2023年夏現在、上海で大ブームの飲食店のジャンルといえば「小酒館(ビストロ)」です。
きっかけは、コロナ以降欧米から帰国した中国人(料理人含む)が増えたこと。これによって洋食のジャンルが細分化し、レベルアップしたのですが、そのなかで地元の若い人たちに最も受け入れられたのが気軽に利用できる「ビストロ」という形態だったようです。
また、2021年前後から続く自然酒(ナチュラルワイン)ブームも、ビストロ人気の追い風になっているとみられます。
中国現地の食事情に詳しい方なら、「小圃」(※)などはチェックしているのではないでしょうか。
※「和平飯店」のソムリエとしても活躍していた戴鴻靖が、寧夏で創業したナチュラルワインのノマドワイナリー。ミシュラン3つ星レストランがペアリングワインとして採用したり、ロバート・パーカーのワインサイトが92点の評価をつけるなど、世界的に注目され始めている。
流行のサイクルと展開が速い上海では、本来の意味でのビストロ(フレンチ、洋食系の食堂)のブームは既に成熟期を迎えている感じ。
ここ1〜2年は、「これを中華にできない?」と考えた人が増加し(大歓迎の動き)、中華と洋食のミックスや、純粋な中国の地方料理系ビストロが増え始めています。
今回ご紹介するのは、2023年夏現在、その中華系ビストロの人気No.1店「三酉星・楓・山風与野菜」。
私が勝手に決めたジャンル名は「情緒強めの山系&店名筆書き系中華」です。
少人数向け、癒し(ギラギラしていない、作り物感がない)、侘び寂び、でもこだわりあり、唯一無二感など、昨今上海で注目されている要素と合致した雰囲気が受け、連日大行列ができています。
料理は浙江省の味をベースにした小皿料理がメイン。
が、「流行っている」と言っても全員が乗っかるわけではない上海。ビストロの概念を知らない人のために、「私たちは小酒店です。レストランではありません。小皿だからお腹いっぱいにならないけれど、お酒があればOKでしょう」との注意書きが貼ってあります。
「お腹いっぱいにしないローカル店」というジャンルも、このお店が登場するまではなかったかもしれません。
まずはいちばん人気のメニューから。
「熟酔沼蝦(シューズイジャオシア)」。淡水エビの紹興酒漬けです。
「熟」なので生ではなく茹でたエビなのですが、私は酔っ払い系甲殻類は熟派。生より味が濃いと思うからです。
エビでかぶってしまいますが、「松子韮芯櫻花蝦(ソンズジューシンインホアシア)」もお勧め。
ニラの茎と松の実、桜エビのピリ辛炒めです。醤油ベースの中華の炒めものに桜エビ、合います。
野菜のお勧めは「葱油秋葵(ツォンヨウチウクイ)」。
「葱油」は、ネギ、蒸魚豉油(醤油の一種)、酒などを使った、どんな素材にも合う味付け。甘めの醤油味が特徴です。これを使ったオクラのお浸し、という感じの一品。
ニンニクとトウガラシの香ばしさが味を引き立てています。
お酒はこんな感じで、やかんで、1斤(500ml)48元。
紹興酒は銘柄とか、何年ものとかではなく、「黄酒」というシンプルな名前のものが一択のみ。
「そういうことにこだわらず、そこにある酒をやかんで」が、クールなのかもしれません。やや甘口でコクがあり、しっかりおいしかったです。
一杯目はビールという方は、普通に朝日の生ビールもジョッキで飲めます。クラフトビールや果実酒も種類豊富でした。
締めは人気メニュー「蝦油泡飯(シアヨウパオファン)」。
エビだしの雑炊です(意識していなかったのですが、エビ尽くしになってしまった……)。小さなお茶碗一人分で、さっぱりしたスープで、酒飲みの気持ちがわかっている人がつくったご飯だなとしみじみ。
こんな感じで、1人〜少人数でちょっと食べてパッと飲んで帰るのが上海ではイマドキ。
大勢でわいわいお腹いっぱい食べて、食べきれない分は打包(テイクアウト)とかは、若い子たちから見ると既におじさんたちの文化のようです。
ほかにも、上海市内で注目を集めている中華系ビストロには、湖南料理とナチュラルワインのペアリングを楽しめる「園有桃」(新楽路167号)、ややカジュアルな台湾系小酒館「楊梅市場」(襄陽南路284号)などがあります。
このブームから、中国ならではのお酒の味わい方、意外なお酒に合うおつまみなども生まれそう。
今後も上海市内の「小酒館」のジャンルのお店はチェックしていきたいと思っています。
(萩原晶子)
店舗情報
三酉星・楓・山風与野菜
上海市静安区北京西路1732号2幢1階
17:30-24:00