台湾の屋台料理としてもおなじみの胡椒餅。日本人にもファンが多いですよね。小麦粉の生地に包まれた八角の香りが広がる肉餡入りの胡椒餅は、寸胴のような大きな窯で焼くのが特徴です。
そんな焼き窯を東京・吉祥寺の胡椒餅専門店「台湾老劉胡椒餅」で発見!
「住みたい街ランキング」で常に上位に位置する吉祥寺。駅から徒歩3分のところにある同店は、開店前から胡椒餅を買い求める客の列ができる人気店です。2022年9月に1号店を町田に。同年11月には吉祥寺店がオープンしました。
「えっ? うまっ! 胡椒の香り抜群! 肉肉しい!」
私が最後に台湾で胡椒餅を食べたのはもう6年も前のことですが、今まで食べた中でもダントツのおいしさにびっくりです。
これは胡椒餅のことをお聞きしなければと、改めて取材に伺いました。
コロナ禍での台湾修行からオープンへ
同店は、台湾で2005年に創業し、現在は4店舗を展開する「老劉胡椒餅」の胡椒餅が味のベースとなっています。香港にも冷凍食品として卸販売をしている人気店です。
今回、お話を聞いたのは、同店責任者の永野加奈さんです。
胡椒餅修行を目的に、台湾で様々な胡椒餅を食べ歩き、「これだ!」と運命の胡椒餅に辿り着き修行。コロナ禍の閉塞された中で奮闘する様子をインスタグラム「台湾老劉胡椒餅自称胡椒餅アンバサダー」で、投稿されていました。
「台湾修行から丸1年でオープンまで漕ぎつけました。日本のお客様に胡椒餅がどのように受け入れられるのか、台湾の味を知ってもらうことで、日本と台湾をつなぐ架け橋のような存在になれたらいいね」と、期待を胸にお仲間と話していたそうです。
週末の1日で1100個を焼き上げる行列店に!
取材に訪れた吉祥寺店は、街を歩く人たちの年齢層が幅広く、少し郊外で人が集まる場所として、出店計画当初から狙っていたエリアだったそうです。
取材時も、購入のために並んでいる人たちの年齢層はバラバラで、食べ歩き用に購入する若者も多くいました。
平日は1日12回、土日だと15回も焼き上がり時間を設定しないと間に合わない忙しさ。その数なんと800個~1100個になるというのですから驚きです。
食感のよく仕上げるために、小麦粉をブレンドしたオリジナルの生地と、ラードや大豆油を加えた油脂分入りの生地、2つの異なる生地を混ぜて作ります。
胡椒餅の味のキメ手である肉餡には、大きめにカットした豚肩ロースとスパイスをマリネして使用。八角やシナモンなどをミックスした五香粉や胡椒を調合したスパイスが台湾から毎月送られてくるので、まさに台湾と同じ味が楽しめるのです。
とはいえこのスパイス、門外不出の味のため配合を知るのは台湾でも店主の劉さんのみ。日本店スタッフにも秘密というからまた驚きです。
1000個もの胡椒餅を作るために、スタッフのみなさんは開店前からずっと生地を包み続けています。機械に頼ることなく、手作業で胡椒餅作りをするのは台湾と同じ。スタッフみなさん手際よく生地を包んでいきます。
胡椒餅には肉と一緒に長ネギが入っていて、食感をいかすために肉餡とは混ぜずにのせて包みます。台湾では3つ星級の品質のよい長ネギを使っていて、日本でも同等のものを探して使用しているとか。
生地の表面にゴマをまぶしたら、さぁ焼いていきましょう!
夏場の今は、280℃で12分ほど焼いていきます。生地を窯の内側に張り付けていくのですが、これがまた大変な作業。生地の出来具合、温度調整など、うまくいかないと張り付けた生地が落ちたり、中身が出てしまったりします。
窯から出てくる胡椒餅によっては、少し偏った丸みになっているものあり、これは具の重みで生地が少し下がるから。オーブンで焼けば均等に焼き上がりますが、この微妙な形の違いが窯焼きならではの良さではないでしょうか。
一つひとつが個性的な表情に。思わず、「かわいらしいですね」と、永野さんに声をかけたところ皆さんも同じ思いだそうで、本当愛おしさが伝わってきます。
かわいいイラストの販売用の袋。デザイン候補がたくさんあり、ひとつに選びきれず複数柄を用意。この袋を目当てにたくさん買ってしまいそう。
ゴロゴロ大ぶりな豚肉のうま味とスパイスの香りが口の中に広がっていきます。すっきりとした刺激ある胡椒の存在感も心地よく感じるのは、全体的に味のバランスが良いからではないでしょうか。高温で焼いた生地のサクサクとカリカリの絶妙な食感です。
おやつにはもちろん、食事としてもしっかりお腹を満たしてくれそうです!
胡椒餅と一緒にいただきたい台湾茶は、台湾「大東茶業」の国産認定資格である茶葉品評員が選んだ 茶葉を丁寧に淹れたものです。
「四季春茶」はクチナシ、蘭、桂花植物のすっきりとした味わい。仙草ゼリー入りの「餅玉ミルクティー」は、鉄観音茶を使用した期間限定メニューです。他にも、白桃烏龍茶や蜜香紅茶など嬉しいラインナップが揃っているので、胡椒餅と一緒に楽しみたいですね。
台湾から創業者が初来日
コロナ禍の不自由な状況が続くなか、2店舗をオープンさせ、作業で困ったことやアドバイスが欲しい時はすぐに台湾の劉さんに相談をしていた永野さん。台湾へも行ってはいたのですが、劉さんは開業時にも日本には来られず、店舗をみることができませんでした。
しかし、先日ついに劉さんが来日。そのタイミングでまたお店に伺いました。
この日は、町田店と吉祥寺店を訪れた劉さん。「とてもおしゃれな店舗ですね。このまま台湾でオープンしたら、きっと若者たちに流行りますよ」と良い印象を受けた様子。
さらに、胡椒餅修行を申し込まれた当時のことをお聞きしたところ、「不安はなく、正直嬉しかったです。世の中の人にもっと胡椒餅を知ってもらえるのですから。台湾以外の出店も考えていたので、タイミングが良かったです」と劉さん。
日本で実際に店舗を見て、胡椒餅の味を確認して、劉さんもホッと安心したのではないでしょうか。
胡椒餅にとって、窯はとても重要な存在です。
同店のインスタの文中に「お窯様」として登場する大切な窯。「人間と同じで、一日中稼働し続けるので、窯は機嫌が悪くなることもあるんですよ。様子を見てちゃんと機嫌をとらないとダメなんです」と、話す永野さん。
温度設定や生地の状態、お店の様子を共有し合うスタッフの皆さんとの様子をみていても、切磋琢磨しながらも楽しみながらお仕事をされていて、その楽しさが胡椒餅のおいしさ、行列にもつながっているのだなと感じました。
(伊能すみ子)
※金額表記は税込。