私のコロナ後の初海外旅行は台湾から始まった。
関西から行きやすく、おいしい中華料理が食べられるところと言えば、やっぱり台湾だ!
台湾に行ったことがある人、台湾好きの人が必ず言う言葉は「1日5食でも足りない」。
これはほんまにそう。台湾は小籠包、胡椒餅、魯肉飯、鹹豆漿などなど、おいしいものが多すぎる。もう一度食べたいもの、新しく食べたいものをピックアップしていったら、1日5食でも食べきれない。その5食を決めるのも難しい。だから今回は他力本願。大の台湾好きで、おいしいものへのこだわりが半端ない二人の友人の推しのお店を絶対に行くお店にした。
そのうち一人は「食べるぞ! 世界の地元メシ」という主に旅で出会った世界のおいしいものを紹介するサイトでは、おなじみの謎の美食家Kさん。
食べるぞ!世界の地元メシ
もう一人は日本酒が好きでおいしいものが大好きな旅人が集まる創作居酒屋を営んでいたTさん。
この人たちの舌は絶対的に信頼できる。そんな食道楽な人たちが私に「絶対に行ってほしい店」が、偶然にもどちらも水餃子のお店だった。
水餃子はまぎれもなく中国北部を代表する食。それをわざわざ台湾で食べる必要がある? と不満だったけれど、あまりにも強く、しかもどちらからも「今まで食べた中で一番おいしい水餃子」と推されてしまった。もうこれは行くしかない!
台湾は、大陸での権力闘争に敗れた蒋介石率いる国民党がやってきた時から「外省人」と呼ばれる多くの大陸出身の中国人が住んでいる。彼らが伝えた中国各地の食文化が台湾に根付き、台湾の食文化を一層豊かなものにした。
その代表的なものが牛肉麺、炸醤麺(ジャージャンミェン)、臭豆腐、酸辣湯(スワンラータン)などなど。水餃子も中国のイメージが強いけれど、台湾にも水餃子の専門店が数多くある。
Tさんのおすすめは、松山市場内にある看板のない水餃子店だ。
松山市場は饒河街観光夜市にも近く、もともとは日本統治時代の1911年に設けられた公設市場だったところ。100年以上の歴史がある市場で、大きくはないが、アーケードになっている。この市場の一番奥に水餃子屋さんがある。営業開始10分前に着くと、すでに10数人の行列ができていた。
40代前半に見える老板が餃子をすくう大きなざるを持ち、煮えたぎる大鍋の湯の中の餃子をかき混ぜていた。その眼光の鋭さには、一番おいしいゆであがりの瞬間を決して見逃さないと言う気合が現れていた。
餃子は1個5.5 元(約23.6円)で注文は10個から。この店は老板のピリピリ感が周囲に伝染し、餃子やスープを運ぶ係の女性もピリピリしている。
私は餃子10個と魚丸湯(魚肉だんごスープ)を注文。しばらくして運ばれてきた水餃子は、生地が感動的につやつやでしかもでかい。このつやつや感は老板がゆであがった餃子にかけている薄い茶色の液体(たぶんゴマ油)がなせる技だろう。厚手のもちもち生地は餃子というより白玉だんごだ。
中はあっさりした豚肉餡。超シンプルなのにむちゃくちゃうまい。ここのもちもち感は別格! Tさんが言う「今まで食べた中で最高においしい水餃子」は本当だった。
さて、次はKさんおすすめの「豪季水餃専売店」だ。
松山市場餃子は豚肉餡の1種類だったが、豪季水餃専売店では豚と蝦の2種類。豚肉餡を食べたので、今度はネットでも評価が高い蝦にした。
こちらの生地は普通にもちもち。松山市場水餃子は明らかにこだわっているのは生地だったが、豪季水餃専売店では、こだわりは餡にあった。蝦のぷりぷり感が生きた餡は、にんじん入り。蝦とにんじんの組み合わせって、珍しい。蝦ににんじんの甘味が加わり、こころもち甘めに仕上がった餡が酢醤油によくあう。これも未知のおいしさだ。
今日食べた2軒の水餃子は、今まで食べてきた水餃子とは全然違う。最高に生地がうまい水餃子と餡にこだわった水餃子は、台北にあった。
今までの私の台北での晩飯は夜市で老舗屋台の名物料理を何品か食べるがお決まりだったが、今回は友人のおすすめと前から気になっていた「包んで食べる」店に行ってきた。
まずはTさんのいちおしの「大直小館」へ。
香港人シェフが作る香港料理のお店で、おすすめは「招牌炸肥腸(チャオパイジャーフェイチャン)」。これは、カリッと揚げた豚の小腸に甜麵醬をつけ、薄切りにした饅頭(マントウ)に包んで食べる料理で大直小館の看板料理だ。
中国ではよく肥腸を食べたけれど、揚げて食べるのは初めて。揚げると、表面はカリッ、中はとろっとクリーミーな食感に変わるのが不思議。これを極薄の饅頭に包んで食べるとカリ、とろっ、むっちりの異なる食感を味わえ、むちゃくちゃおいしい。甜麵醬は粉物と一緒に食べると最高においしくなるみそだ。
