中国人夫妻が始めた岸和田の古民家「蓉堂」で食べる四川家庭料理

大阪南部に住む友人がすごく変わった四川料理のお店を見つけたというので、一緒に食べに行ってきました。

その四川料理店は、関西国際空港に比較的近い岸和田市中井町の住宅街の中にある古民家。20年ぐらい前は田んぼだったと思われる地区にあり、しかも大通りから全く見えない路地にあります。自然と「なんで、ここにお店を?」という疑問がわいてきました。

古民家四川料理の「蓉堂(ロンタン)」の画像

古民家四川料理の「蓉堂(ロンタン)」は、李鼎巍(リディンウェイ)さんと梁曦(リャンシー)さん夫妻が2022年3月に開いたお店です。

夫妻は三国志のふるさとで知られる成都出身の四川人。「蓉」は成都の別称であり、「蓉堂」という店名からは夫妻のふるさとへの愛が感じられます。李さんは定年退職後、日本と中国を半年ごとに行ったり来たりする生活をするかどうか考え中でした。そんな時、元同僚の日本人から「日本の良さが一番わかるのは古民家だよ」と言われ、古民家を探し始めました。京都も好きな李さんは京都の古民家も見ましたが、なかなかピンとくる家がなく、やっと出会ったのがこの家でした。

李さん夫妻の画像

作業場にもなる広い玄関がある農家建築の古民家は、とにかく明るい。まさに一目ぼれで、とんとん拍子に購入が決定し、李さん夫妻は3年前に上海から移住してきました。子供たちが留学すると、自由な時間ができました。またもや夫妻を知る友人の「あんなに素敵な古民家なら、レストランをするのがいいよ」と言うアドバイスで古民家四川料理店を開くことになったのです。

「蓉堂」のシェフである奥様の梁さんは、四川美人そのもののような人。ご主人の李さん曰く、「妻は以前はね、キッチンに立ったことがない人だったんだよ」。そんな彼女が料理をするようになったのは、子供がご飯を食べてくれないことでした。食が進まない子供でも食べたくなる美味しい料理、それでいて体にいい料理を作りたい。幸い梁さんのお母さんは、調理師学校の先生だったので、料理を一から習い、子供たちが美味しいと食べてくれる料理を作れるようになったそうです。

「蓉堂」の四川料理は、李家の家庭料理とも言えます。お店らしくない普通の家の玄関から入っていくので、まさに李さんの家にお邪魔して、ごはんをごちそうになる感じです。

蓉堂の内観

今、一番人気があるのは蜂窝炒飯(フォンウオチャオファン)です。ハチの巣のように固めたチャーハンは、熱々の鉄板で出てきます。白酒をかけ、フランベしてくれるので、イベント感もあるのが人気の理由。一口食べると、しいたけ入り醤油とみそと腊肉(ラーロウ。豚バラ肉で作った干し肉)の美味しさがみつどもえとなって、口の中で広がります。

蜂窝炒飯(フォンウオチャオファン)の画像

今回の私のお目当ては鉢鉢鶏(ボーボージー)。これは串に刺した野菜や肉を鶏湯ベースつけ汁に入れた四川風おでんのような料理です。一串食べると、ゴマたっぷりのつけ汁が感動ものの美味しさ! マイルドな辛味の中に爽やかな酸味もあり、複雑で奥深い味。このつけ汁の中に「蓉堂」の美味しさの秘密が全部つまっていました。

鉢鉢鶏(ボーボージー)の画像

李さんの「これがないと料理ができない」と言う三種の神器は、李さんお手製の辣油、米こうじ、泡菜(パオツァイ)です。辣油には、朝天(チャオティエン。辛すぎず、香りがいい)や二荊条(アージンティアオ。甘酸っぱい香りで泡菜によく使われる)などの特徴が異なる数種類の唐辛子に加え、花椒など約30種類のスパイスが使われています。

泡菜とは、四川人の家には必ずある、塩水に漬け、乳酸発酵させた漬物です。これが全て鉢鉢鶏に入っています。フルーティな酸味は、泡菜の漬け汁から、まろやかさは米こうじから、マイルドな辛味は辣油から。

辣油の画像

そのままなめても、ずっとなめ続けられるほど美味しい辣油。「蓉堂」で購入できますよ!

