東北料理「鉄鍋炖」の醍醐味
厳寒な気候で知られる中国東北料理を代表する一品は「鉄鍋炖(ティエグオドゥン)」です。
この地方の農村では、薪を焚べた厨房の大きな鉄鍋に骨付きの鶏や豚肉、羊肉、川魚、インゲン、ジャガイモ、キノコ、トウモロコシなどを入れた煮込み料理が広く家庭料理として食べられていました。レストランで注文する際は、中に入れる具材で選びます。
都内にはいくつもの東北の鉄鍋炖を出す店はありますが、2016年という早い時期に湯島駅に近い住宅街にオープンしたのが、味坊集団2号店の「味坊鉄鍋荘」(東京都台東区上野)です。
この店はオーナーの梁宝璋さんは黒龍江省チチハル出身です。1号店の「神田味坊」が東北地方でよく食べる羊料理の店だったように、2号店は同じくよく食べる鉄鍋炖の店にしたのは当然のことだったのでしょう。彼の生い立ちや故郷の話については、以下のウエブ記事で紹介されています。
ところで、お店の紹介に入る前に、実際の中国東北地方のレストランの話をしたいと思います。ここは中国遼寧省大連にあるちょっとレトロ調の東北料理店です。
レトロ調という意味は、このように店の内装に1970年代当時の映画のポスターや写真などが貼られていて、料理も農村の厨房にあるような鉄鍋でわざわざつくって提供しているからです。豊かな時代を迎えたいま、当時を知る世代の中国の人たちにとって、このような趣向はとても懐かしさと郷愁を誘うようです。
人気メニューはこれです。左は豚肉の腸詰入り酸菜鍋の「白肉血腸(バイロウシュエチャン)」、上は鶏肉とキノコの醤油煮込み「小鷄炖蘑菇(シャオジードゥンモーグー)」、下は毛沢東が好きだったという豚肉の煮込み「紅焼肉(ホンシャオロウ)」で、東北らしく茹でトウモロコシが添えられています。
みなさん和気あいあいと食事を楽しんでいました。
さて、味坊鉄鍋荘では、まさにこのような鍋料理が食べられます。さっそくメニューを紹介しましょう。
まずは前菜から。押し豆腐の冷菜の「拌干絲(バンガンスー)」。味坊の定番です。
そしてジャガイモの千切りを軽く茹でて和えた「炝拌土豆絲(チャンバントウドウスー)」シャキシャキ感がたまらないですね。
これはメニューにはないようですが、ピータンとくずし豆腐の和え物です。一般のピ―ダン豆腐とは違いますが、口の中でとても濃厚な味わいです。
東北地方では、こんな感じで野菜をティックにしてミソを付けて食べたりします。昆布の細切りの和えものもよく出てきます。
ハチノスをキュウリやパクチーで麻辣風味に合えた「麻辣牛肚(マーラーニゥドゥ)」。酒のつまみにサイコーです。
さて、いよいよ鉄鍋料理です。店の中にはこのようにテーブルごとに鉄鍋がふたつずつ埋め込まれています。目の前でグツグツ煮込んでくれます。
この店の人気鍋ベスト3はこちらです。
人気鍋ベスト3
1位 ラム肉と大根の醤油煮(紅焖羊肉)
2位 豚スペアリブとインゲンの家庭風煮込み(排骨炖扁豆)
3位 国産二元豚肉と発酵白菜の煮込み(酸菜白肉)
というわけで、まず「ラム肉とダイコンの醤油炒め煮(紅焖羊肉)」。
ラム肉の肩ロースをダイコンと炒めたあと、鶏ダシのスープでじっくり煮込みます。コクはあるけれど、輪郭のはっきりした醤油ベースの味つけで、煮込み続けて写真のように煮汁がなくなる寸前がおいしいです。ワインにも合います。
次は「豚スペアリブとインゲンの家庭風煮込み(排骨炖扁豆)」。
時間をかけて下茹でした骨付きの豚スペアリブをインゲンと一緒に煮込んだ一品です。鶏ダシのスープを醤油で味つけし、八角で香りづけします。これも煮汁が少なくなった頃合いが食べごろです。
この鍋には、小麦粉をねじったマントウのようなものと、トウモロコシの粉を発酵させたパンを入れ、鍋と一緒に煮込みます。
そして、こんな風に取り分けていただきます。煮汁が染み込んだふわふわのマントウもそうですし、酸味が利いたトウモロコシパンもおいしいです。肉もホロホロで濃厚です。
そして「国産二元豚肉と発酵白菜の煮込み(酸菜白肉)」。
酸菜を使った東北鉄鍋炖を代表するメニューで、豚バラ肉や豆腐、春雨などと一緒に煮込みます。酸菜のさわやかなコクと酸味が肉をやさしく包んでおいしいです。
ほかにもこの店では、鶏肉とキノコの醤油煮込み「笨鷄炖蘑菇(ベンジードゥンモーグー)」や、トマトや野菜をラム肉スペアリブと一緒に煮込んだ「清炖羊肉(チンドゥンヤンロウ)」、塩漬けして発酵させた高菜を白身魚と一緒に煮込む「酸菜魚(スァンツァイユィ)」、四川料理の白身魚の麻辣煮込みの「水煮魚(シュイジゥユィ)」、塩漬けにしたトマトと魚を一緒に漬けて同じく発酵した米とを鶏のダシで溶いた「酸湯」スープでラムの肉団子や野菜をしゃぶしゃぶする「酸湯小肥羊(スァンタンシャオフェイヤン)」などが食べられます。
さて、先ほどの酸菜は、中国東北地方のソウルフードのひとつで、冬が近づくと、白菜をかめで塩漬けして、発酵させてよく食べるのですが、味坊鉄鍋荘では自家製の酸菜を提供しています。
梁さんの話では、いまでは毎月のように、年中酸菜を漬けているそうです。
あるウエブ記事で梁さんが酸菜の手づくり教室をやっていました。こちらです。
この店で酸菜を漬けているのは、この女性。黒龍江省ハルビン出身の馬延平さんです。
2010年に来日した彼女は、2012年から味坊集団で働いているそうです。鉄鍋料理も彼女がつくっています。手前にある大きな鍋がこの店の鶏ダシスープで、あらゆる鍋料理に使います。
馬さんによると、酸菜は白菜を千切りにして、塩を入れてしぼると水気が出るので、その塩水を捨てて、水で洗い流したものをもう一度しぼって密封した容器に入れます。食べられるようになるには20日以上は置くそうです。
味坊鉄鍋荘は、ごく普通の住宅街の中にあるのですが、店内に入ると、まるで中国東北地方の食堂のようで、とても不思議な気分になるお店です。ぜひ訪ねて、馬さんに声をかけてあげてください。
(東京ディープチャイナ研究会)
店舗情報
味坊鉄鍋荘
台東区上野1-12-9
03-5826-4945