【上海最新グルメ事情01】2021年秋現在、人気爆発中のピリ辛魚鍋を食す

いま東京では中国各地の珍しい地方料理が食べられる時代ですが、背景には中国の外食文化の隆盛があります。なかでも上海は食のトレンドの発信地のひとつ。いま上海で流行している料理は、いつの日か東京にも届くことでしょう。

今回、上海の最新グルメ事情をレポートしてくれたのは、現地在住のライターの萩原晶子さん。先日彼女が食べたピり辛魚鍋の話です。

■上海では交通の不便な郊外店が人気

駅から遠く、バスの路線もない場所に話題店が増えている上海。

その理由には、自家用車を持つ人が増えたことや配車アプリの普及が挙げられます。

コロナ以降、子供とその家族、学校関係者に対し、「市外への旅行禁止」という通知が定期的に出ることも理由のひとつ。市内で旅行気分を味わえる場所は常に注目されています。

そんなニーズにぴったり合う飲食店ということで、2021年秋現在人気爆発中なのが「筱爷叔(シャオイエシュー)」。上海中心部から車で約1時間の松江区に位置するため、日帰り旅行気分で行くことができます。

上海南西部に位置する松江区には史跡や遊園地、植物園、リゾートホテル、ゴルフ場などが点在しており、上海人にとっては日帰りレジャーを楽しめるエリアです。大学の郊外キャンパスが集まる学生街で、広大な農地や外資系の工場が集まるエリアもあり、日本人駐在員も多く暮らしています。

私もこの日、友人の車でドライブがてら出かけました。

「筱爷叔」は松江区内に5店舗もあるのですが、どこも「思いつきでふらっと」立ち寄るのは無理な人気ぶり。夜の部は、夕方4時半に配られる整理券を入手するのが約1時間待ちで、券がなくなったらその日は終了です。

「予約しても来ない場合、確認している暇がない」とのことで電話予約は不可。整理券入手後に行けるお店付近のヒマつぶしスポットも探しておいたほうがいいでしょう。

この日は近場の釣りスポットを眺め、店舗が入っている「G60科創雲廊」※1 を散策して約2時間待ちました。


これが整理券配布の開始を待つ行列です。

店内は、食材と調理法を選ぶキッチンスペースとダイニングスペースに分かれています。席に通されたら、まずは食材選びスペースへ。展示してある食材を選び、オープンキッチンで調理法を伝えて席で待つシステムです。


ここでオーダーして席で待ちます。

■魂が抜かれるほどおいしい看板メニュー

今回オーダーしたのは、「筱爷叔」の看板メニューのひとつ「醤焼勾魂魚(ジャンシャオゴウホンユィ)」。ピリ辛でコクのある味噌ベースのスープで、生簀から出したばかりの巨大淡水魚(多分コクレン)と手づくり豆腐を煮込んだ鍋料理です。

「勾魂」とは、魂が抜かれるほどおいしいという意味だそう。クックパッド的なアプリ「下厨房」でも「勾魂麺」「勾魂面包」などのタイトルで見かける言葉です。

その名の通り生臭さは一切なく、ふっくらした白身と味噌の風味がぴったりでお酒が進みました。上海ではお酒といえば、もっぱら黄酒やビールです。

店内の生簀から魚はそのまま鍋へ入れられます。

黄ニラだけの土鍋炒め「生焗韮黄(ションジュウジウツァイ)」も、シンプルなのに意外とほかの店にはない料理。土鍋とコンロでテーブルに運ばれてくると、店員さんがその場で炒めてくれます。

上海周辺では、ニラは韭黄(黄ニラ)のほうがポピュラーです。光を当てないことで黄色くなったニラのことですが、中国語版ウィキペディアの「百度」によると、中国の書物に黄ニラの表記が出てくるのは皇慶2年(1313年)。卵炒め、春巻きなどによく使われます。

そのほか、里芋と蛏子(マテガイの一種)をニンニク醤油で蒸した「芋艿蛏子(ユーナイチャンズ)」、お馴染み紅焼肉に稲の香りをつけた「青稲草紅焼肉(チンダオツァオホンシャオロウ)」もおすすめです。

■無形文化遺産に選ばれた料理の数々

これらはすべて「松江料理」というジャンルでくくられるそうで、特徴は地産素材の味を生かし、濃厚ですがしつこさはなく、一般的な上海料理に比べてあっさりしています。調理法は主に「焼(炒め煮)」「生煸(下処理せずに炒める)」「蒸」で、食材はご当地野菜や米、大豆製品、淡水の魚介類、家禽、豚などを使います。

松江料理の一部は無形文化遺産に指定されています。松江地区は19世紀半ば、外国租界地の造成によって生まれた上海中心地よりずっと古く長い歴史と文化を持つ地域であることから「上海のルーツ」と呼ばれています。ゆえに、松江料理は真正の上海の伝統料理といえます。

中国の無形文化遺産(非遺)は、民間レベルで口伝いに長年受け継がれている歌や芸能、工芸、音楽、演劇などから選ばれ、料理も含まれます。
たとえば、先ほどの「醤焼勾魂魚」に使われている手づくり豆腐は、清代から松江区の九亭で作られていたものを採用しているそうです。
締めはぜひ「松江軟糕(ソンジャンルアンガオ)」で。

米粉と小豆のこしあんを型に入れて成形し、蒸した松江の伝統的な点心です。米と小豆自体の甘さを最大限に生かしたやさしい風味が特徴。味噌系、醤油系料理のあとにぴったりのほっとできる味です。このお菓子づくりの技術も、2011年に非遺に登録されました。

普段甘いものをそんなに食べない私もハマり、持ち帰り用も購入。家で蒸して熱々を楽しみました。

食がテーマのドキュメンタリー番組『舌尖上的中国』※2 のヒット以降、その土地だけのローカル料理が再注目されている中国。ジャンルも細分化していて、ここ上海では今回ご紹介した松江料理と、浦東の三林料理が注目されています。

三林は古くから名料理人を輩出している古鎮。機会があれば今後紹介したいと思います。

店舗情報

筱爷叔

上海市松江区莘砖公路239号
G60科创云廊3号楼1階
021-3769-1777
※ほか松江区内に4店舗

※1 「筱爷叔」が入店している松江地区の「G60科創雲廊」は、2021年春にオープンした複合モールです。「東京国際フォーラム」などのデザインで知られるラファエル・ヴィニオリが手がけた、1.5kmの横長複合施設で、オフィスや商業施設、シネコンなどが入っており、松江区の新たなランドマークになっています。

2018年に「G60科創走廊」という、上海、浙江省、安徽省の経済発展を促す政策ができ、そこに含まれる9都市をつなぐ高速道路「G60」が整備されました。その高速道路の起点になる位置(松江区)に建てられました。自家用車で高速道路を使う人や、周辺に住む松江区民が利用します。

※2 CCTVが2012年から放送している食のドキュメンタリー番組。中国現地の人でも知らないような、国内各地の民間の素朴な料理と、それに関わる料理人を掘り下げ、外食業界だけでなく旅行業界にも影響を与えるなど大ヒットし、日本でもBS12などで放送されました。

Writer
記事を書いてくれた人

萩原晶子

プロフィール

最新情報をチェックしよう!