7月中旬、食彩雲南西川口店で「在日中国厨师精英协会(中華シェフ協会) 第二十届料理交流活动 暨盛暑纳凉会」なる宴会が開催されました。
これは都内の「ガチ中華」のオーナーたちが親睦と料理の研鑽のためにレシピや新しい食材、調味料などを情報交換する勉強会で、6年前から始まり、今回で20回目の開催となります。50名以上の人が参加しました。
講師は、食彩雲南の総料理長の張永富さんと同湯島店のシェフ趙建兵さんでした。
今回、次のような新しい料理のレシピが紹介されました。
まず湖南料理の「剁椒碟鱼头」。赤トウガラシをニンニクなどと一緒に発酵させた「剁椒」を使った蒸し魚料理。最近増えてきた湖南料理の店でも食べられますが、今回は中華卸の嘉恒貿易さんが提供した新商品の「剁椒酱」を使っています。食彩雲南では蒸気マシーンで蒸します。
それから羊のスペアリブのクミン炒めの「孜然羊排」。オイスターソースで有名な香港の李錦記の「孜然酱」を使っています。
こういう地道な活動が「ガチ中華」の隆盛を支えているのだと強く実感します。
西川口店を加えて都内に5店舗を展開する食彩雲南のオーナー、牟明輝さんはこの中華シェフ協会の副理事で、会の運営に尽力するとともに、常に意欲的に新しいメニューや業態を開拓している方です。
今回はまもなく開店1周年(2023年9月オープン)を迎える食彩雲南の池袋西口店の最新メニューを紹介します。
日本の「ガチ中華」に新風をもたらした「蒸気石鍋魚」や「蒸気海鮮」、雲南の薬膳スープの「汽鍋鶏」、「過橋米線」などを提供している店なのですが、この1年で続々と新しいメニューが登場しています。
まず「薬膳蹄花猪肚排骨湯」で、これまでのように海鮮ではなく、蒸気石鍋で豚足スペアリブや豚ガツを蒸し煮したコラーゲンたっぷりの鍋です。見るからにボリューム満点です。羊肉を入れるメニューもあります。
これは前菜のくらげの和え物「撈汁海蜇头」。さっぱりコリコリ新食感で、肉料理などの合間に味わうのにピッタリです。
これは先ほどの中華シェフ協会で紹介された湖南料理の「剁椒碟鱼头」で、ヒラメの頭を使います。
そして、こちらは同じヒラメの頭を使う煮込みですが、タイ風の「泰式干焼碟鱼头」。雲南地方には少数民族が多く、タイ族もいます。爽やかな酸味が加わり、絶品です。
以上の3品は、のちほど紹介する池袋西口店のシェフの張新さんが創案した現在売り出し中のおすすめメニューです。
次は、焼いた青山椒と赤トウガラシをかけたピータンの「焼椒皮蛋」。濃厚で口に甘く感じるピータンが「焼椒(シャオジャオ)」によってグッとしまった味になります。
鶏の手羽先を汁なし鍋にした「干鍋鶏翅」。野菜もたくさん入っていて、揚げた手羽先の味しか知らない人にとっては新鮮な味わいです。
こちらは豚のスペアリブを汁なし鍋にした「干鍋排骨」。
牛肉と豆腐の青山椒煮込みの「豆花焼椒牛肉」。
鷄ナンコツとエビを青山椒で炒めた「椒麻脆骨蝦」。ビールに合います。
これも炒めた鶏肉のやわらかい食感と山椒の痺れが新鮮な「花椒鶏」。
牛バラとダイコン煮込みの「萝卜炖牛腩」。
ニンニク風味のカキやホタテを春雨と蒸した「蒜蓉粉絲生蠔扇貝」。これはたまりません。スープごと飲みましょう。
そしてスズキの香り揚げの「手撕鱸魚」。
この料理について、ディープチャイナのライターで、食いしん坊日中夫婦の川雲さんのご主人「川」さんが解説してくれました。
手撕鱸魚は青島出身の山東系の名料理人で『中式烹調高級技師』の張恕玉氏の創作料理です。山東省沿海部の魚の保存法『一滷鮮(一魯鮮とも)』で塩漬けにしたスズキを揚げて手でちぎったものです。
手撕腊魚は江西省、湖南省、湖北省あたりでは腊魚を一旦,茹でるか蒸すかして戻してから手で引き裂いて、唐辛子などと炒めたもののようです。どちらにしても酒やご飯が止まらなくなりそうですね。
この料理はオーナーの牟さんのおすすめです。
