いま都内で注目の「ガチ中華」エリアが高田馬場です。中国人をはじめアジアの若者が多く住むエリアなので、ここ数年の出店数も著しいものがあります。
今回紹介する西北&羊肉料理の「小満(みちる)」(東京都新宿区)は、高田馬場のいまを象徴する店のひとつといえます。
こういう路面に店名のディスプレイを映し出す店は「ガチ中華」に多いですね。
この店のオーナーは、西安出身の呂瀛正(ロ・エイセイ)さんです。
西安といえば、ここ数年の「ガチ中華」を代表するメニューである羊肉を使った麺やスープ、「西安バーガー」と呼ばれる肉夾饃(ロージャーモー)などが知られています。
当然この店の人気メニューも肉夾饃です。
実はこの店の肉夾饃は、去年の12月3日(金)、日本テレビの朝の情報番組「スッキリ」 の「ガチ中華」特集で紹介され、MCの加藤浩次さんが番組で食べていたのがそうです。
羊肉をクミンで味つけした具材がのった汁なし麺の「孜然羊肉拌麺(ズーランヤンロウバンミェン)」もおいしいです。西安はシルクロードの起点といってもいいエリアなので、新疆中華と共通する汁なし混ぜ麺のメニューが多いです。
また最近の新メニューという「羊蝎子小火锅(ヤンヘイズシャオフオグオ)」も人気とか。これは羊の背骨肉の麻辣鍋で、背骨=中国語「蝎子」の形がサソリに似ているのでこういいいます。ひとり用鍋から食べられます。
単品メニューの羊肉のクミン炒め「孜然羊肉(ズーランヤンロウ)」もあります。
この店のランチメニューも種類が豊富です。基本西北風の各種あんかけ具材の異なる汁なし混ぜ麺(拌麺)から選びます。ビャンビャン麺によくある油かけ麺の「油溌麺」や肉ミソがのった炸醤麺(ジャージャー麵)、西安の冷や冷やツルツル麺の涼皮(リャンピー)、ザリガニがけ麺なんてのもあります。
また具材の異なる各種肉夾饃やチャーハン、ビビンバなどのご飯ものもあります。ランチではスープや小皿がついたセットになり、若者向けにボリュームはたっぷりです。
実は、この店の主な客層は高田馬場周辺に住んでいたり、大学や予備校、日本語学校に通ったりしている中国の若者たちでした。呂さんが高田馬場に(現在の場所とは違いますが)「小満」をオープンさせたのは2015年でした。
当時からこの店は中国の若者のたまり場になり、コロナ前までは年に1回、酒飲みコンテストをやっていたそうです。この壁に貼られた多くの写真は常連の中国の若者たちです。
ではなぜこの店が中国の若者の支持を得たのでしょうか。呂さんによると、日本の居酒屋スタイルを採り入れたからだといいます。
呂さんは2000年代前半に来日して日本の大学を卒業したのち、居酒屋チェーンの「金の蔵」に就職したそうです。そのとき、彼は日本の居酒屋のような小皿料理のつまみをいろいろ選んでお酒を飲むスタイルがこれまで中国にはなく、やってみたいと思ったのです。一般に中国の店では大皿を並べて会食しますが、むしろお酒をメインに小皿をつつくようなスタイルのほうが、いまの中国の若者にも好まれるのではないかと考えたからです。
で、始めて見たところ、都内在住の中国の若い世代の支持を得たのでした。
こぢんまりとした店ですが、1階と2階があり、2階はテーブル席で、1階はカウンター席のつくりになっています。日本人からみるとごく普通の感じがしますが、中国の若者にとってはより気軽に利用できる印象があったようです。
また最近では、少しずつ日本の女性客が現れているそうです。羊料理が気軽に食べられるから、と答えた女性もいたとか。やはり男性より女性のほうが食に対する好奇心が強いといえるのかもしれません。
呂さんと話をしていて、なるほどと思ったことがあります。ここ数年、都内の「ガチ中華」で中国西北地方の羊料理やご当地麺が食べられるようになっていますが、その背景には21世紀に入って始まった中国政府の西部大開発プロジェクトがあったというのです。
「ぼくが日本に来る前の西安は、上海などの沿海地方に比べとても遅れていました。でも、この20年で大きく発展しました。こうして西安のご当地料理も中国全土に広まるようになりました。経済が発展すると、食文化も豊かになります。多くの観光客が西安を訪ねることで、さらに新しい料理も生まれました」
いま都内の「ガチ中華」の主な担い手である中国人オーナーたちは、どの時期に来日したかによって商売のやり方も少し違います。呂さんのような2000年代前半の来日組は、古い時代の中国も知りつつ、日本のやり方を学び、それをうまくつないでいくような商売を始めています。これは2000年代以前に来日した人たちが、ただがむしゃらに日本人の口に合わせた和風中華を提供していたのとは発想も含め、かなり違います。
また2010年代以降に来日した人たちは、これまで日本になかった中国の外食シーンをそのまま持ち込むという新たなスタイルを見せ始めています。
結果として、さまざまな世代のオーナーたちによる、さまざまな形態の「ガチ中華」が存在するようになったといえます。
中華料理店の変遷、「東京ディープチャイナ」を支えるオーナーたち
Forbes JAPAN
こうして都内には新しいタイプの店がどんどん生まれています。
(東京ディープチャイナ研究会)
店舗情報
小満
新宿区高田馬場4-11-10鈴木ビル1F
03-3363-0605