煎饼果子(ジェンビングォズ)とは、中国では主食や軽食に分類される、クレープのように焼いた薄い生地の上に、甘辛のソースを塗り、葱、レタスやソーセージ、せんべい等を載せて巻いたボリューミーな食べ物です。

私が初めて煎饼果子を食べたのは、2019年、新大久保にできたばかりの「南南鸡蛋肉汉堡(ナンナン ジーダンロウハンバオ)という店でした。初めて見た私にはとても斬新なものでした。焼きたてをがぶりとほおばると、せんべいがサクッとして、レタスやソーセージと一緒に色々な食感を楽しめます。日本語では「中華風クレープ」とよく訳されています。
あれからまた食べたいとずっと思っていたところ、東京大学の最寄り駅である、本郷三丁目にも店があると知り、食べに行きました。新大久保の店とは具の入れ方が全然違うので驚いて、今回食べ比べて記事化することにしました。
そもそも「煎饼果子」の「煎饼」は、日本のようなせんべいの意味ではなく「小麦粉等で作られた薄い生地を焼いたもの」で、「果子」がその中に挟む、小麦粉でできた薄いパリパリのせんべいのことを指します。(この記事内では「果子」に当てはまるものをひらがなで「せんべい」と表記することにします)。
発祥は中国の山東省と言われ、後に中国の東北地方や天津、北京等で食べられるようになったそうです。今でこそソーセージを入れるのが主流ですが、昔は肉無しでせんべいや油条(揚げパン)がメインの食べ物だったといいます。
後に紹介する「コリンスアンド」の店主、森迫さんが伝統的な製法の動画を見せてくださいました。昔は、かまどのある鉄板が多く使われていたとのことです。生地も水で溶いたものではなく、こねたものを伸ばしているようでした。
現在では中国東北地方(天津・北京等)を中心に屋台やレストランでよく食べられており、チェーン店もあるので、東北地方以外の地域でも食べられるそうです。中国のSNS小红书で調べると、中国では地域や具の内容によって200~300円で売られているようです。

では、日本ではどんな煎饼果子が食べられるのか紹介したいと思います!
1. 南南鸡蛋肉汉堡(ナンナン ジーダンロウハンバオ 意味:南のエッグバーガー※)

冒頭で触れた2019年に行ったお店です。近年、新大久保駅前に移転し、立地柄いつでもお客さんがいます。ここでは主力商品に「エッグバーガー」というメニューもがあり、その中国語名を店名にしています。ここでは割愛しますが、屋台料理として、ぜひそちらも体験してほしいと思います。
こちらの煎饼果子は少しお高めの900円。追加でトッピングもできます。

移転前よりも大幅値上げしていましたが、ボリュームが多いのと、生地も選べるようになり、パワーアップしていました。生地は通常の小麦粉中心のもの、ほうれん草入り、黒ゴマ入りの3種類で、ほうれん草を練りこんだ食べ物が好きな私は、ほうれん草生地をチョイス。煎饼果子は基本的に注文してから作るものです。
このお店はとても見やすい位置で店員さんが作っているところを見ることができます。この動画見るだけで楽しいですね。
トッピング無しの私の具材は、卵、レタス、葱、せんべい、ソーセージ、ザーサイ、パクチー、ラー油、オリジナルソース、腐乳ソースです。腐乳とは、豆腐を麹につけて、塩水の中で発酵させたものです。酸味と塩味、ちょっとチーズのようなまったりとした味があります。辛さを聞かれますが、辛さはどのお店でも調節可能です。


ちなみに黒ゴマ生地は薄い紫色で、生地が玉子と混ざると食べ物にはなかなか珍しい組み合わせの色合いになっていました。

ここの煎饼果子はレタスがいっぱい入っていて厚みがあり、ほおばりがいがあります。
レタスもシャキシャキ、せんべいはサクサク、これを同時に食べるのがいいのです。

生地は少しぷるぷるしていて少し弾力もあり、でん粉を使用しているのかなと思いました。
店員さんに聞いてみましたが、全員日本語が話せず断られてしまいました。現物を見せて質問をしたかったのですが、食べ終わってしまったので、メール作成の画面に写真と文章(中国語)を載せて聞きました。文章読む前から「わからない」と中国語で言われましたが、中国語を見せると「yes!」と答えてくれました。小麦粉の他にでん粉も使っているようです。
味はしっかりピリ辛なのですが、ソースは日本のソースのような味も感じられました。多分腐乳がそうさせていると思います。
これ1個でお腹いっぱいになれます。2つに切って出してくれるので、2人で半分ずつ食べてもいいですね。
2. 東京煎饼果子専門店

