私の知る限り、大阪には「麻辣江湖」という店が3軒あります。
全てミナミと言われるエリアの中にある四川料理店ですが、店の名前は同じでも雰囲気は三者三様まるで違うのです。
島之内はちょっと高級寄りの本格中国料理店、東心斎橋はバリバリの町中華、なんばの方はビジネスホテルの1階にあるカジュアルダイニングといった感じで共通点は皆無。この3軒にどういう関係があるのか、もしくは無いのか、が少々気になっていました。
調べてみると「江湖」というのは「世界」というような意味のようですから、たまたま同じ名前が付いたという事も十分考えられますが、2軒ならともかく偶然3軒も重なるということがあるでしょうか? それとも日本でいう「藪そば」「来々軒」レベルのよくある店名ということなのでしょうか?
そうこうしているうちに、最近島之内の麻辣江湖の向かいに新しくビルが建ちました。その名も「中華飲食楼」。その2階には「麻辣世家」、3階には「火鍋江湖」という店が入っています。
ん? 麻辣江湖、麻辣世家、火鍋江湖? これ、どう見ても関係あるでしょ。麻辣江湖グループのさらなる拡大展開か? その辺の事を確かめるべく島之内へ行ってみました。
目指す中華飲食楼は島之内のガチ勢ではもはや老舗とも言える「故郷羊肉串店」と「鑫福火鍋城」に挟まれたところにあり、1階には東京から進出してきた「羊貴妃羊湯館」が入るという、まさにガチ中華エリアの心臓部に位置します。
ランチメニューがあるのは「麻辣世家」ですが、隣に置いてある「羊貴妃羊湯館」の日本人を意識したPOPな看板と比較すると、素人衆を拒むがごときガチガチの硬派です。
それにひるまずエレベーターで2階へ上がり、扉が開けばすぐ店内、すぐ向かいの島之内「麻辣江湖」にも通じるちょっと高級感ある内装です。
店に入ったのは11時25分でしたが、こちらが日本人とわかっているはずなのに「シーイーディエンバン・カイシー」(11時半開店、私もこのくらいなら何とかわかりますw)というところを見ても日本人的にはかなりのアウェイ感。こちらも「ハオ、ハオ」と言って席に着きます。
注文は最近やたらと見かけるQRコードから注文するfunfoというシステム。これなら言葉が通じなくても問題はありませんが、メニュー全体をざっと眺められないのがちょっと残念。
11:30ジャストにスマホからランチメニューを見てみると、外の看板に書いてあったものの他にもいくつかあります。
しかし回鍋肉はあっても麻婆豆腐はなく、一般的な日本人には馴染みのないメニューが並んでいます。
なかでも目を引かれたのが「虎皮肘子(フーピーヂォウヅ)」。
まさかこんなところで皮付きの虎の脚が出てくるはずもなく(ワシントン条約!)、おそらく豚足でしょう。それにしても「虎皮ヒジ子」なんてなかなかキャッチーな名前です。アニメのキャラ名にでも使えそうと思うのは、ラムちゃんを知る世代だからでしょうか。ともかく名前のインパクトには抗えずついついポチっとしてしまいました。
待つことしばし、到着したトレーには木製のおひつに金属の器が納まっているような初めて見る食器。白飯の上に豚足とブロッコリーと何やら茶色と緑色の野菜のようなものが載っています。
小皿には鶏の足、そしてスープ。虎皮というから豚足にも毛が残っているような、もっとワイルドなものをイメージしていたのですが、豚足はつやつやで彩りも良く見るからに美味そう~。
豚足は骨も抜かれて小さく切られていて、これならおちょぼ口でも手を汚さず食べられます。
どうやら他の具材と一緒にご飯と混ぜていただくようで、メニューの脇に書いてあった「剁椒拌飯」の「拌飯」とは混ぜご飯みたいな意味ですね。
豚足はちょっと八角が利いていますがトロトロに柔らかく、茶色いものは大根? みたいな漬物、緑の方はこれが「剁椒」なのでしょうか?(後で調べると剁椒とは発酵唐辛子ペーストらしいです)。
これら全部をご飯とまぜこぜにしていただくと、ルーローハンにもちょっと通じる、あまり食べたことないのに懐かしいような何か不思議な美味しさ。豚足のタレしみしみのご飯は最高に美味く、他の具材も良いアクセント。一見場違いな気もするブロッコリーも、彩りだけでなくちゃんとメンバーとして機能してます。
