはまったく違う、実力を備えた調理人がいる店もあります。大半の客はよくある青椒肉絲や和風麻婆豆腐などの和風中華定食などを選んでしまいがちですが、それは実に惜しい話といえます。

「翔ちゃん」とは、まさにそういう店です。もともと家主の元とんかつ屋さんの4人掛けのテーブルふたつに座敷のテーブルひとつという小さな店舗を居抜きでそのまま使っているのみならず、店名さえそのまま踏襲という、度を超えた無頓着ぶりにも驚かされるのですが、実は調理人の桐さんが四川出身なので、頼むと、本格的な四川家庭料理が体験できるのです。

そういうガチな料理は、テーブルの上に置かれた一般のメニューには載っていません。ではどうやって注文するのか。店の壁に貼られたたくさんの料理写真から選べばいいのです。

ではこれから翔ちゃんの知られざる本格四川料理を紹介します。

まずこれ。いきなり渋い冷菜メニューですが、コリコリ食感の麻辣モミジ「泡椒鳳爪(パオジャオフォンジュア)」です。

鶏の足をショウガや花椒と一緒に茹でた後、水でしめ、若干の砂糖や発酵トウガラシ、白酒などに一晩漬けたもので、口に入れるとピリリきます。

これは白身魚の花椒衣揚げ「椒塩魚柳(ジャオイエンユィリウ)」。

ぶつ切りした白身魚に衣をつけて油で揚げて取り出し、花椒や刻みトウガラシ、ニンニクなどと一緒に炒めたもの。サクッとした食感が特徴で、衣の中の魚がとろけるような絶妙な味わいです。ナスを同様に調理した「椒塩茄子(ジャオイエンジチエズ)」もおいしいです。

いま都内でもいちばん人気の四川料理の一品「麻辣燙(マーラータン)」もあります。ただし、この店ではチェーン店のように自分で具材を選ぶのではなく、最初から店で用意した肉や海鮮、野菜などが入っています。

注文のとき、桐さんから「辛い、大丈夫?」と聞かれるので、辛さに自信がある人は「大辣(ダーラー)」とか「中辣(チョンラー)」と答えてみてください。そうでない人は「微辣(ウェイラー)」と頼むのが無難です。

この店の汁なし麻辣燙の「麻辣香鍋(マーラーシャングォ)」もおいしいです。汁がないぶん、麻辣燙より食べやすいかも。

酸味としびれの利いた中華風ところてん入りのスープ「酸辣粉(スァンラーフェン)」も本格的です。

最近の「ガチ中華」ではおなじみのザリガニ料理「麻辣小龍蝦(マーラーシャオロンシア)」も食べられます。

さて、この店では、桐さんにお願いすれば、すでに日本化した四川料理を本場風に、すなわち麻辣風味で出してくれます。たとえば、エビチリ。これは元四川料理の「乾焼蝦仁(ガンシャオシアレン)」で、日本で一般化したのはケチャップ風味の甘辛味ですが、桐さんの手によると、口先がしびれる四川風にしてくれます。

酸っぱ辛くて、甘い「魚香肉絲(ユーシャンロースー)」も本格風です。これらの料理を頼むときは「四川風の味にしてください」と伝えてください。

ところで、桐さんの奥さんは中国遼寧省大連の出身なので、この店では「酸菜白肉鍋(スァンツァイバイロウグオ)」のような東北料理も食べられます。

東北料理といえば、煮込みかスープが知られています。たとえば、牛バラ肉入りトマトスープの「西紅柿炖牛鍋(シーホンシィドゥンニウグオ)」は、ほの甘いトマトスープが万人に愛される味わいです。

冬瓜とエビのスープ「冬瓜湯(ドングァタン)」のような癒し系のスープもつくってくれます。

中華風おこげ丼の「鍋巴(グォバー)」もおすすめです。

桐さんと奥さんのツーショットです。おふたりとも日本語はあまり得意ではなく、特に厨房の外で注文を取る奥さんは少しぶっきら棒な印象を与えるかもしれません。それでも、常連になって、毎回壁に貼られた特製メニューをいろいろ頼んでいると、必ずサービスの一品を出してくれます。やはり、中国の調理人たちにとって、日本人に本当に食べてもらいたいのは、和風中華ではなく、「ガチ中華」であり、それを提供するのはとてもうれしいことなのです。

こういう「私鉄沿線系ガチ中華」の店は、おそらく各地にあるはずです。この種の店では、定食ではなく、またメニューの中にはない特製料理、そしてそれらはたいてい壁に貼られている料理写真から選んで注文されることをおすすめします。地元にいながら、新しい食の世界が広がると思います。

(東京ディープチャイナ研究会)

店舗情報

翔ちゃん

練馬区関町北4-3-1
03-5991-8159

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