翌日の夜はネットで見つけ、ずっと行きたかった「種福園斤餅」さんへ。「斤餅(ジンビン)」というのは、北京ダックを包んで食べる春餅に似た薄焼きの粉物。種福園さんは北京料理のお店で、斤餅で料理を包んで食べるのが特徴。
主食が粉物だから湯(スープ)も欲しいということで清燉牛肉湯(チントゥンニュウロウタン)、看板料理の京醤肉絲(ジンジャンロースー)、合菜戴帽(フーツァイダイマオ)の3品と斤餅を注文。
京醤肉絲は細切りの豚ロース肉を炒めて甜麵醬で味をつけたもので、中国では押し豆腐に包んで食べる。
合菜戴帽は初めて食べた料理。細切りの豆腐、もやし、春雨、きくらげをあっさりと塩味で炒めたもので卵焼きを帽子のようにのっけているので、合菜(いろんな野菜を集めて)戴帽(帽子をかぶる)と言う名前なんだろう。京醤肉絲は甜麵醬の味がついているので、そのまま斤餅で包んで食べる。これがおいしくないわけがない。予想を裏切らないおいしさ。
合菜戴帽は薄味なので、斤餅に甜麵醬をぬってから包んで食べる。「種福園斤餅」は、包んで食べるのが好きな人なら絶対に好きになるお店だ。
台北最後の夜は、約20年前に台湾に行った頃から大好きな「台電励進餐庁」さんへ。
日本統治時代の台湾電力会社の元社員食堂が食べ放題の酸菜白肉火鍋のレストランになっている。
「火鍋店のどこが包んで食べる店なん?」と思う人もいるだろう。お店の人のおすすめの焼餅の食べ方を紹介したい。サクサクの焼餅(シャオビン)で春雨の涼拌(冷菜)や皮凍(豚の煮凝り)を包んで食べるとおいしいのだ。
酸菜白肉火鍋は、中国の東北地方を代表する料理で、火鍋は国民党と一緒に台湾に渡ってきた料理でもある。
寒さの厳しい東北地方では冬の間、新鮮な野菜を食べられないので白菜を漬物にした酸菜を冬中食べる。酸菜はそのまま食べるのはもちろん、春雨と煮込んだり、餃子の具に入れたりと、どんな風に食べても美味しい東北地方の国民食だ。
酸菜白肉火鍋の白肉とは豚バラ肉のことだが、台電励進餐庁では豚、牛、羊の3種の肉を食べられる。
おすすめの食べ方は酸菜をスープに加えた後は、まずは豚肉を投入。こうすると豚からいい出汁が出て、おいしくなるらしい。次に羊、最後に牛。タレは芝麻醤に腐乳、韮の花のペーストなどを入れて作る。酸菜の酸っぱいスープで食べると、脂身までがあっさりと軽い。
台北滞在最終日ともなると台湾グルメを食べ続け、最初からおなかいっぱいだったのだけど、出された肉は全部食べてしまった。なんでもさっぱりさせてしまう酸菜の力って、すごいな。
台北の最終日に台電励進餐庁に来たのは理由がある。
以前、ここで働いていた日本語が上手なおじいさんのことを聞きたかった。入り口に座っていて、案内係のような仕事をしていた。相撲が大好きで、一度相撲雑誌をお土産に持って行くと、ものすごく喜んでくれた。
最後に行った時から10数年以上たっているので、引退されているのは間違いない。お店の人に尋ねると、10年以上前に病気で亡くなっていたことがわかった。いろんな国に行った話を聞かせてくれたおじいさんは台湾の激動の近代史同様の波乱万丈の人生を生きた人だったように思える。私と日本統治時代をつないでくれていた人がまた逝ってしまった。旅の話だけでなく、もっと話を聞きたかった。
台湾電力会社は、日本統治時代の1919(大正11)年に設立され、現在も台湾では唯一の公営電力会社だ。
日本の敗戦後は中華民国の資本によって新しくなり、日本人の社長から大陸出身の社長に変わった。元社員食堂が酸菜白肉火鍋店の台電励進餐庁になったのは、台湾の歴史の流れそのもののように思える。
お店では古株の女性に「社長が(大陸の)東北人だから酸菜白肉火鍋の店になったの?」と聞くと、「そうよ」と言われたが、つい最近ネットで見つけたニュース記事ではそうではなかった。
台電励進餐庁の社長は甘粛省蘭州出身で、しかも写真では回族のように見えた。台電励進餐庁のことをもっと知りたくなった。これは台湾にもっと行きなさいということに違いない。
(浜井 幸子)
店舗情報
松山市場の看板のない水餃子屋
台北市松山区八徳路679号
11時~13時半、16時半~19時 休み不明
豪季水餃専売店
台北市萬華区武昌街2-83-7 月休
台北車站店(中正区忠孝西路一段29巷1号)がおすすめ。
大直小館
台北市中山区北安路535-1
022-533-1717 月休
種福園斤餅
台北市中山区松江路123巷12-1
02-2507-9229 旧正月休み
台電励進餐庁
台北市大安区和平東路一段75巷内
02-2393-4780 日休