みなさん、こんにちは。日本人夫「川」と中国人妻「雲」の食いしん坊夫婦です。
5月上旬、横浜中華街の香港路にある「湖南人家」で湖南料理を堪能して来ました。
湖南省北部の岳陽出身の黄孝林さん、鄧娟さん夫妻が2022年10月にオープンした店です。以前中華街に来た際にこの店を見かけ、今回、湖南料理が食べたくて、入ってみました。
湖南料理の特徴は、酸っぱく辛い「酸辣(スアンラー)」や、辛さの中にも風味がある「香辣(シャンラー)」で中国一辛いとも言われています。どんな料理があるかワクワクしながらメニューを見ると、湖南料理と四川料理が並んでいます。
四川料理も魅力的ですが、今回は湖南料理に絞りました。
- 毛氏紅焼肉(毛沢東が好んだ豚バラ肉角煮)
- 双椒蒸魚頭(二種漬け唐辛子と魚の頭蒸し)
- 干鍋腊肉脆笋(竹の子とラーロウ炒め鍋)
- 酸豆角肉沫(酢漬けインゲンと豚肉炒め)
- 卜藕尖炒肉(小蓮根と豚肉辛子炒め)
- 湘西腊肉(湘西ラーロウ)
※カッコ内はメニューに記載の日本語
これらを始めとする湖南料理の写真が並び、どれも美味しそうです。
しかし、川と雲の2人では何皿も食べられないので、迷った末に双椒蒸魚頭、湘西腊肉、卜藕尖炒肉の3皿をオーダーしました。オーダーは、最近多いタブレットやスマホでQRコード読み込みではなく、直接店員と話しながらする形式です。
川は辛いのが大好きなのですが、雲は実は余り辛いのが食べられず、湖南料理の味付けは大好きなのにオリジナルの辛さではノックアウトされてしまうため、辛さ控えめの「微辣(ウェイラー)」にするよう頼みました。
それにしても、湖南料理は、どうして激辛なのでしょうか?
『中国食辣史』(曹雨著、北京聨合出版公司 2019年6月)によれば、唐辛子はスペイン人によって中国に持ち込まれ、最初に記録に現れるのは1591年、浙江省杭州で「番椒」と呼ばれ、観賞植物とされていました。そして観賞植物として徐々に長江を遡り西に伝わり、湖南省北部の交通の要衝、常徳に到達、そこから山地に伝わりました。
食用としての最初の記録は、1721年、貴州省東北部の少数民族の苗族が「辣火」と呼ばれた唐辛子を、貴重な塩の替わりにしたとあります。そして食用となった唐辛子は貴州から湖南に回帰し、また、重慶や四川、雲南にも伝播していったとのことです。
湖南省や中国西南地域の料理が辛いのは、高温多湿な気候と唐辛子の辛味との相性の良さに加え、早くから唐辛子を料理に使い、辛さが増していった歴史があるようです。
さて、オーダーを終えると、すぐに、お通しが来ました。
ピーナッツと湖南特産の干小魚「火焙魚(フオベイユィ)」の剁椒(ドゥオジャオ)和えです。気分は一気に高まり、期待に胸が膨らみます。
カリカリのピリ辛小魚を食べながら待って、暫くすると「湘西腊肉」が来ました。
湘西は湖南省西部を指し、特産の燻製肉「腊肉(ラーロウ)」の肉の旨みが凝縮した何とも言えない深い味わいと、ニンニクの芽の力強い味の絶妙なコンビネーションです。
続けて「卜藕尖炒肉」が来ました。
日本では余り見かけないレンコンの先端「芽バス」の漬け物と豚肉の炒め物で、芽バスのシャキシャキした食感と、湖南料理を体現する程よい酸味で食が進みます。
そして余り時間を置かず、今日の真打、双椒蒸魚頭の登場です。
兜割りの魚の頭が赤と青の2色の唐辛子調味料「剁椒(ドゥオジャオ)」で彩られ、先ず目で楽しませてくれます。柔らかく蒸された鯛を口に運ぶと鯛の上質な脂が醤油ベースのタレと、酸っぱく辛い剁椒と絡んで複雑な旨みを醸し出します。
麺も別皿でついて来ます。魚を蒸す時に出汁が出て汁が美味しくなるで、魚を食べた後、残りの汁を麺に絡めて食べるようになっています。日本では鍋の締めに麺を入れるのと似た発想ですね。
魚に舌鼓を打っていると鄧さんが、麺は早めに入れないと伸びてくっついて固まるので、先に入れたほうがいいと声をかけてくれました。
そこで、麺を全て投入、汁を麺に絡めて食べて、一つの料理で二度美味しくいただきました。
この料理、本場では川魚のコクレンを使いますが、日本では川魚も手に入るものの高いので普段はタイを使っているそうです。リクエストをすれば川魚でも作ってもらえます(その場合、値段は確認して下さい)。
川魚でも海魚でも良い出汁が出て汁の味は大差なく美味しくなるそうです。違いは食感で、川魚のほうがしっとり柔らかくなるとのことです。
麺も本場では「白麺(バイミエン)」を使いますが、日本では手に入れるのが難しいので、味は本場に近い黄色っぽい麺を使っているとの事です。
魚と麺を平らげた頃、鄧さんが、注文した料理は全部来ましたかと確認して、デザートの杏仁豆腐を持ってきてくれました。
濃い料理の後に優しい味で締めくくりました。
お腹いっぱいになり、大満足です。湖南料理等の辛い料理は、辛さの調整を頼むと味のバランスが崩れたり、辛さが一定しなくなったりしてしまうこともありますが、どの料理も程よい辛さで湖南料理を満喫しました。
食べ終わった後、鄧さんと話していたら、厨房から黄さんを呼んで来て話しをしてくれました。
黄さんは10代で料理の道に入り、湖南料理の料理人として湖南、湖北、四川の星付きのホテルを渡り歩き、来日後は一貫して横浜中華街で鍋を振って10数年とのことで、料理が非常に美味しいのも頷けます。
ホールを切り盛りする鄧さんは気配り上手、客の様子を見てタイミング良く声をかけてくれます。日本語もバッチリなので、お勧めの料理を聞いたり、好みの辛さをリクエストしたりしながらオーダーできます。
調味料など日本で手に入らない食材は湖南から取り寄せているそうで、異国の地の食材と、取り寄せた食材を上手く組み合わせて作る料理が美味しいだけでなく、黄さん、鄧さんとの話しも弾み、是非また来たいと思う店でした。
最後に、香港路にはもう一軒、湖南人家より一足先にオープンした湖南料理店「湘厨」があり、オーナーは黄さん、鄧さんの同郷で友達だそうです。機会があればこちらもレポートしたいと思います。
(川雲)
店舗情報
湖南人家
神奈川県横浜市中区山下町147番地 香港路
045-681-1888
11:00~23:00 不定休
1階8卓x4人, 2階4卓x4人