しばらく前のことですが、9月29日(金)19時から秋葉原の香福味坊で四川料理の食事会がありました。
味坊オーナーの梁さんの片腕である林強さんが重慶出身であることは知られていますが、この秋から中華シェフ協会会長の明信江さんもついに味坊グループに入りました。つまり、同集団には、四川料理の強力なシェフたちが味坊に集結しつつあるのです。
【一般参加OK】料理長が四川人に!?香福味坊で秋の四川料理宴会します!
https://meiweisichuan.jp/event/2023/09/10971.html
この食事会に参加した松永悠さんがその日供された極上四川料理を中心に紹介してくれました。
ここ数年、ガチ中華ブームを牽引する店と言えば、多くの方が味坊集団の名前を挙げるのではないでしょうか。そして、味坊と言えば羊料理という印象を持つ方も多いかと思います。しかし最近の味坊は更に進化しています。四川出身の明シェフを料理長に迎えたこともあり、今では名物羊料理だけでなく、きちんと正統派四川料理もここで堪能できます。
実は残暑の厳しい時期に、味坊で本格四川という素敵なイベントが行われました。一体どんな料理と出会えるか、行く前からワクワクが止まりませんでした。筆者は北京で生まれ育っていますが、実は「川妹子」に負けないくらい激辛党です。このイベントがどこまで本格か、しっかり判定させていただきました!
事前に入手したメニューはこんな感じです。「おおおおおお〜〜いいぞいいぞっ」と思わずニッコリ。
今回は、16品もの料理を全部紹介するより、いくつかの料理に焦点を当ててしっかり解説と感想などを述べたいと思います。
隠れ名物は前菜にあり!
小さい時から四川料理を良く食べた筆者は、良い店かどうか判断するため、決まって頼むものがいくつかあります。夫妻肺片やよだれ鶏といった肉系前菜も良いチョイスですが、実は四川泡菜と涼粉も判定の鍵です。
糠漬けは日本を代表する漬物だとしたら、泡菜は間違いなく四川を代表する家庭の漬物になります。3~7%くらいの塩水に野菜を漬けて、乳酸発酵させたごくシンプルな泡菜ですが、家庭によってレシピが違います。
また、季節に合わせて旬の野菜を漬けるのが一般的で、大根、きゅうり、いんげん、ささげ、人参、新生姜、キャベツなどが定番と言ったところでしょう。
シンプルなのに、実は奥が深いのも泡菜です。いい塩水を育てるためには、花椒、唐辛子、塩、湯冷まし、野菜くずをうまい塩梅で組み合わせることが大切です。バランスの取れた塩水で漬けると、必然的に泡菜も酸・塩辛・辛・甘のバランスがよく、最高の一品になります。生でそのままでもよし、刻んで味を決める調味料としても重宝されます。
味坊の自家製泡菜を一口試食すると、キャベツがシャキッ!食感よし!そしてお味の方もしょっぱ過ぎず、辛過ぎず、箸休めにピッタリ。辛い料理を食べた後に、口の中を鎮火するためにも良さそうな感じでした。
涼粉の見た目はところてんに似ていますが、えんどう豆で作られていて、質感としてところてんより少し重みがあってしっかりしています。暑いことが有名な四川では、ツルッといける涼粉なら軽食としても、前菜としても人気があります。
涼粉にかかっているタレも、いかにも四川らしく、酸・辣・鹹・香を極め、元々無味の涼粉に魂を注入して一気に食欲が湧いてきます。
通を唸らせる逸品たち
重慶発祥で、センマイやモツなどの臓物、鴨血、野菜を自由に組み合わせて作る煮込み料理ですが、ディープ四川を代表する一品と言っても過言ではありません。
食材はみんな赤いスープに入っていて、もちろん唐辛子と花椒もどっさり入っていますから、いかにも辛そうに見えるかもしれません。しかし、バラエティ富んだ食材によって、決して「辛いだけ、痺れるだけ」と言った単調なものではないのが、毛血旺の良いところです。