牟さんは港町の大連出身なので、こういう魚料理を出してくれるのです。日本人なら焼き魚とするところを中国では揚げるんですね。魚の皮の食感は揚げると(焼くより)少し硬く、油の衣がまとう感じですが、調味料が複雑で味わいがありました。
さて、これでもすべてを紹介しきれないのですが、これらの新メニューを開発した池袋西口店のシェフ、張新さんを紹介します。
張さんは中国遼寧省瀋陽出身で、2010年にシェフとして来日しています。最初は広島県の店で働き、その後新宿の店に移り、2022年9月の池袋西口店のオープンとともに食彩雲南で腕をふるっています。専門は広東の海鮮料理と四川料理だそうです。
実は、張さんは瀋陽の老舗有名店の「鹿鳴春(ろくめいしゅん)」のシェフでした。この店は、1929年開業の本格派中国東北料理店で、東北三省の素材を豊富に使った多彩な宮廷料理から素朴な地元料理まで楽しめます。
同店の名物のひとつが、鹿肉をはさんだ揚げパンで、素朴な味わいです。豚肉とキノコの煮物は東北地方ではどこでも食べられますが、この店では塩加減がほどよく抑えられていて、さすがは老舗店だと思いました。
瀋陽は清朝の最初の都で、「瀋陽故宮」という王宮が残っており、ユネスコの世界遺産に登録されています。歴史の重みを自負する誇り高い瀋陽人の店らしく、店内に掲げられるのが、同店を訪ねた著名人の展示で、蒋介石やラストエンペラーの溥儀、張学良など中国近代史上の堂々たる面々がおり、この店の歴史を物語っています。
張さんは来日前、この店にいたのです。実は、代表の中村は2009年夏に同店を訪れたことがあります(ということは、張さんはまだこの店に在籍していたはずですから、ニヤミスしていたかも?)。
張さんが調理している厨房を覗かせてもらいました。これは池袋西口店の人気メニューで、揚げナスの塩胡椒風味の「椒盐茄子」です。
日本の「ガチ中華」の世界には、張さんのような知られざる中国の有名店出身のシェフがずいぶんいます。
張さんにこれまで紹介した最新メニューのうち、おすすめの品を聞きました。
「まず手撕鱸魚。これはスズキを揚げる前に花椒や八角などの中華スパイスで味つけして24時間寝かします。それを180度以上の高温の油で一気に揚げます。揚げすぎてはいけません。
鶏肉の山椒炒めの花椒鶏や鷄ナンコツとエビを青山椒で炒めた椒麻脆骨蝦は、どちらも下味の付け方が大切です。
日本ではヒラメの頭を使う湖南料理の剁椒碟鱼头だけでなく、タイ風の泰式干焼碟鱼头を出すことにしたのは、当店は創作雲南料理の店ですから、なるべく少数民族の味わいを知ってもらいたいからです。味つけでいえば、湖南料理は香辣(シャンラー)で少し辛さを抑えています。泰式は甜酸辣(ティエンスァンラー)で、珍しい料理だと思うので、ぜひご賞味ください」
食彩雲南池袋西口店には生簀があって、その場で仕入れたばかりの海鮮を蒸気で蒸して味わえます。
この店はランチメニューも素晴らしく、この店の名物の雲南の各種ライスヌードル(米線)や汽鍋鶏のほかに、先ほど紹介した最新メニューの鶏肉の山椒炒め「花椒鶏」や豚のスペアリブを汁なし鍋にした「干鍋排骨」、鶏の手羽先を汁なし鍋にした「干鍋鶏翅」、牛バラとダイコン煮込みの「卜炖牛腩」、牛肉と豆腐の青山椒煮込みの「豆花焼椒牛肉」などがリーズナブルに味わえます。
「ガチ中華はランチから」。同店で本格料理を楽しんでください。
(東京ディープチャイナ研究会)
店舗情報
食彩雲南
池袋西口店
豊島区西池袋1-38-3 D:vort Ikebukuro 8F
03-6914-1633
営業時間
11:30〜23:00(L.O.22:30)
湯島店
台東区池之端1-1-1 MK池之端ビル2F
03-3836-1898
四谷三丁目店
新宿区四谷3-3 エスパスコンセール1F
03-5363-8338
池袋東口店
豊島区東池袋2-21-3
03-6907-2210
西川口店
埼玉県川口市西川口1-24-2
048-203-9357