おそらく八角さえ苦手でなかったらたいていの人が好きな味じゃないでしょうか。「麻辣世家」のはずなのに麻も辣もそれほど感じられませんが、この味は辛くしない方がいいんでしょうね。
ネットで調べてみると、虎皮肘子という料理は山西省と天津にあってそれぞれ微妙に違うようですが、いずれも豚足を火で焼いて削って煮込んで蒸してと、かなり複雑な工程で調理され、表面に金色の斑点が出てシワシワになり虎の皮の様になるのが由来とのこと。そんな手間のかかる料理、そりゃなかなか見かけないわけです。
なかなか気に入ったので後日、もうひとつ気になった「焼白定食」を食べに再訪しました。
虎皮を調べたついでに焼白も予習したところ、これは四川の名物料理で咸焼白(シィェンシャオパイ)と甜焼白(ティェンシャオパイ)とがあり、どちらも豚バラの蒸し料理ですが「咸」の方は芽菜という漬物が入ったしょっぱい料理、「甜」の方は何と餅米とアンコ!? の甘い料理ということ。
激辛で有名な四川料理にそんな甘い豚肉料理があるとは全く知りませんでした。さすがにこの店の定食で出てくるのは「咸」の方のようですが「甜」の方も食べてみたいですな、一口で良いかもしれないけどw
さて、出てきた焼白は角煮のような豚バラのスライスの下に芽菜、その下にキャベツ。芽菜には花椒の粒がたくさん入っていて、これを豚バラと合わせ、キャベツと合わせながら食べます。
メニューに(辣度:0)と書いてあった通り辛くはないけど、口の中で粒々の花椒が弾けてなかなかのシビレ系。何となくちりめん山椒にも通じるようなこの味は白ご飯と合わないわけはなく、豚バラの甘味、キャベツの甘味ともあいまって絶妙のハーモニーです。
サイドの小皿は虎皮肘子と同じく鶏の足、そして肘子にものっていた大根の漬物、そして皮蛋。この皮蛋には肘子と同じ緑のタレがのっていて、ねっとりとした皮蛋と合わせるとこれがまた最強コンビ。これだけ何個でも食べたいくらい。最後は残った芽菜とご飯を混ぜて残さず完食、いや~これは美味いですね。
まだまだ他のランチメニューも気になりますが、次は活水豆花か泡椒腰花か?
この店、日本人には見当がつかないメニューがいろいろあるし、鶏の足が小皿で普通に出てくるし、全く日本向けのアレンジはされて無さそうですが、特に激辛でもなく誰にも受けそうな味とボリュームで、そっくりそのまま淀屋橋のオフィス街辺りに持っていったとしても、ガッツリ系のサラリーマンとエスニック好きの女子で大繁盛しそうな気がします。
ガチ中華入門篇にはピッタリかも。その時はぜひ虎皮ヒジ子のキャラクターを作っていただきたい。
最後にレジでショップカードをもらうと、同じ1枚のカードに島之内の「麻辣江湖」、「麻辣世家」、「火鍋江湖」が並列に書いてあります。レジの女性は日本語が話せたので確認すると、やはりこのビルの2軒は向かいの「麻辣江湖」の2号店3号店といった位置付けのよう。
ついでに、東心斎橋と難波の「麻辣江湖」の写真を見せて尋ねてみると、その2軒は全く知らないとのことでした。
そこで改めてこの東心斎橋と難波の2軒の写真を良く見ると新たな発見が。
両者の看板には、皿の上に唐辛子と花椒が乗った同じ図柄が入っていたのです。ということはこっちの2軒は同系列なのか?
気になったので、東心斎橋の麻辣江湖にも行ってみることにしました。
一番人気のランチメニュー、豆鼓のしっかり効いた本格麻婆豆腐を食べながらお店の人に聞いてみます。
まずは島之内のショップカードを見せて関係をたずねると、やはり「うちとは関係ないよ」との答え。それではと難波の写真を見せてたずねると「これも関係ない。名前同じだけ。」
でもこの看板の図柄が一緒じゃないかとさらに食い下がったところ、苦笑しながら「うちの看板、友達の看板屋が作った。その看板も同じ人が作った」。
アイヤー! なんと看板屋が黒幕だったのか! 「麻辣江湖」の謎はひとまずここに解明されたのでした。
さすがガチ中華ワールドは、看板一つとっても、なかなか一筋縄では行きませんね。
(安藤 博康)
店舗情報
麻辣江湖 島之内
大阪府大阪市中央区島之内2-9-20 B1F
麻辣江湖 東心斎橋
大阪府大阪市中央区東心斎橋1-6-31
麻辣江湖 難波
大阪府大阪市浪速区元町2-5-6
麻辣世家
大阪府大阪市中央区島之内2-17-19