臓物系は味がしっかり濃いめで、お酒の肴にピッタリですし、スープの中に隠れていた豆もやしを一口食べれば、爽やかな花椒の香りに陶酔します。また、センマイ、モツ、鴨血、野菜、それぞれ食感も違いますので、この一皿でたくさん楽しめられます。
今ディープチャイナファンの中でも、かなり定番の一つになりつつあるのは、こちらの水煮魚ではないでしょうか。昔から筆者の大好物でもあり、定期的に食べたくなります。
少し余談になりますが、水煮魚の印象と聞かれたら、まず「巨大」というキーワードが出る人も少なくないはずです。四川料理店で水煮魚を注文すると、洗面器サイズの巨大器に入れられて運ばれることも結構多く、初めて見る人は例外なく仰天するというイメージが強く残っています。
「水煮」の通り、確かに煮るという調理法になります。淡白な白身魚に卵白を絡ませて、プルプル食感を強化する一方、スープの中に魚の頭や骨を入れてしっかり出汁を取って、合わせ調味料も入れて味を整えたら、白身魚をさっと煮て器に入れて、仕上げに熱した油を上からじゃーーーっとかけて完成。
久しぶりに食べたこの水煮魚、文句なしの美味さに感動!いくらでも食べられると感じてしまうくらい、淡水魚の臭みは全くなく、色、香、味、三拍子揃って完成度が高い一品でした。
粗びき米粉を衣にして、しっかり蒸し上げたのはこちらの粉蒸スペアリブ。しっかりと醤油、スパイスの香りを引き出しながら、スペアリブ本来の旨み、弾力も十分楽しめる感じがたまりません。
「粉蒸○○」という技法はもともと中国全土に見られるものです。通常、長時間食材を蒸す際、どうしても蒸し汁が増えてしまい、旨みが薄まってしまいます。しかし、米粉をまぶすことで米粉が食材と調味料の旨みをたっぷり含んだ蒸し汁を吸ってくれるため、むしろ濃厚な味わいを材料に絡ませることができるので、非常に理にかなった調理法と言えます。
豚バラ肉が定番のほか、四川の粉蒸と言えば、スペアリブになります。子供ならご飯が進み、大人ならお酒のお供としても最高ですね。骨を持って豪快にかぶり付く時は、肉食獣にとって至福の稲妻が貫通する瞬間でもあります。
このイベントのコースに16品もあります。少食の人なら全部制覇も難しいところでしょう。そしてこれだけ食べてなお印象に残るとなると、やはりかなり難易度があると思います。尖椒辣子鸡というと、一見地味な鶏肉炒めですが、こういう家庭料理に近いものは実はシェフの腕の見せ所と言われています。
味坊農園卒業の長唐辛子をぷりぷり鶏肉と一緒にいただくと、棘のある辛みが鶏の脂の甘味と融合して、更に豆板醤や豆豉醬も参入して、ゆっくり味わっていくと口の中から美味しいハーモニーが聞こえてきそうです。
間違いなく今宵の一番です!干豌豆とは、乾燥えんどう豆のことで、このえんどう豆がスープの中でうまい具合に崩れて、スープにとろみと旨みをプラスしてくれます。鶏肉も長時間煮込んであって、味が非常に濃厚で、肉もホロホロで抜群の美味しさでした。
筆者のように食べ歩いていると、正直だんだん舌が肥えてきて厳しくなるところがあります。しかし、この一品には素直に感動しました。一品料理としても、スープとしても優秀で、締めに素麺なんかを入れてもいいなぁと思いながらおかわりまでしてしまいました。
いつも以上に楽しくて、美味しいイベントでした。味坊集団の勢いが止まりませんね。もちろん梁社長ご自身の熱意や努力は大変素晴らしいものです。そんな梁さんのまわりに、また優秀な中国人シェフが集まってきて、味坊で楽しめる料理のジャンルもどんどん広がると確信する夜でした。
(松永悠)
店舗情報
香福味坊
千代田区神田佐久間町1-21
Chiyoda Terrace(千代田テラスビル)B1F
03-3527-1658
https://www.ajibo.jp/shopinfo.html