江東区亀戸にあります。昼は煎饼果子を店内でも、夜は持ち帰りやデリバリーが中心で、居酒屋にもなっています。
店主で北京出身の関口さんは留学のため日本に来て、そのまま商社に就職。日本に帰化し、退職して1年と少し前に初めての飲食店を開業しました。
「煎饼果子」だと日本人はどうしても「煎餅」を思い浮かべてしまうので、「ヘルシーサクサククレープ」と名付けたそうです。ヘルシーの理由は生地の材料から。お店の看板には「雑穀」とありますが、米粉、とうもろこし粉、きな粉、小麦粉、粟と、5種類を混ぜているそう。確かに身体にいい素材がいくつも入っています。
よく考えたらこれ1つでタンパク質も野菜も一度に取ることができますよね。中国のSNS「小红书」で煎饼果子の動画を見ると、「杂粮(雑穀)煎饼」と書かれた屋台動画がたくさんでてきます。それぞれのお店できっと色々な穀物を混ぜて生地にしているんですね。
関口さんと話している間に、煎饼果子ができました。
生地の巻き方も色々あるようで、こちらでは2つに割らず1つで、最初から中身が見えるようになっています。紙に巻いてありますが、お皿があるとなんだか落ち着いて食べられる安心感があります。
価格は600円です。都内だと煎饼果子の平均価格はこれくらいです。
具材は、自家製ソース、卵、ソーセージ、揚げワンタンの皮、万能ネギ、パクチー、レタスです。ワンタンの皮を揚げてせんべいにするのはとても手軽ですね。また、この店の周辺は量の多い野菜が買える店もありますが、新鮮なものを提供したいという思いから、適切な量の材料をこまめに買いに行くようにしているそうです。
煎饼果子は日本で食べる「クレープ」よりは生地にのる油の量が少し多いですが、やはりできたて煎饼果子ならではの焼いた生地のジューシーさもおいしい理由の1つです。選んだピリ辛の辛さは、自家製ソースとのバランスがちょうどよかったです。
中国でも学校の校門前で煎饼果子が売っているように、関口さんもいつかキッチンカーで販売してみたいそうです。これがあったら放課後や遅くなった部活帰りに買ってしまいますね(笑)
このお店で生地に5種類もの材料が使われていることや、2か月前に行った本郷3丁目のお店では、生地にどんな材料を使っているのか、その店ではソーセージが「ハルビンソーセージ」だったので、改めて普通のソーセージとの違いを食べて確認したいと思い、また行くことにしました。
3. コリンスアンド(Colin`s &)

本郷三丁目駅から、少し歩いたところにある煎饼果子専門店です。煎饼果子と書いた提灯や、天井にまでメニューやポスターの装飾があり、とてもユニークで個性的な店内です。

ここでは「中華風クレープ」と名付けています。
私は今回もハルビン鴨肉ソーセージ煎饼(650円)にしましたが、面白いのは普通の煎饼果子の他に、インド風、タイ風など色々な味付けがあることです。
なぜハルビンソーセージ入りがあるかというと、店主の森迫さんがハルビン出身(その後日本に帰化)だからです。ガチ中華店ではメインメニューの他に、自分の出身地の料理や材料を使ったメニューをよく見かけます。
店主の森迫さんとは、前回行った時はメニューのやりとりを大体中国語でしていたのですが、今回日本語で煎饼果子の質問をしたら、日本語で色々と詳しく説明してくださいました。
森迫さんもこのお店が初めての飲食店経営だそうです。日本にずっと居たかったので、そのために何をするかと考えて、おいしい煎饼果子が食べられる店がまだ少なく、日本人においしさを共有したい思いから、2019年に開店したとのことです。
ここでも作っている場面を間近で見ることができます。
ソースは豆板醤ベースとのことですが、生地の材料は小麦粉以外は企業ヒミツだそうです。レタスを載せ、1口サイズに切ったハルビンソーセージ、鴨肉、辣条(ラーティァオ)をちりばめていきます。

辣条は中国ではメジャーな小麦粉でできた辛めのスナックです。そのまま食べるものですが、煎饼果子には食感や辛さを引き立てるために入っていることがあります。

具材全てを生地ですっぽり包んだ後、その中心にせんべいを置いてせんべいを巻くように包みます。包んだ外側の生地に、最後ほんの少しチリパウダー、麻油(花椒系のしびれる辛さ)をスプレーしてできあがりです!

せんべいが飛び出ている見た目がかなりインパクトがあります。なんとここでは、このせんべいも小麦粉から手作りしてるそうです!
こちらはサイドメニューも豊富で、飲み物の種類も多いです。少し暑かった日なので酸梅汤(梅ジュース)と一緒にいただきました。汗ばんだ時にピリ辛の煎饼果子とさっぱりした酸梅汤がよく合います。
食べ進めると、香ばしく少しカリッとした鴨肉と、ちょっとサラミのようなジューシーなハルビンソーセージと、ジャンクな辣条がどこを食べても入っているのがいいし、具材の種類が他の店のとは違い、特別感があります。ハルビンではソーセージが有名だそうです。東北地方にあたるハルビンのソーセージは少ししょっぱめだそうです。


どの店の煎饼果子も個性的で、それぞれの良さがありました。それにしてもこのお2人はとてもポジティブで、お店への思いもとても熱く、普段何気なく過ごしている私はとても元気をもらいました!お店に行ったら、食べるだけではなく、ぜひ店主さんに話しかけてみてほしいと思います!
(aokinapple)
店舗情報
南南鸡蛋肉汉堡

新宿区大久保1-7-20
080-6869-7888
東京煎饼果子専門店

江東区亀戸2-20-11
コリンスアンド(Colin`s &)

文京区本郷3-22-10
080-8729-2356
Writer
記事を書いてくれた人