泡菜壇子(パオツァイタンズ)の画像

野菜ならなんでも泡菜にできるそうです。李さんは成都から取り寄せた泡菜壇子(パオツァイタンズ)とよばれるかめで作っています。

李さんが仕込む米こうじの画像

定期的に李さんが仕込む米こうじ。マッコルリに似た味わいで、ほのかに甘く、酸味も感じられました。

具を食べ終わった後、鉢鉢鶏のつけ汁をごくごく飲みながら、李さんに「もし、捨てるなら、この汁をもらってもいいですか?」と尋ねると、「つけ麺のタレにするといいよ」と容器に入れてくれました。私は、1日目はつけ麺で、翌日は生春巻きのタレにして食べました。

李さんは、発酵食に詳しく、乳酸菌の種類の豊富さと働きの違い、用途に適した乳酸菌を見つける大変さを話しだすと、止まりません。単なる料理好きな夫ではなく、日本人なら誰でも知っている食品会社の初の外国人取締役であり、中国エリアの社長を務めたこともある人でした。話を聞きながら、只者ではないと予想はしていたのですが、やっぱり!

「蓉堂」の三種の神器をもっと味わいたいなら、ピリ辛で酸っぱい肉炒めの魚香肉絲(ユーシャンロースー)もおすすめ。泡菜にした唐辛子を使う魚香肉絲は、辛味と酸味がしっかりきいていながらもフルーティでまろやかな味わい。これも発酵食のなせる技! シャキシャキの筍も美味しく、ああ、ごはんが欲しい。

魚香肉絲(ユーシャンロースー)の画像

米粉蒸肉(ミーフェンジョンロウ)は、米粉をまぶした豚肉を蒸したもの。発酵食愛が止まらない李さんの自慢の一品です。定期的に作る米こうじを使った米粉蒸肉は、スパイシーですが、穏やかな辛さ。まろやかで奥深い味にする米こうじの特徴が生きています。

米粉蒸肉(ミーフェンジョンロウ)の画像
米粉蒸肉(ミーフェンジョンロウ)の画像

また、四川人が好んで食べる腊肉(ラーロウ)と呼ばれる干した豚バラ肉と香腸(シャンチャン。スパイシーなソーセージ)を使った料理もありました。腊肉香腸蒸飯(ラーロウシャンチャンジョンファン)と言う蒸しご飯です。蒸すことで熟成された肉のうまみがしみ込んだごはんが美味しい。あっさりした出汁と醤油を割ったようなタレでいただきます。

腊肉香腸蒸飯(ラーロウシャンチャンジョンファン)の画像

1年に一度冬至の頃に約1か月半~2か月かけて作る腊肉と香腸も「蓉堂」の料理には欠かせない食材。

今回、古民家のほうで素敵なお庭を眺めながら食べましたが、お隣には古民家とは全くあわない洋風の家が建っています。これは海が大好きな子供たちのために海の家をイメージして建てた家ですが、こちらではペットと一緒に食事ができるようになっています。

蓉堂の画像
蓉堂の画像

李さんのように日本と関係がある仕事をしていて、日本の事情に詳しい中国人の間では、日本へ移住を考えている人が少なくないそうです。李さんは、猛スピードで経済発展していく中国と一緒に走って来た世代です。発展の中で現代中国が失ったものが、日本の地方都市にはまだ残っていると言います。隣人とかわすあいさつや助け合いの精神など、李さんが人情と呼べるものが岸和田市中井町にはあるそうです。

定年退職後、李さん夫妻は理想の古民家に出会ったことや隣人に恵まれたことで、いつのまにか四川料理店を忙しく切り盛りする生活になっていました。これを李さんは運命と言いますが、まさに古民家が導いてくれた縁! 古民家レストラン「蓉堂」に李さん家の四川料理を食べに行きませんか!

店舗情報

蓉堂

大阪府岸和田市中井町2-13-13
090-6488-1166
※営業時間は11時から15時、17時半~22時は要予約でコース料理のみ
月曜休み 

Writer
記事を書いてくれた人

浜井 幸子

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